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    植物のミネラル輸送

    我々の健康にかかわるミネラルがどのように土から輸送されるのか?…岡山大学資源植物科学研究所・馬建鋒教授

    ミネラルの輸送体

    • 岡山大学資源植物科学研究所・馬建鋒教授
      岡山大学資源植物科学研究所・馬建鋒教授

     皆さんは毎日、新鮮な野菜や果物を食べて生きている。しかし、植物は何を食べて生きているのか考えたことはあるだろうか。人間には、たんぱく質や炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなどが必要だが、植物が土から吸収する栄養は実はミネラルだけだ。

     しかも必要なミネラルはたったの14種類。窒素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、マンガンなどだ。人間に必要なミネラルは26種類もある。

     ミネラルは、元々は土にある。私は、植物がどうやって土の中のミネラルを吸収して、体の中を輸送しているのかを研究している。土の中には有益なミネラル以外に、有害なミネラルも存在する。カドミウムとかヒ素だ。

     これらのミネラルを輸送するには、トランスポーター(輸送体)という、細胞膜にあるたんぱく質が重要な役割を持つ。輸送体にはいろいろな種類があり、細胞の外のものを中へ輸送したり、中のものを外へ輸送したりしている。きょうは二つの例を紹介したい。

    根から吸収

     一つ目はケイ素(Si)の輸送だ。ケイ素は必須の14種類には含まれないが、植物にとっての有益元素。地殻中に最も豊富に含まれるミネラルで、約28%存在する。地殻中で一番多いのは酸素だが、酸素はミネラルではない。ケイ素は土の中では酸素と結合した状態で存在しており、私たちはケイ素の世界に住んでいると言っても過言ではない。

     ケイ素はわれわれにとっても非常に重要だ。実際、ニワトリにケイ素を与えないと、体が小さくなる。植物もケイ素がたくさんあるとさまざまなストレスに強くなる。例えば病気になりにくくなるほか、虫による被害も小さくなる。台風による雨や風にも強くなる。ケイ素が少なくなると、イネの収穫は悪くなる。イネの安定収穫のため、ケイ素は肥料として使われている。

    • 図1
      図1

     なぜこのような効果があるかというと、葉やもみ殻の表面にケイ素が集積することで硬く丈夫になり、病原菌が侵入しにくくなるためだ。

     では、どうやって土の中のケイ素が植物の体の中に輸送されて、葉やもみ殻にたくさん集まるのか。長い間、どういう分子がかかわっているかわからなかったが、私たちはこの謎を解くことができた。

     まず根からケイ素を吸収する際には三つの輸送体がかかわっている。根の外皮と内皮にあるLsi1とLsi2、地上部へ水分を運ぶ導管の周りにあるLsi3という3種類のたんぱく質だ。Lsi1は土壌中のケイ素をケイ酸の形で細胞の中に運び、Lsi2はケイ酸を細胞外に出す。両者の働きでケイ素は根の中心部に移動し、最終的にLsi3の働きで導管に入る(図1)。

    もみ殻に蓄積

    • 図2
      図2

     導管の水の流れに乗って地上部に行ったケイ素は、再び導管から出さないといけない。それには輸送体Lsi6が必要。地上部の導管の周りにあり、ケイ素を効率的に運び出す。

     イネの場合、ケイ素は葉よりも、もみ殻に多く蓄積される。もみ殻の8%はケイ素だ。葉には5~6%しかない。どうやって、もみ殻の方にケイ素が多く行くのか。根からの水分は葉の方に多く流れるので、普通に考えれば葉の方にケイ素が多くなるはずだ。しかし、実際はもみ殻の方がケイ素は多い。

     この理由は長い間わからなかったが、イネでは穂の付け根にちょっと出っ張っている「節」という部分が大事な役割をしていることがわかった(図2)。

     節を顕微鏡で見ると、複雑な構造をしている。下から導管を通って来たミネラルは、ここを起点としている別の維管束の中の導管に移らないと、種まで行かない。節は断面積が大きいため、根から来た水分のスピードが遅くなり、水分に含まれるミネラルが周りの細胞に吸収されやすくなる。

