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個性的な酒蔵を訪ねて…岡山・備中めぐり(1)

聖武天皇の命によって建立された備中国分寺。県内唯一の五重塔

 岡山県は備中、備前、美作の三つのエリアに分かれ、県の西側に位置するのが備中である。

 美観地区が整う倉敷をはじめ本陣の残る矢掛、レトロ感漂う玉島、地ラーメンが人気の笠岡など、ぶらり歩きが楽しい町並みが備中には多く、地酒造りに魂を込める酒蔵も点在する。今回から4回にわたり岡山県備中地域の旅の魅力をレポートしよう。

備中にこだわった酒造り

備中の総社市にある三宅酒蔵。代表銘柄は「粋府(すいふ)」で、大吟醸、純米吟醸などが揃う

 総社市には江戸時代後期に20年余りをかけて再建された、備中国分寺の五重塔がある。それを正面に眺める好立地に明治38年創業の三宅酒造があった。迎えてくれた代表取締役の小沢慎さんは、酒蔵の2階を利用して「酒造資料館」を開き、「酒づくり大学」を主宰。日本酒をより多くの人に知ってもらうための活動にも取り組んでいる。

 「ここは大昔に大和の国や九州と並んで繁栄した吉備の国の中心地。周囲には古墳もあるし、『桃太郎』に関連して鬼伝説が残る歴史ある土地です。この地にふさわしいお酒を造りたいといつも考えています」と、小沢さんが口にした。

酒蔵の2階を利用して開いた酒造資料館で醸造法の歴史について話を伺う。左が小沢さん、右はきき酒師でエッセイストの葉石かおりさん

 新しい試みはすでに始まっている。酒づくり大学参加者などの協力を得て、異国から来た鬼が造ったと伝わる「鬼ノ城」の麓に棚田を整え、無農薬で酒米を育て始めた。植えた酒米は「(みやこ)」。ペリー来航前年の寛永5年から備中で盛んに育てられた背が高く、粒が大きな品種で酒造りには適していたが、風に弱いなどの欠点があり大正時代に姿を消した。それが県内の農業試験場に保存されていた。

 「新しいものを造るのなら、どこにもない米にしようと思い、『都』に決めました。吉備の特徴が出せる酒米だと思っています」

 備中にこだわった日本酒として、「都」で造った純米大吟醸は、三宅酒造の最上級のお酒にラインナップされている。

 話を聞けば聞くほど小沢さんの言葉の節々に、吉備の国と備中の酒の誇りが感じられた。そもそも、備中の酒とはどういったものなのだろう。

米、水、そして備中杜氏

備中の中央部を流れる高梁川。高梁川の豊かな伏流水が酒の源になる

 首都圏に暮らしていると備中の酒を口にすることはほとんどない。したがって、備中の酒に特筆すべき点があるのを知らずにいる。

 しかし、調べれば調べるほど備中の酒に惹かれてしまう。

 古くは「万葉集」に吉備の酒が詠まれており、贈答品として登場しているのだから、700年代から酒造りが盛んで、評判が高かったのがうかがえる。

 酒米という点でもおもしろい。「都」もしかりだが、岡山県南を中心に栽培される「雄町(おまち)」もまた特筆すべき酒米だ。「日本一の酒米」と評価されるこの品種は、現存する酒米のなかで唯一の掛け合わせのない純粋種なのである。

 さらに、「朝日」「アケボノ」といった米もまた、岡山でしか栽培されていない品種。冷めても硬くならない特徴があり、地元では醸造だけでなく、「ばら寿司」や「ママカリ寿司」にも用いられている。

復活させた「都」。ほかの稲に比べて圧倒的に背が高いのがわかる。粒も大きく酒に向く品種だ

 恵まれたのは米だけではない。備中の中央部を北から南まで高梁川が貫く。カルシウムなどを含む高梁川の伏流水は穏やかな軟水で、酒造りに向いていた。

 これだけ条件がそろえば人も育つ。多いときには2000人を超える酒蔵関係者がいて、「備中杜氏(とうじ)」と呼ばれた彼らは備中や灘の酒蔵で力を発揮した。

 生まれた酒の評価は高かった。明治40年に開催された「第1回全国清酒品評会」では、全国の2000を超える酒のなかから、なんと5点が優秀賞を授かっているのである。

引き続き個性的な酒蔵へ

「ヨイキゲン」の新しい井戸からは、やや硬く味わい深い水が出た。これも高梁川の恩恵だ

 次に訪れたのは高梁川のすぐ横にある酒蔵「ヨイキゲン」。銘柄である「酔機嫌」を社名にした酒蔵だ。

 訪れてすぐに「新しい井戸を掘りました」と、代表取締役の渡邊信行さんが蔵の裏に案内してくれた。

 直径7センチほどのチューブからは、勢いよく高梁川の伏流水が噴き出している。舐めればやや硬く、それでいて深みとほどよい甘みがある。

 「地元で収穫された『雄町』『あけぼの』を主に自家精米し、低温発酵で丁寧にお酒を造っています。新しい井戸の水がどんな影響をもたらせてくれるのか。今年の冬が楽しみです」と、渡邊さんが笑顔を見せた。

地元の米を使い、自家精米で醸造する渡邊さん。仕込みが始まると目に輝きが増す

 「菊池酒造」は昭和レトロ漂う玉島の町にある。広島国税局清酒鑑評会の吟醸、純米、本醸造の3部門で6年連続優秀賞を獲得するほか岡山県知事賞受賞酒、「燦然(さんぜん)」を造るほどの力をもつ酒蔵だ。

 「一度飲んだら忘れられないお酒を造りたい」と話す代表取締役の菊池東さんは、基本を大事に斬新な挑戦も忘れない。無農薬、無肥料米による酒造り、玄米による酒造りなどがその一例だろう。

モーツアルト流れる酒蔵で元気に成長する麹カビの状況をチェックする菊池さんと葉石さん

 ユニークなのは酒蔵にモーツァルトが流れていることだ。5歳からバイオリンを始め、倉敷管弦楽団の常任指揮者を務める菊池さんは音楽の力の利用を試みた。

 「ある学校が音楽の効果を調べたところ、発酵に必要な麹カビの成長が早かったのです」と菊池さん。アイデアもよい酒を造るうえで大切な要素だ。

無農薬・無肥料米や玄米による醸造などの菊池さんのアイデアを杜氏たちがかたちにする

 訪ねてみてわかったことがある。備中には物語のある酒が多いのだ。そして、それは味わい深さという形で実を結んでいる。

葉石かおりさん、備中の酒を飲む

 きき酒師&焼酎アドバイザーであり、テレビ・ラジオ・雑誌などで活躍している葉石かおりさんにも備中の旅を同行していただいた。

 「酒蔵によって味も香りも異なりますが、備中のお酒は全体的に甘さと辛さのバランスがよく、女性にも飲みやすいお酒が多い印象です。瀬戸内海のお魚と一緒に飲みたいお酒や熱燗に向いているお酒がありました」

 地元や関西エリアで飲まれてしまうために、首都圏の酒好きでもあまり口にできない備中のお酒。葉石さんも、いくつもの銘柄の試飲を楽しんでいた。(取材と文・木場 新)

2011年12月28日  読売新聞)


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