名物麺を味わう…岡山・備中めぐり(4)
岡山県備中地域への旅の最終回は「おいしい麺」を訪ねる。備中には名物麺がいくつもあるが、特に評判なのが「手延べ麺」「ラーメン」、そして「やきそば」だ。地域とみごとにコラボレートした名物麺を探ってみよう。
9世紀から始まった手延べ麺作り
首都圏で岡山の食の名物を尋ねたとき、「きびだんご、桃、マスカット」の回答が返ってきても、それ以外の答えをほとんど聞かない。それはなぜだろう。備中を旅すると、その原因がおぼろげながら浮かんでくる。
備中の銘酒には瀬戸内海の地魚が合う。特産の牡カキもミルキーでなかなかうまい。岡山ならではの米を使ったママカリ寿司があれば、焼鳥だっていけるし、フルーツも豊富。そして、なによりも水がおいしい。
豊穣の海と多くの水源、瀬戸内特有の温暖な気候に恵まれた備中は“食”に恵まれた土地だ。むしろ名産品が多すぎて、逆に首都圏に「これ!」が伝わって来にくいのだ。
海と山の幸、“おいしい酒”が豊富なのに加えて麺類が名物であるのを、備中に旅して初めて知った。歴史の長さからいえば、名物麺の代表は手延べ麺だろう。
日本の麺の事始めには諸説あるが、「遣唐使が活躍した西暦600年代に大陸より伝わった」という説が有力だ。それから200年後には「吉備の国に麦切と称して広く分布され…」と、麺作りに触れた文献が残っている。とくに
背後の山々の恩恵で美しい水があった。温暖な土地のために麦の栽培が盛んだった。さらに、瀬戸内海の沿岸で塩の精製が行われていた。水と小麦粉と塩があれば、麺製造が盛んにならないわけがない。
江戸時代後半以降は水車を使った
現在でもその伝統は生きており、「麺づくり体験」、「夏のそうめん流し」などのイベントが実施されている。
鶏ガラ出汁と煮鶏の笠岡ラーメン
鴨方からさらに西に行けば、「ラーメンのまち笠岡」(笠岡市)がある。
それほど大きくないエリアに30軒を超えるラーメン店が点在し、週に数回やって来る常連を始め、「一度は食べたかった」という客が訪れる。取材のために開店時間前に訪れたのだが、すでに店外には客が並ぶほどなのだ。
笠岡のラーメン店の最大の特徴は“鶏ガラスープ”にある。
晴れの日が多いほど活発に産卵してくれることから、晴天率のよい笠岡では養鶏業が盛んである。養鶏専門業者だけではなく、個人宅でも鶏を飼うのが当たり前の時代があり、昭和初期には1300軒あまりが鶏を飼っていたという。
鶏卵や鶏肉がもっとも馴染みのある食材だった戦前の笠岡に、親鶏ガラスープに親鶏腿肉の醤油煮、メンマがのったストレート麺の醤油味中華が生まれたのは不思議ではない。
慣れ親しんでいる鶏ガラスープを用いたラーメンは、たちまち地元の人々を魅了する。それが笠岡ラーメンの始まりである。
正統派 “笠岡ラーメン”は鶏ガラまたは鶏ガラに瀬戸内海産のアゴやイリコを加えた醤油味スープ。チャーシューではなく煮鶏がトッピングされたものだ。しかし、最近では各店がアレンジした個性的なラーメンも加わり、「ラーメンのまち」として活況を呈している。
学校給食から生まれた人気B級グルメ
1000年以上前から備中に根付いた手延べ麺。戦前に生まれた笠岡ラーメン。これらはいずれも地域の特性が生んだものだろう。
ところで、近年はB級グルメブームである。ひとたび優勝すれば経済効果を生んで地域の振興に役立つ。岡山県でも「ひるぜん焼きそば」が平成23年に姫路で開催されたB-1グランプリのゴールドグランプリに輝いて一躍注目を集めた。
さまざまな効果が期待できるだけに、このごろでは「B級グルメのためのB級グルメ」といえる食も誕生している。ある地方で「この地域のB級グルメです」と紹介されたものは、食材も物語もその土地との関連性がなく、「B級グルメ」で注目を集めたいがために作ったものだった。これでは共感できない。
備中にも新たなB級グルメが誕生して脚光を浴びつつある。気になるのは、そのルーツが土地と関係しているかどうかだ。
そのB級グルメのルーツが初めて登場するのは昭和50年代の岡山県川上町(現
その名は「備中高梁インディアントマト焼そば」。
口に入れればカレーのスパイシーな味わいをトマトのやさしい酸味が包む。店主に尋ねると、市内の参加店ではそれぞれのレシピで提供されているという。他店のインディアントマト焼そばも個性的で美味に違いない。
首都圏では食べる機会がなかった、風土が生んだ備中の名物麺。訪れた土地を知り、新たな味と巡り合うのも旅の楽しさである。
葉石かおりさん、笠岡ラーメンを食べる
きき酒師&焼酎アドバイザーであり、テレビ・ラジオ・雑誌などで活躍している葉石かおりさんも備中の名物麺を味わった。
「さまざまな土地のラーメンを食べましたが、笠岡ラーメンは鶏ガラスープがあっさりとしていて、毎日でも食べられる味わいです。とくに、しだはらのスープは感動もので最後までいただいてしまいました」(取材と文/木場 新)
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