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お口からはじめる全身の健康 未病フォーラム2016 2016年10月1日(土)東京国際フォーラム ホールB7

2016年11月8日

「未来貢献プロジェクト お口からはじめる全身の健康 未病フォーラム2016」(読売新聞社主催)が10月1日、東京都千代田区の東京国際フォーラムで開かれ、約500人が参加した。3人が講演し、最初に今村聡・日本医師会副会長が、日本の医療の現状や健康寿命を延ばすことの重要性を解説した。続いて天野敦雄・大阪大学歯学研究科長・歯学部長は、口の中を清潔にする「口腔ケア」が全身の健康にもつながると説明、小林弘幸・順天堂大学医学部教授は、自律神経をよく働かせるために、腸内環境を整えることの大切さを呼びかけた。

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府、厚生労働省、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会
協賛:
株式会社ロッテ

基調講演

酒・たばこ 歯茎を損なう

天野 敦雄氏(大阪大学歯学研究科長・歯学部長)

天野 敦雄氏天野 敦雄(あまの・あつお)氏
1958年生まれ。84年、大阪大歯学部卒。2000年から大阪大歯学研究科教授。15年から現職。

 口の健康を守るためには、しっかりと歯を磨き、定期的に歯医者に行くことが大事です。日本人は米国人に比べると、口がきれいかどうかをあまり気にしていないようです。米国人と日本人のどちらが歯を大事にしているかを調べたデータによると、米国人の歯への年間投資は3万6000円なのに対し、日本人は6000円でした。

 かつて歯医者は、虫歯など病気の治療に行くところでした。でも今は違います。病気を予防するために行くところになりました。

 近年、口の健康が寿命や健康に大きく関係していることがわかってきました。

 私たちの口の健康を脅かしているのが歯周病です。

 歯周病は、歯垢に含まれる細菌によって歯茎に炎症が起きる病気です。歯を支える土台の「歯槽骨」が溶け、やがて歯が抜けます。

 歯周病菌は、他人の唾液がついた食べ物を食べたり、飲み物を回し飲みしたりしてうつります。ペットからうつることもあります。

 健康な時、菌の病原性と我々の歯茎の抵抗力のバランスがとれています。それが不健康になると、歯周病菌の病原性が高まります。すると、バランスが崩れて歯周病になるのです。

 実は、歯周病菌がうつるのは18歳以降です。理由はわかりませんが、子供の口には歯周病菌はいません。

 ただ、何らかの理由で18歳以降に歯周病菌がうつっても、実際に歯周病になるのは大体、中年からです。

 感染してから歯周病が発症するまでの間は、未病の状態です。年齢を重ねて、歯磨きをすると歯茎から血が出ることがあります。そんな人は歯医者に行ってクリーニングしてください。そうすると、出血が止まり、健康な口になります。

 歯周病は全身の健康に影響を及ぼします。歯周病菌は、口の中で血が出ているところから血管の中に入り、血流に乗って全身を駆けめぐります。今では、アルツハイマー病や心臓病、糖尿病、がん、骨粗しょう症、関節リウマチなどの病気に関係することがわかってきました。歯科には定期的にかからないとダメです。間隔をあけても、半年に1回は行ってください。3か月に1回がベストです。

 歯周病はサイレントディジーズ(静かなる病気)と呼ばれます。痛みなど自覚症状がないため、気づかぬうちに進行するからです。このため、未病の状態でのケアが大事。歯科にかかるとともに歯ブラシ、歯磨き剤、歯間ブラシ、デンタルフロスなども使ってください。

 歯磨きで一番大事なのは、小刻みに歯をこすって、歯と歯の間に毛先を入れることです。

 全身が健康であることも歯茎の健康に大事です。歯茎の抵抗力が落ちると、歯周病にもなりやすいからです。歯茎は年齢とともにだんだん弱ります。もともと遺伝的に歯茎が弱い人もいます。最後に生活習慣も大切です。寝不足や偏った食生活、運動不足、お酒の飲み過ぎは避けてください。たばこは歯茎に悪影響を及ぼします。ストレスも体に悪いのでさけましょう。

生涯現役 ますます重要

今村 聡氏(日本医師会副会長)

今村 聡氏今村 聡(いまむら・さとし)氏
1951年生まれ。77年、秋田大医学部卒。浜松医科大講師などを経て、99年、聡伸会今村医院理事長。2006年に日本医師会常任理事に就き、12年から現職。

 経済協力開発機構のデータを基に、各国の医療の通知表が作成されています。

 日本は、循環器疾患による死亡率など、ほとんどの項目が最も良いA評価です。一番悪いD評価は一つだけです。それは健康状態の自己評価です。日本人は健康ですかと聞かれると、健康ではないと答えてしまうのです。健康状態の自己評価がDなのは日本だけです。すばらしい医療があるのに、否定的な見方をするのは改めたほうが良いです。自分は健康で幸せだと、前向きに考えていかなければいけないと思います。

 日本の医療水準が高く評価される理由の一つは、誰もが健康保険証一枚で、どこの医療機関にもかかれる、世界一進んだ公的な医療保険制度があるからです。

 日本の平均寿命は男性約80歳、女性約86歳で男女とも世界トップクラスです。しかし、重要なのは健康寿命です。誰の世話にもならず、健康に生きられる年齢のことです。健康寿命は、男性約71歳、女性約74歳です。平均寿命と比べると、男性で9年、女性で12年の差があります。この差を縮めることが大事です。

 日本は超高齢社会を迎えます。私が生まれた1951年当時、5%だった65歳以上の高齢者が今は27%。2060年になると40%になります。日本は断トツで高齢化率が高い国です。

