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光の城の幻想的な「日常」…川崎

千鳥町の市営埠頭前。闇に浮かぶ工場の明かりと水蒸気が幻想的な光景を作り出す

 東京駅前、午後4時20分。バスは42人の客を乗せて満席で走り出した。

 目指すは「川崎工場夜景スポット」。2年ほど前から、ずっと行ってみたかったところだ。

 きっかけは、「ランニング・オン・エンプティ」という映画。地べたを駆ける主人公たちの背後で皓々(こうこう)と輝く工場群の威容に興味を引かれた。日常と隣り合わせに存在する非日常そのもの、のように見えたのだ。

 週に1度、東京からのはとバスツアーがあると知り、参加を決めた。川崎のコリアタウンで焼き肉を食べてから、臨海部を巡り夜の工場群を眺めるという。

 川崎市観光協会観光推進部長の亀山安之さんによると、こうしたツアーは「市が推進する産業観光の裾野を広げるためのアイデア」。民間会社の協力を得て2010年春から定期運行。東日本大震災後に一時中断したものの人気は続き、毎回満席になるという。工場夜景の注目度は、07年の「工場()え」という本の出版を機に上がったが、多数の工場が密集する川崎臨海部はとりわけ人気らしい。

 焼き肉店での食事が終わると、夜の始まり。ここからこの夜の案内役、川崎工場夜景ナビゲーターの若井伸枝さんと國治子さんがツアーに合流する。ふたりとも工場夜景のガイドとして活躍中の市民ボランティアだ。

 「みなさん、パイプはお好きですか?」。工場地帯を走る配管が見え始めると、若井さんが語りかけてきた。「工場好きにはたまりません。整然として無駄がない。見ていてすっきりしていて心癒やされる」。なるほど、人工の構造美も、工場人気の要因というわけか。

明るいガイドさんの案内で、はとバスツアーはスタート
時には夜空をオレンジに染めるというフレアスタックの炎も、ツアーの見どころ

 川崎マリエン(川崎市港湾振興会館)10階展望室から、無数の光がまたたく夜の工場地帯をぐるり見渡す。と、「工場地帯の光は、作業のため。見せるためではありません」との説明。非日常の正体は、工場の日常なのだ。

 その後は、ながめのいいスポットを転々。中でも市営埠頭(ふとう)前での光景は幻想的だった。工場の光。それを反射する引き込み線。煙突から噴き出す蒸気が闇の中を流れていく。振り向けば、余剰ガスを燃やす赤く大きな炎、フレアスタック。周囲360度、見えるものすべてが異様な迫力。「水蒸気がよく見えるのは冬。それが見えると見えないでは躍動感がまったく違ってくる」と國さん。寒いけど来て良かった。

 それからはあっという間。羽田空港を望みながら、離着陸する飛行機の光とフレアスタックの競演を楽しみ、光の城のごとき工場に息をのむ。東京への帰路、首都高速から見た工場群の光の帯もすさまじかった。

 ツアーの最後に教えてもらったのは、臨海部でのあいさつ。出会いも別れも、「ご安全に」なのだという。

 巨大工場を作り、動かすのは人間。でも、万能ではない。それを忘れてはいけないのだ――。そんなことを考えているうちに、バスは元来た場所に、私は日常に戻る時がやってきた。出発から約5時間。短いけれど、旅だった。(恩田泰子、写真も)

 ●あし 東京駅前発のはとバスツアー「話題の川崎工場夜景スポット」は毎週土曜日催行。東京駅から川崎駅まではJRで20分。

 ●問い合わせ はとバス予約センター=(電)03・3761・1100。

2012年2月16日  読売新聞)


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(2012年5月22日)[全文へ]

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