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最初の一滴 2016年12月20日(火)よみうり大手町ホール

2017年2月1日

 2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことも追い風となって、世界からより一層の注目を集める日本の醤油。そんな醤油の発祥の地である湯浅町では、いまもなお昔ながらの手作り醤油が継承され続けている。
 昨年12月20日、伝統的な町並みを持つことでも知られる湯浅町の魅力や、醤油醸造文化の価値について語り合うとともに、自治体や企業のマッチングを図るシンポジウムがよみうりホール(東京都千代田区)で開催された。世耕弘成経済産業大臣による基調講演や各界の有識者が参加したパネルディスカッション、湯浅町を訪問したマンガ家・里中満智子氏のビデオレポートの模様の一部を紹介する。

主催:
湯浅町
共催:
読売新聞社
後援:
経済産業省、和歌山県、日本醤油協会、和歌山県醤油工業協同組合、日本政府観光局、和歌山県商工会連合会、湯浅町商工会、在京和歌山県人会、関東耐久会

開会挨拶

醤油醸造文化を湯浅から世界へ

上山 章善氏(湯浅町長)

上山 章善氏上山 章善氏(湯浅町長)

 和歌山県中部西岸に位置する湯浅町は、伝統ある文化と豊かな自然が共存する小さな町です。その町並みは、醤油の醸造町として全国で唯一、「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれています。醤油はこの地で誕生し、日本、そして世界へ広がっていきました。本シンポジウムが、醤油醸造文化を次代に継承し、国内外に発信するきっかけになれば幸いです。

基調講演

歴史ある醤油は農産品輸出の手本

世耕 弘成 氏(経済産業大臣)

世耕 弘成 氏世耕 弘成 氏(経済産業大臣)
日本電信電話本社広報部報道担当課長などを経て、参議院和歌山県選挙区補欠選挙に当選。内閣総理大臣補佐官や内閣官房副長官を歴任し、2016年より現職。

 醤油の起源は諸説ありますが、鎌倉時代に宋へ渡った僧侶・覚心が経山寺の味噌の醸造法を持ち帰ったことがきっかけだとする説が有力です。味噌の下にたまった、あるいは作り方を間違えて偶然できたものが醤油だったといわれています。改良を重ねて濃口、淡口とバリエーションが増え、日本の食文化を支える調味料となったのです。

 江戸時代、湯浅町では醤油醸造が町の中心産業として栄えました。全1000戸中の92戸が醤油店だったそうです。その後、和歌山の人々の一部が何らかの理由で千葉に移ったことが、野田などでの醤油醸造の発展につながりました。いま湯浅町に大手醤油メーカーはありません。しかし、昔ながらの手作り醤油を作り続ける老舗が存在しており、白壁の土蔵、格子戸、虫籠窓など、伝統的な町並みも残されています。

 安倍政権では農産品の輸出に力を入れていますが、1600年代に長崎の出島でオランダの東インド貿易会社に手渡された醤油は、我が国から最初に輸出された農産品の一つでしょう。戦後には、大手醤油メーカーがアメリカで粘り強く販売ルートを開拓するなどして、醤油が普及していきました。そんな醤油は農産品輸出の手本だと考えています。

 国としても今後、ASE AN各国で展開を進めるコンビニエンスストアでの販売や、観光資源としての活用など、世界に醤油を広めるための様々なサポートを行っていきます。皆さんも、和歌山の手作り醤油をぜひ家庭で愛用してください。

パネルディスカッション

醤油が育む食文化の未来

各国の料理を支える土台

辻 芳樹氏辻 芳樹氏(学校法人 辻料理学館 辻調理師専門学校 理事長・校長/辻調グループ代表)
1993年、学校法人辻料理学館理事長、辻調理師専門学校校長に就任。九州・沖縄サミットで首脳晩餐会料理監修。国などの各種委員を務めるほか、著書多数。

辻 芳樹氏(学校法人 辻料理学館 辻調理師専門学校 理事長・校長/辻調グループ代表)

 醤油の持つ力が大々的にヨーロッパへ伝わったのは、おそらく1900年のパリ万博。70年代には、パリの3つ星レストランで、私の父・辻静雄(辻調グループ創設者)の名を冠し、醤油を隠し味に使ったメニューが提供されました。一方のアメリカでは、現地の日系人が庶民的な食文化の中に醤油を取り入れていったのです。

