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首都圏きってのミニ路線…流鉄流山線を途中下車(前編)

見落としそうな始発駅

ミニローカル線の旅は、ここから始まる

 JR常磐線・松戸駅から東に2駅進み、馬橋(まばし)駅で下車、いったん外に出てみる。

 駅前にはチェーン展開のラーメン屋、居酒屋。「仕事帰りにハイボール」と書かれたノボリが風に揺れ、何の変哲もない今どきの駅前風景。そして大きな駅舎に「流鉄」の文字は見当たらない。予備知識なしで来たら、ここがミニ鉄道始発駅だとは気づかないだろう。

 駅に入るとコンコースの途中に「流山(ながれやま)線」と書かれた看板は下がっていたが小さくて、行き交う人波に埋もれてしまいそうだった。

 千葉県北西部、馬橋駅(松戸市)と流山駅(流山市)を結ぶ流鉄流山線は全長5.7km、全6駅のミニ路線だ。営業開始は大正5(1916)年と古く、開業から96年。創業当時の株主に流山町民が多かったため「町民鉄道」の呼び名で愛され、乗客を粛々と運び続けている。

 ただ「つくばエクスプレス」が開業し、都心から流山市内へのアクセスは格段に良くなった。良くなりすぎて――流山線に客がちゃんと乗っているか心配になった。あと4年で100年を迎えるミニ鉄道を応援したいと勝手に思い、寒さにもめげず(気温5度!)、途中下車旅に出かけてみたのである。

鰭ヶ崎駅で降りてみる

流鉄流山線は2両編成。写真は「流星」号

 流鉄ホームに向かうと早速驚いた。改札が自動じゃない! パスモが使えない! 券売機で切符を買い、駅員さんがいる改札を通る。カードを「ピッ」と当て改札を通るのにすっかり慣れていたので、ひたすら新鮮だ。

 ホームの屋根と支柱は木造。そして滑り込んできた列車は、青地に白いラインの「青空」号、2両編成。ほかに車両は「なの花」「流星」「流馬」が走っていて、名前付き2両列車が「都心からけっこう近い町」にいることを、完全に忘れさせてくれる。

 ジリリリと懐かしい発車ベルが響き、青空号は馬橋駅を出発。乗客はオバアちゃんひとりを含むご婦人4人、そして僕。路線は単線で、ガタンゴトンと揺れながら、民家の軒先をスレスレにかすめて進んでいく。窓のすぐ向こうに洗濯物が揺れ、時おり小さな畑も現れる。進むほどに、景色が時を遡っていく。

 1駅目の「幸谷(こうや)」に着くがまだ降りない。ここはJR新松戸駅が近く、都会的な駅前風景が予想される。それにここはまだ松戸市だ。流山線の旅だから、流山市内に入ったら降りよう。

鰭ヶ崎の駅を降りて、駅前通りを歩く

 2駅目の「小金城趾(こがねじょうし)」も、まだ松戸市内。ここで早くも列車交換が行われ、馬橋行きの列車が対面ホームに滑り込む。黄色地の「なの花」号。向かいの席に座る子どもが「でんちゃだ!」と叫び、若いお母さんが「そう、でんちゃね」と答える。心が洗われる。

 ジリリ。ベリが短く鳴り小金城趾駅を発車、したと思ったらすぐ減速して次の「鰭ヶ崎(ひれがさき)」駅へ。ここから流山市内、そして鰭ヶ崎駅は開業当時からの古い駅だ。降りてみよう。

 降りたのは僕を含め2人だけ。駅員さんに切符を渡し、駅のベンチをふと見ると、手編みカバー付き座布団が置かれている。たった6段の階段を下りて駅前に出ると、静かな住宅街。人気(ひとけ)はなく、足元をネコが通りニャーンと鳴いた。

パン屋、煎餅屋、和菓子屋をはしご

 さてと、降りたもののどうしようか……とキョロキョロした瞬間に「パン」の2文字が目に飛び込んだ。駅のすぐ隣にパン屋が、それも年季の入った1軒が立っている。朝飯を食べていなかったので、迷わずパン屋「丸十パン店」に入ってみた。こんにちはー。

 「はーい。あら、ケンちゃんかしら」

焼きたてのパンが並ぶ。どれにしようかな

 違います。階段をトントンと下りる音がして、奥さんが顔を出す。そして棚にはパンがいっぱい。焼きたてらしく、ホクホクと(こう)ばしい香りが漂っている。どれにしようか。

