文字サイズ

    DeNA医療系サイト「炎上」で休止…検索「誘導」過熱

    内容二の次…良質情報押しのけ「上位」に

     大手IT企業ディー・エヌ・エー(DeNA)が、運営する10のキュレーションサイトのうち9サイトのサービスを停止した。きっかけとなったのは、このうちの一つ、医療系まとめサイト「WELQ(ウェルク)」で、科学的根拠に欠ける記事や無断転用が次々と発覚したことだった。

    「死にたい」で誘導

    • 「死にたい」と検索するとトップ表示された記事だが、「死にたいと悩む人が読むには不適切」との批判が起きた
      「死にたい」と検索するとトップ表示された記事だが、「死にたいと悩む人が読むには不適切」との批判が起きた

     「ココロとカラダの教科書」がキャッチフレーズのWELQは、医療や健康、美容情報をまとめたキュレーションサイトで、編集部や外部のライターのほか、ネットユーザーからの投稿記事などで構成。昨年10月にスタートし、今年10月には月間閲覧数が2000万件を超えていた。

     だが、10月下旬以降、「人生に疲れたな、と思ったとき」などと題した記事がきっかけで、激しい批判を受け始める。

     記事は、「今、死にたいと思っている人へ」と呼びかけた上で、「承認欲求が強い」「自己承認力を高めるには、自己分析が有効」などと勧め、診断テストの広告に誘導する内容だった。ネット上では「死を考える人に自己分析を勧めるなんて逆効果」「かえって精神的に追い込む危険があるのでは」などの声が増えていった。

     特に非難の的となったのが、この記事に「死にたい」と検索した人をターゲットにしたSEO(検索エンジン最適化)※が施されていた点だ。ページのソースコードをチェックすると、検索に引っかかるキーワードとして「死にたい」などの言葉が盛り込まれていた。DeNAは取材に対し、編集部がSEO用のキーワードをライター側に提示していたことを認めている。

     SEOのコンサルティング会社を営む辻正浩氏によると、ウェブマーケティングの世界では「死にたい」「自殺」という言葉の検索ニーズが高いことはよく知られているという。調査ツールを使えば、グーグルなどで検索された件数はすぐ分かる。10月中にグーグルで「死にたい」やそれに類似した言葉が検索された件数は42万9050回にものぼっていた。

     「SEOはビジネスに必要な対策」とする辻氏だが、「それでも、広告収入ありきのSEOで、死を考える人を誘導するのはモラルに反する」と憤る。

    ※SEO(検索エンジン最適化)
     SEO Search Engine Optimizationの略で、グーグルなどの検索サイトでウェブページを上位に表示させ、より多くの閲覧数を稼ぐための対策。検索されやすいキーワードを入れたり、リンクを増やしたりするなど様々な手法がある。

    「幽霊が原因?」

     DeNAはこの記事の広告を削除するなどして対応したが、批判はおさまらなかった。その後も、科学的根拠を欠く記事や無断引用が疑われる記事が次々と見つかったためだ。

     一般的な食に関する話なのに<餃子の王将メニューでアレルギーは起きるの?『蕁麻疹やかゆみ』と『嘔吐や下痢』の症状は注意!><吉野家アレルギーって何?アナフィラキシーショックが起こる?>などと、特定の会社名を挙げて書かれた記事もあった。

     肩凝りの原因を探る記事では「幽霊が原因のことも?」といった非科学的な記述も見られた。妊娠中に服用できる風邪薬として葛根湯を穏やかな効き目などと推奨する記事もあるが、漢方専門薬局から「主成分の『麻黄』は妊婦には良くないのでは」(漢方みず堂)と心配する声もある。

     DeNAによれば、これらの記事は専門家による監修もないまま掲載されていたという。

     「大半は色々なサイトからの引用の寄せ集め」と怒り心頭なのは、自分のブログから152か所が引用されていたとする東京都内の医師、桑満おさむ氏だ。桑満氏が特に問題視していたのが、「原文を少しずつ変えたり、他の人のブログとつきはぎしたりしているため意味が変わってしまった」点だ。

     例えば、日焼け直後の対処法についての記事では、桑満氏のブログでは「流水で20分以上クールダウンしましょう」と書かれているが、WEIQの記事では「流水、もしくは濡れタオルで20分ほど冷やしましょう」になっている。桑満氏は「タオルはすぐ熱をもってしまうので効果が薄い。読者に誤った知識を植えつけてしまう」と怒る。

     実はDeNAでは、ライターに対してほかのサイトの転用を推奨するようなマニュアルを渡していた。著作権法に触れないよう、記事をそのままコピーすることは禁じた上で、表現の一部を書き換えるよう指導していたという。記事を手軽に量産するため、著作権法に違反しないように無断で他サイトの記事を引用をする狙いで、これがかえって桑満氏のケースのような誤った記事を生み出す原因になっていた訳だ。

     マニュアルまで作成していたにもかかわらず、記事には末尾にこんな文章を載せていた。

     <当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません>

    上位表示の仕組み

      そんな無責任な記事でありながら、病気や症状について検索すると常にWEL

    Qの記事が上位を独占し、医療関係者が発信する良質な情報を下位に押しやっていた。

     辻氏は昨年から、約400の病名で検索し、結果を集計している。WELQは昨年11月27日時点で10位以内に入った記事はわずか1件だったが、今年11月22日には196件になっていた。例えば、「シックハウス」での検索では1月には20位に表示されていたのが8月は2位に、「チョコレートアレルギー」は2月の21位から5月には1位になっている。辻氏は「この間、幅広く、徹底したSEOが行われた」とみる。

     前述の「餃子の王将」のように有名チェーン店の名前を入れることもその一つだろう。有名店の名前と病名や「カロリー」といった言葉を組み合わせると、一気に順位が上がるという。また、WELQの記事は長文が多いが、これも、長い文章の方が順位が上がる傾向にあるため、その効果を狙ったとみられる。

     DeNAも取材に対し、「検索されやすいキーワードの候補を示すなど、SEOに有効な方法をマニュアルで指示していた」としている。

    キュレーション全盛?

     DeNAは一昨年10月にファッション情報をまとめたMERYと住まい関係に特化したiemoの運営会社を50億円で買収するなど合わせて10のキュレーションサイトを運営していた。今回、このうちの9サイトの停止が決まったが、これらのサイトにとって広告は重要な収入源で、SEOに注力し、閲覧者を増やせば増やすほど収入があがるビジネススタイルだったといえるだろう。

     情報を多くの人に伝えたいという思いは共通で、SEOを否定するわけではない。ただ、内容が度外視され、閲覧数ありきのSEOが横行すれば、ネット社会の「道案内役」ともいえる検索が情報の価値を正しく評価できなくなるだろう。それはネットの信頼性をも損なうものだ。

     最近ではスマートフォンを使う人が多いが、画面の小さいスマホでは、最初のページには上位3位程度しか表示されない。SEO競争加熱の末、多くの人が良質な情報にアクセスしにくい時代がくるのではないかと不安だ。

    (編集委員・若江雅子)

    2016年12月02日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP
    2018年を彩るカレンダーをプレゼント!