 そこで今後は高齢者にもっと負担してもらおうという動きが予想されます。

 今考えるべきことは、若者の負担をどう減らし、年金や介護、医療など高齢者の社会保障をどう守るのかという点です。医療保険制度など日本の優れた仕組みを守るためには、今までと同じではだめで、一人一人が、自らの健康について考える必要があります。

 健康寿命が延びれば、高齢者が医療や介護を受けることが少なくなります。

 高齢者が元気に働くことはとても健康によく、認知症の予防にもなります。生涯現役社会を作れば、自らが健康で幸せな人生を送るだけでなく、若年世代の負担軽減にもつながります。

 健康と病気の間に未病という概念があります。病気と診断されていないけれど、体に異常が何もないわけではない状態を指します。

 年齢を重ねれば、身体機能など様々な能力は徐々に落ちます。でも予防できる病気もあります。不規則な食事や運動不足、喫煙などの生活習慣で起こる病気です。糖尿病や脳卒中、心臓病、がんなどが当たります。

 まずは、自分の健康状態について相談できる身近なかかりつけ医を持ちましょう。そこできちんと相談するとともに、健康診断やがん検診を受けることです。異常があったら、指導を受けたり、早い時期に受診したりしてください。

 自分の健康を意識してください。体をよく動かすことやバランスのとれた食事も大事です。自覚症状がないから大丈夫だと思わず、きちんと健康診断やがんなどの検診を受けてください。日本がすばらしい国であり続けるため、一人一人が自分の健康を守るという意識を持ってほしいと思います。

腸整えて 自律神経改善

小林 弘幸氏(順天堂大学医学部教授)

小林 弘幸氏小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)氏
1960年生まれ。87年、順天堂大医学部卒。2006年に同大医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクターの資格も持つ。

 健康とは何か。それは私たちの体にある60兆個の細胞に、どれだけ質の良い血液を十分に流すことができるかということです。その血流をコントロールしているのは、自律神経です。生命を維持する大切な神経で、アクセルの働きをする「交感神経」とブレーキ役の「副交感神経」があり、両者がバランス良く働くことで健康を維持しています。

 自律神経がよく機能するにはどうすればいいか。そのカギを握るのが「腸内環境」です。糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症の全てに関係していると言われています。いかに病気にならないかが重要ですが、決めているのが腸内環境。それが最新の研究です。

 腸内細菌の数は100兆個とも、1000兆個とも言われ、重さは1・5キロ・グラムにもなります。ビフィズス菌などの善玉菌が2割、大腸菌などの悪玉菌が1割で、日和見菌というのが7割います。腸内環境がいいかどうかは、日和見菌がどっちの味方をするかだけなんです。不思議なのは、どんなに腸内環境の良い人でも悪玉菌はいる。善玉菌がさぼらないようにするには、悪玉菌がある程度いないといけないからです。

 ただ、悪玉菌が多いと、アンモニアや硫化水素などの毒素を発生させます。それが血管を通って、肝臓や心臓など全身にわたってダメージを与えます。寿命も短くなります。副交感神経の働きが低下します。動物実験では、がんや血管障害などが起きて長生きができなくなります。

 でも、腸内環境というのは変わらないんです。生まれて5か月で決まってしまっているんです。しかし、持っている菌を刺激しておかないと、もっと悪化していく。今ある力をどれだけ最大限に発揮していくかが重要なのです。そのためには、キムチや漬物などの発酵食品をとる必要があります。発酵食品ばかりでもダメで、食物繊維も重要です。1日当たり20~25グラム、レタス8個分とりましょう。生活習慣病は、食物繊維の摂取量が大きく減ってしまったことが関係しています。

 腸内環境は大丈夫ですか。便秘は体や精神面へのダメージが大きいというデータもあります。腸内環境が悪いと、労働生産性が落ちたり、いろんな病気を引き起こしたりします。便秘は60歳を超えてから増えますが、そういう人は若い時にほとんど朝食を取っていないんです。生活習慣の乱れは便秘をもたらします。ストレスによっても、腸の動きは悪くなります。

 健康になる10か条というものがあります。まず早起きし、朝食を必ず食べる。規則的な食事を心がけ、乳酸菌、食物繊維を取る。体を動かし、呼吸を意識する。

 お風呂は40~41度ぐらいのぬるめがいい。ほかには、怒らない、我慢しない。そして、日記を書く。3行でいいです。きょう1日で一番よかったこと、一番失敗したこと、2日前の夕飯のメニューを1行ずつ。最後は、自律神経の機能を向上させる運動です。やはり生活習慣がものすごく重要なんですね。

歯周病 糖尿病と密接

 元気に長生きするには、口の健康維持が欠かせない。虫歯や歯周病などで歯を失い、よくかめないままでは十分に栄養を摂取できず、体力が衰えてしまう。かむことは脳を活性化する効果もある。歯の数が減ると、寿命が短くなる、認知症になりやすい、転倒しやすくなるなどの報告もある。

 国と日本歯科医師会は、80歳になっても自分の歯を20本以上保つことを目指す「8020(ハチマルニイマル)運動」を推進しているが、達成できなくても、入れ歯などでかめる機能を保つことは大切だ。

 また、感染症である歯周病は、全身の様々な病気のリスクになる。特に糖尿病とは密接な関係にあり、互いに症状を悪化させるといわれる。

 病院で手術を受ける患者に歯科治療や口の清掃を積極的に行うことで、病状の回復が早まり、入院日数が短くなったという報告もあり、国は医科と歯科の連携強化に乗り出している。

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