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    多目的設計探査―飛行機から家電までー

    大林茂・東北大学流体科学研究所所長・教授

    • 大林茂・東北大学流体科学研究所所長・教授
      大林茂・東北大学流体科学研究所所長・教授

     コンピューターシミュレーション技術が、どのように設計に生かされているか紹介する。

     20世紀までの主な研究手法は「実験」だった。例えば、航空機の模型に風をあてて、機体に働く力を測っていた。ライト兄弟が航空機を開発した時からの実験方法だ。

     20世紀後半になると、コンピューターの計算能力が発達し、航空機の設計に生かされるようになり、機体の設計が飛躍的に発展した。

     米・カリフォルニア州にあるNASAエームス研究所には、世界最大の風洞実験施設がある。1943年に作られたものだ。日本の優秀な零戦になんとか勝とうと、大型の研究施設を作った。80年代にも新しい風洞が作られた。大きさが高さ24メートル×横36メートルで、ジェット戦闘機が入るくらいの大きさだ。これだけ大きな施設では、運転人員も、送風機を使用する電力も非常に大がかりになる。1日まわすのに、1000万円かかる。

     そこで、コンピューターによるシミュレーションが発達した。風洞実験をやっていた5

    0年代に比べて、80年代は機体の開発コストが下がっていく。最近のコンピューターは、10年たつと1000倍の計算能力が得られる。90年代から現在に至るまで、ほぼコンスタントに性能がアップしている。

     60年代後半に設計した機体の風洞実験には、1万3500時間かかった。数値シミュレーションはほとんど行われていない。80年代後半には5500時間に減り、シミュレーションが1万5000時間となった。

     どうやって航空機が発展してきたのか、その歴史を振り返ってみよう。ライト兄弟が初飛行した1903年が航空機の始まりと言われている。47年には世界で初めて超音速での飛行に成功した。その後、超音速飛行する軍用機が次々に開発された。音速の3.2倍、マッハ数3.2の爆撃機が世界最速の航空機と呼ばれている。

     一方、民間の航空機はどうか。世界初のジェット旅客機は、イギリスで開発されたコメット号という航空機だ。52年に運航を開始し、1~2年の間で謎の空中分解を遂げる事故を重ねた。コメット号の悲劇と言われている。すべての航空機が運航停止になり、イギリス政府が、国の威信をかけて原因究明を行った。深海から残骸を引き揚げて確認したところ、金属疲労によって壊れたということがわかった。

     ジェット旅客機は高度1万メートルくらいを飛ぶ。もちろん人間は普通に呼吸できないので、油圧式のキャビンで客室内の気圧を保つ。地上にいるときは外と中に気圧の差がないが、上空に行くと外は空気が薄いために気圧が下がる。そのため離発着を繰り返すたびに機体は膨らんだり縮んだりを繰り返す。窓からひびわれが始まり、上空で急激に破壊が進展して、空中分解をしてしまうということが分かった。その後、金属疲労の試験が確立された。

     日本はどうだったか。50年代にYS11という機体が開発された。第2次世界大戦中の設計者が総力を結集して作ったが、ビジネスとしてはうまくいかなかった。その後、日本は、米ボーイングの下請けとして航空機産業に参入するという道筋をとってきた。

     しかし、航空機産業は下請けだけでは成長できない。2003年、ホンダは、米国にもつ航空機製造子会社で小型ジェット機を開発した。一方、三菱も07年に「P-X」「C-X」という自衛隊の対戦哨戒機などを初飛行させた。

     国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の開発で、多目的設計探査という技術を三菱と東北大の共同研究で作り上げた。コンピューターの中で機体の形を進化させるもので、世代を経て形がどんどんよくなっていくという仕組みだ。もう一つは、得られた形状のいろんなデータを使って設計のマップをつくるという技術が使われている。

