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コビトカバの子が鳴かない納得の理由とは?

2011年6月22日生まれなので、その時期に花を咲かせる植物からとって「ナツメ」と命名(2011年7月撮影)

 2011年4月からコビトカバを担当することになり、ほぼ1年が過ぎようとしています。コビトカバは、西アフリカのジャングルにすむ、夜行性の草食動物です。見た目はカバに似ていますが、体長は1.5〜1.7メートル、体重160〜240キロとずっと小さく、カバの祖先の姿を保った貴重な動物です。カバと違い、出産も哺乳も陸上で行います。ジャイアントパンダ、オカピと並び、「世界三大珍獣」と言われています。

 ここ数年、ショウヘイ(オス)とエボニー(メス)のペアに継続的に繁殖が見られます。諸先輩方の積み上げてきた努力と技術により、安定的な飼育が行われているわけです。動物園の動物は、生態や行動など、全てが解明されていると思われる方も多いことでしょう。しかしながら、実際には、動物園で飼われているからといって、全てがわかっている動物ばかりではありません。コビトカバも、野生での観察例がきわめて少なく、実際の生態はよくわかっていません。

巣穴に子を残して食事に

オス1頭、メス3頭のコビトカバが上野で暮らす(2011年7月撮影)

 昨年のコビトカバの一番のニュースは、エボニーの8番目の子「ナツメ」の誕生です。飼育に携わりながらナツメの成長を見守ってきた中で、とても面白く感じたのは、ヒトとコビトカバの赤ん坊の違いです。「そりゃあ形も違うし、食べるものも違うのだから当然!」と思うかもしれませんが、ところがどっこい、見た目だけではないのです。

 コビトカバの新生児の特徴は、まず「鳴かない」ということです。次に「何かあると(怖がると)動かない」。3番目に「授乳回数が少ない」。1日にせいぜい4〜5回程度、5〜6時間おきです。最初は「母乳が出ていないのではないか」とか「子の四肢や神経に異常があるのでは」と心配しましたが、観察していても異常は見当たりません。

 調べてみると、野生のコビトカバは木のウロや他の動物が放棄した巣穴を利用して子育てをし、親は巣穴に子を残して採食に出かけるらしい、という資料がありました。実際の様子と資料を照らし合わせると、なるほどガッテンです。

 つまり、巣穴に残された子は鳴きわめいていると保護者のいない状況で捕食者・天敵に見つかりやすい状況を作りだしてしまいます。そのリスクを回避するには、ひたすらじっと静かに親の帰りを待つのが安全なわけです。授乳回数が少ないのも、親の採食時間と関係している(草食獣なので採食にかける時間が長い)ためと思われます。

動物園で動物を見る目的

 動物について得られる知見は、もちろん野生でのフィールド観察によるものが大きいのですが、なかなか観察できないもの。特に同一個体の一生を追うことは、動物園の動物ならではのこと。飼育する者としてはこのような発見(ともいえないような小さな出来事でも)をまのあたりにするのは、とてもラッキーで楽しい瞬間だと思います。

 「動物園で動物を見る目的」は、人によりさまざまでしょうが、私が思う「目的」は最終的には「ヒト」を知ることかと思います。他人と比べることで己を知るように、他の動物と見比べることで「ヒト」が理解できるのではないでしょうか。「ヒトがヒトらしく生きるには」「動物が動物らしい」とは、どういうことかを理解し、比べることが必要なのではないでしょうか。そのためにも動物の「その動物らしい姿」を伝えることができるようにこれからも努力していきますので、ぜひ、じっくり観察にいらしてください。

 (上野動物園 西園 飼育展示係 飛田英一朗)


上野動物園公式ホームページ
http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/

2012年2月22日  読売新聞)


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(2012年5月22日)[全文へ]

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