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幸せの国ブータン(3)旅の終わりに

家の仏間でお祈りをするデマさん(ポブジカで)

 寒さに震えながら朝を迎えました。あたりは真っ暗。村でのホームステイは今日でおしまい。別の場所で取材するために暗いうちから出発となりました。昨夜のうちにソナム・ユデンさんらホストファミリーにお別れのあいさつをしていたのですが、ソナムさんのお母さんが起きてきてコーヒーを入れてくれました。辺り一面霜に覆われたポブジカの谷。肌に突き刺すような冷気が身を引き締めます。さて、出発と思ったら車の後部座席のドアが凍り付いているために開きません。しばらくエンジンをふかして、ようやく乗り込むことが出来ました。

巨大な「マニ車」を回す子ども(ティンプーで)

 車で首都ティンプーを目指します。太陽が顔を出すと、徐々に暖かくなり睡魔が襲ってきます。来たときはヒマラヤ山脈の大パノラマにうっとりでしたが、帰りはうとうとしながらのドライブとなりました。

 ブータン滞在は明日まで。今回は「幸せ」をテーマにやってきましたが、漠然としているし、テーマが大きすぎて、答えなど簡単に出るはずもありません。同じ状態でも、それ以前がそれより良ければ、今は幸せと感じるでしょうし、逆であれば今の状態が幸せとは感じられません。あるいは、自分とほかの人のことを比べてみて、自分が幸せなのか、不幸なのか判断する人もいますよね。

寺に集まり、法事をする人たち(ガンテで)

 この国は長く情報が閉ざされていたため、人々は、ほかの国の暮らしをあまり知ることが出来ませんでした。比べることが出来ないために幸せを感じることが出来たのかもしれません。でも、現在はブータンの人たちもテレビやインターネットで、ほかの国の暮らしを知ることが出来るようになりました。ティンプーは近代化が徐々に進んでいるし、「ここで畑仕事をするより、町で働きたい」という声も聞きました。より便利な暮らしを望む気持ちは誰もが持っているように感じました。町ではおしゃれな洋服を身にまとい、新しい鉄筋のマンションに住み、携帯電話を持っている人が増えています。ブータンの人たちもまた、別の価値観の幸せを追求しようとしているのかもしれません。

寺院でお茶を飲む子ども(ガンテで)

 ブータンはチベット仏教です。経文が書かれた、「ダルシン」という旗や回転体の「マニ車」が街中、道中、至る所にあります。都市では、おしゃれな洋服を着た若者が、朝や夕方に祈りをささげに仏塔に集まります。田舎の家には必ず仏間があり、毎朝、祈りをささげます。仏教が心の底にあり、その教えが「幸せ」の中に大きな役割をしているのだと思います。

 ブータンを離れる日。ガイドのドルジさんが空港まで見送ってくれました。「また必ず来てくださいね。待ってまーす」。大きな声で手を振ってくれました。その手には携帯電話が握られていました。

経文が書かれた「ダルシン」が風になびく(ウォンディ・フォダンで)

 経済の発展やIT技術の進化など他国の様子を見ながら、ブータンの人たちはゆっくりと新しい文化を受け入れ、バランスを保ちながら幸せを追求している実験の最中。そんなふうに感じました。

 ブータンから飛び立った飛行機は1時間もすると、人口が日本より多いというバングラデシュの上空を通過します。次に民主化されていないミャンマー上空。近いところに、こんなにも別世界の国々があり、求める幸せの形も違うのでしょう。

 窓の外を流れる雲を眺めていると「必ず来てください」。そう言ってくれたドルジさんの顔が浮かびました。

 「必ず来るからね」。ブータンの素晴らしい人たちと出会った幸せな旅でした。(おわり)

プロフィール
岩波友紀(いわなみ とものり)
2003年入社。写真部、東北総局を経て現在東京本社写真部勤務。

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2012年2月20日  読売新聞)


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(2012年5月22日)[全文へ]

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