 いまやフランス料理を除く西洋料理の大きな潮流は、日本料理の味覚を土台にして形成されているといっても過言ではありません。海外の料理人にとっては、醤油を始めとする加工品の製造プロセスなどをより深く学び、西洋料理に反映させていく時期に来ているでしょう。

 日本の食文化を海外に発信する際は、醤油などの加工品を用いながら、伝統を守ると同時に革新性も重視したプランを立てるべきです。教育者として、技術開発やイノベーションを実践できる若者を育てていきたいと思います。

地域・文化の拠点として

ロバート キャンベル氏ロバート キャンベル氏(日本文学研究者/東京大学大学院教授)
ニューヨーク市出身。専門は江戸・明治時代の文学で、特に江戸中期から明治にかけての漢文学、芸術、思想などに関する研究を行う。各種メディアでも活躍中。

ロバート キャンベル氏(日本文学研究者/東京大学大学院教授)

 イタリアのオリーブオイルや、アメリカのケチャップなど、各国の調味料には、その国のアイデンティティーといえるものがありますが、日本の醤油はこれらとは違う特徴を持ちます。料理をまろやかにしたり、逆にエッジを加えたり、口の中で味の化学反応を起こし、食材そのものの味わいを生かすことができるのです。

 江戸時代には、醤油を使った保存食が食糧難の備えとして役立っており、醤油店は地域のコミュニティづくりにおいて大きな役割を果たしていました。醤油醸造が盛んな町には多くの書物が残されており、「日本の文化的なストーリーの真ん中に醤油がある」ともいえます。

 いまの若者は濃口、淡口だけでなく、卵かけご飯専用のものなど、数種類の醤油を使い分けています。醤油には、日常生活の中でよりしなやかに使っていける可能性が秘められているのではないでしょうか。

各種施策で情報の発信を

上山 章善氏上山 章善氏(湯浅町長)
湯浅町役場、和歌山県教育庁を経て、湯浅町で教育長、助役を歴任し、2008年より現職。有田郡老人福祉施設事務組合(なぎ園)管理者なども務める。

上山 章善氏(湯浅町長)

 日本はもとより、来訪客も迎え入れられるよう、湯浅町に「醤油博物館」を設立したいと考えています。国内外の醤油醸造文化や醤油にまつわる料理などを紹介するこのミュージアムは「重要伝統的建造物群保存地区」に点在する古い醤油蔵などを活用して2020年までに整備するつもりです。

 我が町では2007年に、醤油にゆかりのある自治体や醸造業者が集まる「醤油サミット」の第1回大会を開催しました。今後は、湯浅町から醸造方法が伝わった石川県金沢市大野町など、親子関係にある地域と提携を結んで醤油のあり方を研究する会を立ち上げるのも面白いかもしれません。

 国が支援する「歴史的風致維持向上計画」に沿ってまちづくりを進める湯浅町ですが、文化庁がスタートさせた「日本遺産(Japan Heritage)※」に認定されることも目指し、醤油醸造文化を発信していきます。

醤油は日本人の心

永峰 好美永峰 好美(読売新聞東京本社企画委員)

<コーディネーター>
永峰 好美(読売新聞東京本社企画委員)

 和食がユネスコの文化遺産に登録されて3年。海外での日本食ブームは高まるばかりです。醤油は日本の食文化の核を担う調味料で、その味と香りは私たちのDNAにまとわりついている気がします。誇りを持って醤油にまつわる文化を応援していきたいものです。

伝統と自然が息づく町 湯浅町

 和歌山県有田郡にある面積約20㎢、人口約1万2千人の町。古くは、熊野古道の宿場町や陸運・海運の重要拠点として繁栄した。醤油発祥の地として知られ、醤油醸造の伝統を感じさせる町並みは「重要伝統的建造物群保存地区」に選定。湯浅湾ではあじ、さば、しらすなどが水揚げされ、周囲の山々では有田みかんや三宝柑をはじめとする柑橘類などが収穫される。

Video Report
理想の「食」を叶える調味料

里中 満智子氏(マンガ家)
高校2年生時、第1回講談社新人漫画賞受賞。代表作に「あした輝く」、「アリエスの乙女たち」、「天上の虹」など。文部科学大臣賞など、表彰多数。

 はるか昔から醤の味わいを知る日本人の味覚によって、独自の発展を遂げた我が国の醤油。今回、湯浅町で原材料を大事にする伝統的で誠実な醤油作りを見学しました。このような醤油が世界にもっと広まり、おいしく、ムダなく、健康的な食事を実現する手助けになることを願っています。

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