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    ロンドンと東京、英国と日本。遠く離れた二つの地を、酒と人の物語でつなぎます。
    イギリスのかたち

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    新・英国料理

    • 魚介類が並んだバラ・マーケット
      魚介類が並んだバラ・マーケット

     記者がロンドンで暮らして感じたのは、食の多様性。世界中の人が集まっているから、いろんな料理が楽しめる。寿司(すし)や刺し身といった日本食を西洋風にアレンジしたり、フレンチやイタリアンを伝統的なイギリス料理に組み合わせたりする「フュージョン」料理も盛ん。

     どのレストランに行っても必ずあるのがベジタリアンメニュー。移民の多いロンドンのイースト・エンド、リバプール・ストリート駅に近いブリック・レーン(Brick Lane)では、南アジア出身者が経営する安くておいしいカレー屋がひしめいているが、野菜や香辛料をうまく使い、肉や魚がなくても物足りないとは思わせない。

    • バラ・マーケットでパエリアの試食を勧める男性
      バラ・マーケットでパエリアの試食を勧める男性

     食文化を支えているのが豊富な食材。ロンドン・ブリッジのそばにある「バラ・マーケット(Borough Market)」のような市場に行けば、ヨーロッパ中から見たこともない野菜や魚介類が集まっている。チーズや香辛料も豊富。「ロンドンの食材は世界最高峰。パリよりも多い。不思議なものがいっぱいあって料理してみたくなる。日本に戻ると、食材が少なくてがっかりするの」と野々下さん。

     それまで捨てられていた動物の内臓を使い、新たな英国料理の伝統をつくったと評される「セント・ジョン(St.John)」のオーナーシェフ、ファーガス・ヘンダーソンはイギリス人。子牛の骨髄とパセリのサラダ、牛の心臓のグリル、ハトやダックの内臓を使ったテリーヌ。自国産の食材にこだわり、新・英国料理の伝統を打ち立てつつある。

    • セント・ジョン名物の子豚の丸焼き
      セント・ジョン名物の子豚の丸焼き

     野々下さんによると、ロンドンは今、爆発的な飲食店ブーム。「猫も杓子(しゃくし)も参入し、ものすごい競争。本に紹介されている店に行ってみたら、シェフが引き抜かれて味が変わっていたり、別な店になったりしているのは日常茶飯事」。イギリス社会が旧植民地を含む多くの国から、移民と彼らの文化を吸収しながら発展してきたように、イギリス料理もまた、様々な食材に食文化を取り込みながら変貌を遂げている。

    イギリスにありそうな店

    • 「ようやく夢が実現した」と話す野々下さん
      「ようやく夢が実現した」と話す野々下さん

     「イギリス料理を出す店というよりも、イギリスにありそうな店をやりたいの」。野々下さんはそう言うと、「そこは大きな違いなんです」と力を込めた。牛肉の赤ワイン煮やキッシュはフランスが発祥とされるが、イギリス人はもうフランス料理と思って食べていない。確かにロンドンでも、イギリス料理ばかり出す店は見なかった。イギリスの香り、良さを残しながらも、いいものはどんどん取り入れる。それがイギリス流――。

     野々下さんが目指すのは、イギリスに昔住んでいた人が来て、どこか懐かしいと思ってもらえるような店。きらびやかな料理はない。料理業界に知り合いもいなければ、認められたいという野心もない。「イギリスに行かなくても、そこにいる気分になれるように、ロンドンのソーホーにありそうな店をつくったんです」

     音楽、内装、食器、レシピ……。すべては自分好み。「自分がやりたかったことを、全部ここでかなえられた。ずいぶんと回り道をして、二十何年かかりましたけど、この店ですべてが結実した感じです」。野々下さんにとって、この店はイギリスそのものなのだ。

     (メディア局編集部 小坂剛)


    2015年04月14日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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