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    新センサー搭載、アースケア衛星が拓く雲研究

    九州大応用力学研究所・岡本創教授

    • 九州大応用力学研究所・岡本創教授
      九州大応用力学研究所・岡本創教授

     EarthCARE(アースケア)計画は、日本と欧州が共同で進める新しい人工衛星による地球観測ミッションの名称だ。アースケア衛星は2018年1月ごろに打ち上げが予定されている。新しい観測センサーを搭載して、地球の雲、エアロゾル(大気中を浮遊している微粒子)、そしてそれらの放射効果を調べる衛星だ。

    • <図1>Trenberthら(2009)の論文に基づいて岡本教授が作成
      <図1>Trenberthら(2009)の論文に基づいて岡本教授が作成

     その前にまず雲の重要性を取り上げたい。雲は地球のエネルギー収支に非常に大きな役割を果たしている。地球には、宇宙から、波長がミクロン程度の短波の放射が、1平方メートルあたり340ワット入射している。この一部が、地表に到達する前に雲に反射されて宇宙に戻っていく。そのレベルは79ワットくらいだ。地表にたどりつくのが184ワットで、陸や海に吸収される。吸収されたエネルギーは、赤外線放射として宇宙に向かって出て行く。地表面からの赤外線放射は400ワットくらいだ。それらは雲と大気にブロックされて、再び大半が地表面に戻ってくる。大気の窓から宇宙に抜けていくのが40ワットくらいで、さらに雲からの熱放射でも99ワットくらいが宇宙に出て行く。これらをあわせて239ワットが宇宙の外に逃げていく。短波で宇宙空間に出ていく分とあわせると、ちょうど短波で地球に入射してくるエネルギーとつりあっている。

     ただし、地球の中でどのような熱構造になっているかがかぎとなる。これは非常に複雑だ。雲と大気の要因で場所によっても変わるし、時刻、季節でも変化する。

    • <図2>
      <図2>

     もう少し物理的なメカニズムを説明する。雲は地球全体に3次元的に分布している。低層、高層の鉛直方向や、緯度帯でも様々な雲ある。放射や、水蒸気から雲粒ができるなどの相変化が起きる時に、大気との熱エネルギーのやりとりが生じる。放射や潜熱のエネルギーが地球の大気に及ぶと、大気の対流がおきる。熱帯から極域に移動する対流のほか、偏西風などにも影響を与える。雲の生成には、硫酸、炭素性物質、海面からの海洋性粒子、砂漠から出るダスト粒子などのエアロゾルもかかわっている。これらが大気に巻き上げられると、雲の形成に非常に大きな役割をする。これは非常に複雑なメカニズムだ。エアロゾルと大気の対流活動、水蒸気によって再び雲が生成される。これらのプロセスを総称して雲放射フィードバック機構とよばれているが、この理解はまだ非常に不十分だ。

     下層に存在するのはおおむね水滴からできる雲で、上層に存在するのは氷粒子による雲だ。中層は水と氷が混ざっているが、これはどのくらいの存在比になっているかは、はっきりしていない。雲と一口に言っても、粒子サイズは様々で、5ミクロンの小さいものから、100~300ミクロンまである。薄い雲から厚い雲まである。多重の層をなした雲もある。飛行機に乗るとわかるが、空港から離陸した後に5層くらい雲が重なっている場合がある。雲ができてから消滅するまでどのくらいかかるか、エアロゾルが雲とどれくらい関係しているのか。雲は気候変動の最大の不確定要素ということになっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも雲の理解の進展はあったが、十分とは言えない。気候モデルは観測データがあれば修正できるが、観測にも不確実性がある。

     雲の観測について歴史的な背景を紹介する。

     雲の観測には主に2つの方法がある。一つは「受動型」と呼ばれ、太陽光や大気から出る光や、大気からの熱放射などの自然の電磁波を利用しているものだ。雲から反射された光のエネルギーをとらえて、雲の性質を知る方法だが、推測が入る余地があり雲の鉛直方向の情報を得るには難しい面がある。

     もう一つは能動型のセンサーによるものだ。これは新しいタイプで、今回の講演のメーンテーマになる「アクティブセンサー」だ。観測機器自らがレーザー光やミリ波の電磁波を出して雲に当て、そこから帰ってきた光や電磁波を観測する。その時間差を基に、雲までの距離を計算する。その観測のサンプリングを細かくして、雲の深い、浅いといった鉛直方向の姿を明らかにするわけだ。

