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    「地球温暖化とサンゴ:サンゴの存続には何が大切か?」

    酒井一彦 琉球大熱帯生物圏研究センター長

     私が所属する熱帯生物圏研究センターは、熱帯や亜熱帯に特有で、かつ、生物多様性の高いサンゴ礁、マングローブ林、熱帯雨林、亜熱帯雨林などの生態系に関する研究をしている。また、豊かな生物多様性を生かしたイノベーションの創出、具体的には薬をつくったり、薬のもとを見つけたり、健康食品をつくったり、ということもやっている。

     琉球大学は日本の国立大学の中で唯一、亜熱帯域に立地する大学だ。私が一番重視しているのは、フィールド調査。いまだに水中に潜って、サンゴのことを調べている(図1)。熱帯生物圏研究センターには、沖縄本島の「瀬底(せそこ)研究施設」のほか、本島から400キロ・メートル離れた西表島(いりおもてじま)にも研究施設がある。沖縄本島は熱帯や亜熱帯のサンゴ礁域としては、著しく人口密度が高い。このため、瀬底研究施設では、陸からの人為的な影響を調べている。一方、西表島はイリオモテヤマネコに代表されるように豊かな自然が残っている。サンゴ礁も非常にいい状態なので、琉球列島のサンゴ礁が本来持っている姿を見ることができる。

    • 図1
      図1

     造礁サンゴと呼ばれるサンゴは、石灰質の骨を作る。その骨がもとになった岩の塊がサンゴ礁だ。サンゴは生物で、藻のような単細胞生物といっしょに暮らしている。石垣島の東海岸や太平洋の波が強いところではサンゴがよく育ち、広いところで1キロ・メートルくらいのサンゴ礁が形成されている。サンゴ礁の中は池のようになっていて、たくさんの生物が暮らしている。世界的に規模が大きいのは、オーストラリアの東海岸のグレートバリアリーフだ。広いところだと陸から200キロ・メートルほど離れたところまでサンゴ礁があり、非常に巨大だ。

     サンゴ礁は、海洋の生態系の中では、単位面積当たりに見られる種の数が最も多いと言われている。肥料が少なく、生産性の低い外洋に囲まれたサンゴ礁は、生物のオアシスのような存在だ。これは、生きたサンゴがあるからこそ成り立っている。サンゴはクラゲのように刺胞(しほう)という毒針を持っており、刺胞動物の仲間だ。サンゴは石灰質の骨を作り、その骨のカップの中に自分が収まるというつくりをしている。ポリプと呼ばれるサンゴの本体は、卵子と精子が受精すると一つのポリプができる。その後は、ポリプから芽がでたり、二つに分裂したりして数を増やしていき、群体として成長していく。ひとつのサンゴを作っているサンゴは、遺伝的に同じクローンになる。

    • 図2
      図2

     群体になっているサンゴは大きく分けて五つの形がある。枝分かれした木のような樹状と、テーブル状、葉っぱのようにうすい葉状のもの、海底をおおっている被覆状、塊で成長していった塊状のものだ。(図2)

     造礁サンゴにとって大切なのは、細胞の中で共生している褐虫藻(かっちゅうそう)だ(図3)。褐虫藻は植物プランクトンの仲間で、光合成ができる。サンゴは、褐虫藻が光合成してつくった有機物をもとに生きている(図4)。褐虫藻が光合成で生み出したエネルギーのうち、20~50%程度はサンゴの体外に放出されることがわかっている。サンゴは誰かに触れられたり、あるいは潮が引いてストレスをうけたりすると、体外に粘液を出す。粘液は、アラビノースという糖質が含まれていて、それを栄養源にバクテリアが100倍以上に増える。バクテリアが増えることからスタートして、それを他の生物が利用して食物連鎖が始まる。サンゴだけでなく、サンゴ礁全体での食物連鎖の担い手になっていく。サンゴ礁は魚のすみかの役割を担っているため、サンゴが減ると生息している魚の種数が減るという研究もある。

    • 図3
      図3
    • 図4
      図4

     私が調査場所としてお邪魔させていただいている沖縄県の座間味島(ざまみじま)で、サンゴの移動を手伝ったことがある。漁港に船が入るために水路をつくっていたが、そこにサンゴが入ってきて成長し、船が通れなくなってきていたので、浚渫(しゅんせつ)することになった。サンゴは本来、岩にくっついているが、枝の長いものは岩からはずれて、砂の上にのっているものもある。サンゴは群体なので、枝が折れると、折れた場所から成長することができる。

     地元の人たちとどこに移すかを相談して、水路より水深が60センチほど浅い砂地に移すことになった。できるだけ大きいまま、水路と同じように砂地に置くように移動させた。2010年11月10日に移植が終了して、2011年5月に調べると、移植前にはほとんどいなかった魚やサンゴがいた。これは、サンゴを移したことで、生物の種類が増えたということだ。うまくいった理由を考察すると、サンゴをなるべく大きいまま移動したことが一つだと思う。また、島に囲まれた場所に移動したので、台風の影響が小さかったというのがあると思っている。

     