    • 図3
      図3

     節ではLsi2、Lsi3、Lsi6の3種類の輸送体が、ケイ素の輸送に働いている。根から来たケイ素は、Lsi6によって周囲の細胞に吸収され、Lsi2とLsi3の働きで穂につながる別の導管に移動する。

     畑で作られるトウモロコシ、大麦も、細胞での配置が少し違うが、同様の輸送体を持っている。

     ちなみに、昔のキュウリは表面に白い粉をふいているものが多かった。この成分はケイ素で、ブルームキュウリと呼ばれる。最近、スーパーで見かけるのはピカピカのキュウリで、ブルームレスキュウリと言う。ブルームレスキュウリをどのように作るかというと、ケイ素をあまり吸収しないカボチャにキュウリを接ぎ木する。

     このカボチャは、輸送体のたった1か所のアミノ酸が変異している。この変異によって輸送体は細胞膜に局在することができなくなり、ケイ素の吸収ができなくなる(図3)。

    カドミウムを隔離

    • 図4
      図4

     次の話は、人間にとっても植物にとっても毒になるカドミウムについてだ。1960年代の富山県のイタイイタイ病はカドミウム米を食べたことが原因だ。神通川上流の鉱山から出たカドミウムが田んぼの中に流入し、イネに吸収される。これを人間が食べると腎臓が悪くなり、骨がもろくなる。

     では、カドミウムはどうやってイネに吸収されるのか。少なくともケイ素の吸収で使われたのとは異なる三つの輸送体が働いていることがわかっている。土壌中のカドミウムを細胞内に運ぶOsNramp5、根から地上部に輸送するのに必要なOsHMA2、細胞内の液胞に隔離する働きがあるOsHMA3だ(図4)。

     OsNramp5はもともと植物にとって必要な金属元素であるマンガンを運ぶための輸送体で、なくなると植物の生育も悪くなる。OsHMA2も、もとは亜鉛を輸送するたんぱく質で、この遺伝子をなくすと生育が悪化する。

     一方、OsHMA3は根の細胞にあり、OsNramp5が運んできた土壌中のカドミウムを細胞内の液胞に隔離する働きがある。私たちがOsHMA3をたくさん作るように遺伝子組み換えをしたところ、カドミウムは根の液胞にとどまり、地上部に行かなくなった。

     実際に通常のイネをカドミウム汚染土壌で育てると、玄米にはカドミウムが6ppm含まれていたが、OsHMA3をたくさん作る遺伝子組み換えイネでは、0.3ppmになった。亜鉛や鉄の輸送に影響はなく、将来的には使える遺伝子と考えている。

    馬建鋒(ま・けんぼう)
     1984年中国・南京農業大卒。91年京都大大学院農学研究科で農学博士号を取得。香川大助教授などを経て2005年から現職。

     (※図は馬教授提供)

    【質疑応答】

     キュウリを接ぎ木するカボチャは、ケイ素なしでやっていけるのか。

      ケイ素は植物の必須元素ではない。なくても生きられるが、あると病原体に強くなる。カボチャにはケイ素を吸収する品種と吸収しない品種があり、吸収しないカボチャでもストレスがなければ生育できる。

     ケイ素は種のどこに局在するのか。

     もみ殻に多い。日本酒の中にケイ素は入っていない。なぜなら、日本酒を造るときはコメを脱穀するからだ。ビールは麦を殻のまま使うので、ケイ素濃度が高い。

     放射性物質を吸収してくれる植物はあるか。

     植物は環境に適応するために、何百年、何千年かけて進化してきた。急にセシウムを吸収しろといっても無理だろう。

     ただ、セシウムとカリウムは同族元素で似ている。植物はカリウムの輸送体を使ってセシウムも吸収すると言われている。土壌中のカリウムは数%で、セシウムはその何千分の1、何万分の1しかないが、それでも植物で全部きれいにしようというのは難しいのではないか。


     ◇知の拠点セミナー 全国の国立大学が共同で利用する研究拠点の成果を一般向けに紹介する連続講座。毎月1回、東京・品川で開いている。日程や参加申し込みは、セミナーのホームページへ。

    2013年12月10日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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