 ……と迷う間もなく「コレにしましょう!」と奥さんが、大きなパンを差し出した。食パン1斤ほどあり、ひとりで食べるにはかなり大きい! でも、

 「リンゴが入って本当に美味(おい)しいのよ!」

 と言うから本当なのだろう。薦められるまま大きな「ハイレーズンブレッド」と、分厚い食パンにから揚げを挟んだサンドウィッチも買い、合わせて500円ナリ。店は昭和41年からで、もうこの場所で46年だという。

 「昔は流山線を使う人が、みんなこの(店の前の)道を通って、お客さんもたくさん来てくれましたよ」「すぐそこに大学(東洋学園大学)もあって、学生さんもいっぱい来たの。卒業のときは一緒に写真撮ってね。でも今は(JR武蔵野線)南流山駅から大学に、無料バスが出ているから……」

 さすがに駅利用者も、通学途中にパンを買う学生も減っているようだが、それでも流鉄の話をする奥さんは笑顔が絶えず(うれ)しそう。

 レーズンブレッドは手に取ると、まだほんのり温かい。どこか落ち着く場所を見つけて食べよう。少しブラブラして寺を見つけ、入り口の段差に座り、パンにかぶりついた。

踏切を「なの花」号が通過

 フワフワのモチモチ。もの凄い勢いで食べていると、青い制服姿のオジさんが数人やって来て、缶コーヒー片手に段差に座る。

 「あー疲れたー」「疲れたねー」

 と言うオジさんたちの制服の胸には「警視庁」の文字。何かの捜査で来ているようだが緊迫感は全くない。東京から近いのに、警視庁なのに……のどかな街だ。

 そのまま道を進むと、突然大通りに出てしまった。巨大ラーメン屋に巨大紳士服店、巨大な店ばかり。そして住所はもう「南流山」で、鰭ヶ崎駅前の外に出てしまったようだ。慌てて路地に戻り、大学があるほうに向かってみる。踏切を渡り狭い道を進むと「流山せんべい」の看板が。店頭のガラスケースに煎餅(せんべい)がギッシリ。桜の花を(かたど)った「さくら」、ハート形の「うす焼き」と、醤油(しょうゆ)が焦げて芳ばしそうな「(いかづち)(やき)」を買う。

 「店は25年になります」

焼きあがった煎餅から醤油が焦げた香りが芳ばしく漂う

 煎餅を袋に丁寧に詰めながら、眼鏡姿の穏やかそうなご主人がポツポツと話し出す。「土日は流鉄の写真を撮りに来る人が多いですよ」「地方から出てきた学生が多いから、こういう味は懐かしいんでしょうね。けっこう寄ってくれます」――良かった。小さな駅前はそれなりに、にぎわっているらしい。

 煎餅は売り場横の小さなスペースで、1日1000枚以上も焼くという。今はもう生産されていない大谷石(おおやいし)の窯で焼き、まさにいま乾燥中。焼きたてを1枚いただくと、醤油が焦げた芳ばしい香り、そして食感はパリッというよりもモチッ。

 「この辺もお年寄りが多くなりましたから、少しやわらかめに焼いています」

 ご主人はそう言って、柔らかく微笑(ほほえ)むのだった。そして、

 「この先にもう1軒、〈美しまや〉という古い和菓子屋があります。(のぞ)いてみてください

 と言う。ワラシベ長者のように(つな)がる縁を感じ、僕は言われるまま「美しまや」に向かってみた。(後編に続く)

東京onedayスキマ旅 写真特集

丸十パン店
千葉県流山市鰭ヶ崎1437-4
TEL04-7158-0771
営業7:30ごろ〜19:00ごろ
無休
流山せんべい
千葉県流山市鰭ヶ崎1475-6
TEL04-7159-3859
営業9:00〜19:30
火曜定休
美しまや
千葉県流山市鰭ヶ崎1452-3
TEL04-7159-0546
営業9:00〜19:30
月曜定休
2012年2月10日  読売新聞)
プロフィール
カベルナリア吉田
旅行ライター。1965年北海道生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞社、情報雑誌「オズマガジン」増刊編集長などを経て2002年よりフリー。沖縄や離島を舞台にした紀行文を単行本と雑誌で発表している。近著に「オキナワ マヨナカ」「沖縄の島を自転車でとことん走ってみたサー」などがある。
カベルナリア吉田さんの写真


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(2012年5月22日)[全文へ]

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