     次に、地球温暖化とサンゴについて説明する。まず、サンゴは世界的に減っている。なぜ、サンゴは減ったのか。それは人間が引き起こした環境の変化が主な原因だと言われている。人間による環境の変化は、地球全体でおきていることと、地域で起きていることの二つに分けることができる。

     地球規模の変化から説明すると、人間が化石燃料を燃やして大気中の二酸化炭素がふえたことで、地球温暖化や海洋の酸性化が引き起こされている。海洋の酸性化というのは、二酸化炭素が海水に溶け込み、海水のpH(水素イオン指数)が下がってしまうこと。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2007年に発表した予想によると、有効な二酸化炭素の排出規制をせずにそのままのペースで進んでいくと、2100年までにはpHが今の8・1から7・75まで下がるという。

    • 図5
      図5

     二酸化炭素濃度を設定できる水槽での実験によると、種によってさまざまな反応を示した。我々の実験結果からは、21世紀末までの海洋の酸性化で、サンゴが生存できなくなることはなさそうだと示唆されている。だが、温暖化の影響はかなり深刻だ。瀬底や西表、慶良間(けらま)など何か所かで毎年4月に調査を行っている。私が学生だった1980年頃のサンゴ礁は、海水もきれいで、色んな種類の色鮮やかなサンゴがいた(図5)。1970年代の初めにオニヒトデの大発生でサンゴが減ったが、10年しないうちにサンゴが回復した。その後は右肩下がりで減り、1998年に白化現象で急激に減った。98年の大規模白化現象は、観測史上最大といわれているエルニーニョ現象によって、水温が上がった時だった。

     サンゴは褐虫藻を失うと白くなり、ポリプが透明になる。これが白化現象だ。98年は冬場から水温が高く、7月ごろから白化が起こり始めた。褐虫藻の光合成が阻害され、共生関係が崩壊して、サンゴが褐虫藻を排出してしまうという仕組みだ。白化が2週間以上続くとサンゴは死んでしまう。昔に比べて時間はかかったが、2010年頃には、白化の前と同じくらいのサンゴに回復した。沖縄ではまだ回復力はあるようだ。現時点では、サンゴの大規模白化は地球温暖化そのものではなく、温暖化の間接的な影響で強くなっているエルニーニョ現象が原因だろうと考えられる。

     続いて、地域の人為的なサンゴ礁のかく乱の説明に移る。地域規模でサンゴ礁に影響があるといわれているのは、海水の富栄養化だ。サンゴの天敵であるオニヒトデは周期的に大発生する。人口増加などで、陸から栄養源である肥料が流れ出て、植物プランクトンが増えると、オニヒトデの幼生が増え、オニヒトデの成体が増える。他のグループの研究によると、グレートバリアリーフでは陸からサンゴ礁への栄養の供給が4倍に増えると、オニヒトデが10倍に増えたという。これによって、オニヒトデの大量発生の周期が短くなってしまう恐れがある。

     人間によって地球規模で温暖化や海洋の酸性化が起きている。そういったいまこそ、二酸化炭素を減らすことはもちろん重要だが、地域の環境の保全も欠かせない。全体的に悪くなっていても、そのなかでサンゴが生き残れるような場所を守っていくことも必要だ。

    酒井 一彦(さかい・かずひこ)
     1976年琉球大理工学部卒。琉球大理学研究科修士課程修了。理学博士。82年に琉球大助手。琉球大助教授などを経て、2009年から現職。

    【質疑応答】

      サンゴと共生している生き物は、サンゴにとってプラスの影響を与えるのか、マイナスの影響を与えるのか

      共生、寄生というのは別物ではなく、同じラインにあると考えられる。褐虫藻の場合、通常は褐虫藻が住まいをもらい、サンゴは光合成でエネルギーをもらうというプラス、プラスの関係だ。しかし、高水温で光が強くなると、褐虫藻が光合成できなくなり、活性酸素を出す。同じ褐虫藻なのに、マイナスの影響を出し、共生関係が崩れてしまう。

      サンゴは褐虫藻をどうやって体の中にとりこむのか

      ふた通りあって、ひとつは、卵のときに母親からもらう。これは非常に少なく、5%程度だ。もうひとつは幼生になったとき、口ができると、そこから取り込む。褐虫藻は分裂するので体の中で増える。あとは、環境条件によって、褐虫藻が入れ替わることもわかってきた。サンゴが入れ替えるのか、褐虫藻が勝手に入るのかわからない。

      オニヒトデが大量発生後に減少する要因とは

     

      食べるものがなくなるためだ。

      サンゴは産卵するというが、それもクローンなのか

      産卵の場合は卵子と精子が受精し、減数分裂するので、遺伝的に違う物になる。

      サンゴも毒針を持っているのか

      持っている。サンゴに体をこすりつけて傷ができると、後でかゆくなる。

      サンゴは環境の変化に弱いが、沖縄のサンゴは増えているのか、減っているのか

      基本的には1998年に大規模に減り、今は増加傾向にある。私がいるところは2010年に回復した。しかし、1950年代、60年代よりは減っていると思われる。

     

     ◇知の拠点セミナー 全国の国立大学が共同で利用する研究拠点の成果を一般向けに紹介する連続講座。毎月1回、東京・品川で開いている。日程や参加申し込みは、セミナーのホームページへ。

    2016年01月12日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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