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    奈良 シカと共生探る

     奈良公園の東約6キロにある奈良市須山町。収穫直前の田にライトを向けると2頭のシカの目が光った。9月上旬の深夜。LEDに照らされたシカの口元には稲穂があった。よく見ようと少し身を乗り出すと「ピャッ、ピャッ」と鳴いてジャンプしながら走り去った。

    • 9月上旬、稲刈りを目前に控えた「管理地区」の奈良市須山町の田に現れたシカ。奈良公園のシカと違って、山間部にすむシカは夜行性で、警戒心が強く、体も大きい
      9月上旬、稲刈りを目前に控えた「管理地区」の奈良市須山町の田に現れたシカ。奈良公園のシカと違って、山間部にすむシカは夜行性で、警戒心が強く、体も大きい

     柵のない広大な奈良公園を自由に動く国の天然記念物「奈良のシカ」。公園外の農業被害の深刻化で、120頭を上限に捕獲する頭数管理が7月下旬から試験的に始まった。

     春日大社の神鹿しんろくとして古くから大切に保護され、戦後の混乱期など激減の危機も乗り越えてきた。捕獲は、1957年に天然記念物に指定されてからは初めて。奈良公園と周辺を4地区に分け、外側の「管理地区」の地域のシカについて文化財保護法に基づき「現状変更」の許可を受けた。

     「天然記念物に農家が殺される」。管理地区にある同市誓多林せたりん町で農家を営み、鳥獣対策クラブの会長でもある大谷進さん(68)は訴える。「約15年前まではシカの姿なんて見たことなかった。山のエサの減少とともに毎日現れる」

     シカ対策として、集落の田畑は高さ2メートルの柵で囲われているが、フェンスの隙間から入ったり、飛び越えたりすることもしばしば。シカが稲を食べると穂がそぎ取られ、収穫量は減る。大切に育てた作物の被害に意欲をなくす農家も多い。

     県は猟友会と協力し、管理地区の6か所に箱わなを設置している。捕獲後は胃の中身や遺伝子を調べ、食料事情などを調べる。

     奈良県奈良公園室は「すむ場所で差別するのはかわいそうだが仕方ない。奈良時代から続いてきたシカと人間が共生できる環境を守っていきたい」という。

    (写真と文 川崎公太)(8月16日から9月10日に撮影)

    • 「重点保護地区」の奈良公園で鹿せんべいをねだるシカ。古くは万葉集にも歌われ、野生とは思えない人なつこさは、大仏と並び、奈良観光の目玉の一つだ
      「重点保護地区」の奈良公園で鹿せんべいをねだるシカ。古くは万葉集にも歌われ、野生とは思えない人なつこさは、大仏と並び、奈良観光の目玉の一つだ

    • 動物による食害を防ぐため、高さ2メートルの柵で「防御」された田で行われる稲刈り。「収穫が終わるとやっと枕を高くして眠れる。奈良公園のシカはかわいいんだけどね……」と大谷さんは話した(奈良市誓多林町で)
      動物による食害を防ぐため、高さ2メートルの柵で「防御」された田で行われる稲刈り。「収穫が終わるとやっと枕を高くして眠れる。奈良公園のシカはかわいいんだけどね……」と大谷さんは話した(奈良市誓多林町で)

    • 奈良市東部の山間部に設置された箱わな。中には好物の米ぬかが置かれ、10月2日現在、計3頭が捕獲された。11月14日まで設置する(奈良市誓多林町で)
      奈良市東部の山間部に設置された箱わな。中には好物の米ぬかが置かれ、10月2日現在、計3頭が捕獲された。11月14日まで設置する(奈良市誓多林町で)

    • 夜にシカがいた場所を翌朝訪れると、先の方を食べられた稲穂が残っていた。シカは田植え直後の苗と、収穫前の2回食べにくるという(奈良市須山町で)
      夜にシカがいた場所を翌朝訪れると、先の方を食べられた稲穂が残っていた。シカは田植え直後の苗と、収穫前の2回食べにくるという(奈良市須山町で)
    2017年10月02日 15時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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