     地球観測衛星の第一世代は1960年代。米航空宇宙局(NASA)のTIROS(タイロス)という衛星を使って、地球の写真を撮影した。第二世代はさらに進化してNASAのNimbus(ニンバス)が出た。これで北半球の反射率(アルベド)を得ることができた。

    • <図3>NASA、米海洋大気局(NOAA)の写真、Raschke and Bandeen(1970)のイラストを使用し、岡本教授が作成
      <図3>NASA、米海洋大気局(NOAA)の写真、Raschke and Bandeen(1970)のイラストを使用し、岡本教授が作成

     そのあと、1977年に、性能の良いカメラを搭載した日本の気象衛星「ひまわり」1号が打ち上げられた。今も天気の予測に大活躍している。アメリカでは1975年からGOES(ゴーズ)が打ち上げられ、いまは14号まで来ている。それぞれの衛星に進化したセンサーが搭載されているが、これらのセンサーが観測したデータを組み合わせて、3時間ごとの全球の雲の動きを追跡するデータが1983年から作られるようになった。

     ただ、地球観測衛星はそれだけでは限界があるということで、その後、第三世代へ移行した。NASAのCLOUDSAT(クラウドサット)という衛星だ。搭載したレーダーは、降雨レーダーよりも波長が短い。CALIPSOという米仏ミッションでは、可視光線と赤外線の二つ波長のレーザー光を出力する「ライダ」というセンサーを搭載している。

    • <図4>ESAのイラストを使用し、岡本教授が作成
      <図4>ESAのイラストを使用し、岡本教授が作成

     アースケアのミッションはこれに続くもので、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)が、初めて共同で地球観測衛星計画を提案して認められた。雲レーダーにドップラーが記録できる高性能の機能が備わっている。つまり雲域の大気の上昇や下降の動きをとらえられる。人工衛星ではこれは初めてだ。

     アースケアの一番のミッションはこのドップラーレーダーだ。クラウドサットが搭載しているレーダーよりもアンテナの直径が1・5倍大きい。その上、周回軌道は地上400キロで、クラウドサットの700キロよりもずっと低く、高い精度で雲を観測できる。ほかには、高分解能ライダや多波長イメージャー、広帯域放射計など4つの最新のセンサーを搭載する。私は、衛星計画全体の共同議長として、また日本側の科学者チームの代表として参加している。ほかにも国立環境研究所や東海大、東京大も参加する「オールジャパン」の体制だ。雲水の全量把握、雲の全球に渡る3次元構造の把握、雲域の大気の上昇や下降の把握を目指し、気象分野だけでなく、海洋や水循環、水資源の分野への研究にも貢献する。

    岡本創(おかもと・はじめ)
     1991年東京理科大学理学部卒業。1996年神戸大学自然科学研究科博士課程修了。東京大学気候システム研究センター日本学術振興会特別研究員、郵政省通信総合研究所研究官などを経て、2010年から現職。

    【質疑応答】

      人工衛星は、観測したデータを自ら解析した上で地上に降ろすのか。

      ごくごく簡単な処理だけは衛星段階で行う。例えばノイズの処理などだ。あとはそのまま地上に降ろす。圧縮技術や伝送技術が発達しているから可能だ。地上に降ろした後でデータを解析処理するのには、多くの時間を要する。

      地上局の分担は。

      データを受けるのはESAで、その後、地上の高速回線で日本がESAからデータを受け取る。その後、レーダーのデータは日本で処理され、再度ヨーロッパに送られる。データ処理にはそれなりの時間がかかるので、リアルタイムでは処理しきれない。最終的に日本とヨーロッパの双方で、世界中のユーザーに対して処理されたデータや解析結果が公開されることになる。

      これが完成すると天気予報の精度はあがるか。

      雲の全球分布やその変動の把握、そして雲の関係する各種のプロセスを解明することで、気候変動予測の向上を目指している。さらに気象現象の予測の向上も目指したい。雲レーダーは狭い領域を見ているので、全部の領域で気象の予測に確実に効果があるということではないが、予測精度があがるという研究もある。それを予報につなげていくように気象庁の方と協力している。

     ◇知の拠点セミナー 全国の国立大学が共同で利用する研究拠点の成果を一般向けに紹介する連続講座。毎月1回、東京・品川で開いている。日程や参加申し込みは、セミナーのホームページへ。

    2014年11月10日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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