     機体全体を三菱が独自にアレンジすることによって、性能を上げ、ベストな形にし、それに我々のコンピューターシミュレーションで、さらに燃費を上げる技術を盛り込んだ。

     航空機設計で重要なことはトレードオフ(二者択一)という考え方だ。航空機を作るときには「空力」「推進」「構造」「制御」の4分野を考える必要がある。いろんな分野の適切なトレードオフをとって、ちょうどいい形を作っていく。それを複合最適化と呼ぶ。つまり、妥協点をみつけることが必要だ。

     いろんな分野の評価をもとに一番いい形をつくるため、一つの指標を決めなくてはいけない。そこで航空機の開発で使われているのが、構造の重さや燃料などを足した最大離陸重量。構造が軽ければ、最大離陸重量は減る。空力が良いと、摩擦が減るので使用する燃料が減る。推進がよければ燃料が減る。

     しかし、一つ一つの分野をそれぞれ評価できても、お互いの性能の影響度はよくわからない。そこで導入したのが多目的設計探査だ。遺伝的アルゴリズムというのを使っている。

     生命は、環境に適合して、子孫を残しやすい個体が親になって子孫を残す。その子孫がさらに次の世代でよりよい多くの子孫を残すことで、全体として集団が環境に適合していく方向に進化していく。それをコンピューター上でシミュレーションする。

     機体を決める設計変数を遺伝子情報として、その遺伝子情報に基づいて機体の性能を評価し、親になりやすい個体を選ぶ。親の遺伝子情報、つまり設計変数の交換と突然変異で次の世代をつくる。これにより、集団が環境に適合した集団に変化していく。つまり、多目的遺伝的アルゴリズムを使うと、いろいろな性能を一つの指標にモデル化する必要がな

    くなる。最後にどういうトレードオフがあるか分析する。

     その上で自己組織化マップ(SOM)というのを使っている。ニューラルネットという

    モデルのひとつだ。人間の記憶を再現したモデルを、マップに利用しようと考えた。

    普通の地図は上が北で縮尺が決まっている。座標と距離がある。しかしSOMは座標や

    距離がない。隣同士がどれだけ似ているかということを学習してマップを作る。

     例えば、重量、寿命、コストでSOMを作る。そばにいるグループは似たもの同士になる。この地図の1点1点がニューロンになっていて、そこには、コスト、寿命、重量という値が入っている。そこで、この地図を寿命で色づけると、赤いところは寿命が長くて、青いところは寿命が短い設計になっている。

     各性能をマップで色づけし、色の分布で性能を見えるようにする。色で分けられた領域をクラスターと呼び、これで設計案が分類されているということになる。さっきのように寿命が長くてコストが低いというような、特徴あるクラスターが見つかれば、ここのニューロンにはいっている設計の設計変数を調べる。ちょうどいい設計変数の組み合わせを見つければいい。

     どのパラメーターをどういう風に注意するべきかが分かり、設計に対応する意思決定を助けることになる。これを航空機以外にも適用するため、ディーゼルエンジンの燃焼室の形の設計とか、蒸気タービンとか、乾燥機能付き洗濯機にも適応している。

    大林茂(おおばやし・しげる)
     1982年筑波大卒業。1987年東京大大学院博士課程修了。1987年からNASA・エームス研究所。1994年から東北大工学部助教、東北大学流体科学研究所教授を経て、2014年から現職。

    (※図は大林所長提供)

    【質疑応答】

      格好いい航空機は、いろいろと考慮して設計をするとああいう形になるのか?

      性能がどのくらいクリティカル(重要)かということが重要だ。

      自動車だとメーカーによって格好良さが違うがなぜか。

      車の空力設計では、デザインのほうが重視されがちだからだ。

     ◇知の拠点セミナー 全国の国立大学が共同で利用する研究拠点の成果を一般向けに紹介する連続講座。毎月1回、東京・品川で開いている。日程や参加申し込みは、セミナーのホームページへ。

    2014年06月24日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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