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    情報銀行とは…個人データ流通、本人関与どこまで

    購買履歴、移動情報…お金に変わる

     パーソナルデータは「デジタル世界の新たな石油」と呼ばれる。IoT時代を迎え、その収集は検索履歴などのネット上の情報を超え、現実世界のあらゆる行動履歴にまで広がってきた。だが、私たち消費者は自分のデータが誰にどう使われているか知っているだろうか。成長戦略の柱としてデータ流通促進がうたわれる中、個人がどれだけ自らのデータの主導権を握れるのか、課題は山積している。

    ■データがお金に

    • 自分が売りたい情報をスマホで自ら選択できる(エブリセンスジャパン提供)
      自分が売りたい情報をスマホで自ら選択できる(エブリセンスジャパン提供)

     〈位置〉〈歩数〉〈心拍数〉〈名前〉〈住所〉

     データを欲しい企業と売りたい人をネットでつなぐデータ取引市場の設定画面。スマートフォンで各項目にチェックを入れるだけで個人が売りたいデータを選択できる。

     ベンチャー企業「エブリセンスジャパン」が昨年10月にスタートさせ、現在、約800の個人や企業が参加する。買い手が欲しい情報や利用目的、第三者提供の有無、報酬などを提示して、売り手が納得すれば提供する仕組みだ。IoT機器メーカーがもつデータのほか、個人がスマホで計測した位置情報や歩数、ウェアラブル端末で測った心拍数や睡眠時間も売買される。

     「日本でパーソナルデータがなかなか流通しないのは、消費者に『情報が何に使われるか分からない』という不安と、情報を提供した自分に『お裾分けがない』という不満があるから」とみる真野浩最高技術責任者は「この仕組みなら納得して提供してもらえるはず」と期待する。

    ■第2の石油

     世界経済フォーラム(ダボス会議)が2011年に公表した報告書で「新しい石油」と称したパーソナルデータ。大量に流通させ活用すればビジネス創出につながるとして、企業や政府の熱い視線が注がれている。

     「情報銀行」構想もその一つ。SNSやポイントカード、交通機関など様々なサービスを利用することで各事業者に提供された個人の情報を、本人の同意に基づいて集約・管理し、他の事業者に提供するなどして活用する。

     「SNSに投稿した写真を見れば、その人の趣味が分かるし、ポイントカードの購買履歴からは生活ぶりが、交通系カードからは行動パターンが分かる。今はバラバラに保有されているこうした情報を集約できれば情報の価値は増し、その人に最適のサービスを提供できるはず」。データ流通戦略を進める内閣官房IT総合戦略室の幹部はこう語る。今年から総務、経済産業両省が観光分野での実証実験を始めるほか、生活習慣病予備軍の健康管理や、銀行やクレジットカード情報などの資産の一元管理など様々な計画が進む。

     背景には「GAFAに囲いこまれた情報を取り戻し、日本から革新的なビジネスを生み出したい」との狙いがある。GAFAとはグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4大IT企業で、ネット上の検索や購買履歴はほぼ彼らに牛耳られた。だが、主戦場がポイントカードやIoT機器などによる現実社会での行動情報に移りつつある今こそ、挽回の好機というわけだ。

    ■「提供先の選択権を」

     データを使いたい企業側の盛り上がりをよそに、提供する側の消費者の反応は冷ややかだ。全国1万人を対象に実施されたアンケート調査では約7割が情報銀行を「利用したくない」「どちらかといえば利用したくない」と回答している。

     だが、一連の構想に関わるマーケティング会社「インテージ」の伊藤直之氏は「情報銀行もデータ取引市場も、目的は情報のコントロール権を個人に取り戻すこと」と強調する。

     今、私たちがグーグルなどのサービスを利用するには規約に「あなたの情報を収集し利用する」と書かれていても「同意」をクリックするしかない。いわば、サービスと引き換えに自分の情報を相手の「言い値」で差し出している形だ。「今回の試みが定着すれば、消費者は自分の情報の提供先を同意の下で選べるようになる。消費者と企業の力関係を改善する一歩にしたい」と伊藤氏は意欲を見せる。

     とはいえ、そうした理念を実現する上で欠かせない環境整備は、進んでいるとはとても言い難い。

     例えば欧州連合(EU)が来年発効の一般データ保護規則に明記したデータポータビリティーの権利。自分のデータを事業者から回収したり別の事業者に移転したりする権利で、請求された事業者は機械で判別可能な電子的フォーマットで3か月以内に本人に提供しなければならない。これなら自分のデータを移転しやすくなり、消費者が企業を選択できるようになる。

     一方、日本にも開示や削除を請求する権利はあるが、要件が厳しく、事業者によってはデータをきちんと開示しなかったり、紙で出したり、提供まで何か月もかかったりするため、移管は現実的ではない。

     データポータビリティーとトレーサビリティー(データ提供先の追跡可能性)、そしてデータ削除を確実にする制度は、一連の構想を進める上で不可欠だ。制度整備がないまま構想が進めば、消費者にとっては結局、GAFAなど大手が中心だったデータ提供先が、分散して増えるだけで終わるだろう。

    各省が促進策 ガイドライン必要

     政府はデータ活用による第4次産業革命の実現を成長戦略の柱と位置づけており、各省庁も競うようにデータ流通促進の施策を練っている。パーソナルデータを含むビッグデータを集めてAI(人工知能)で解析し、効率的で便利な「データ主導社会」を実現するのが目指す方向という。

     たしかに人口減と高齢化が進む日本の課題解決にデータ活用は必要だ。だが、データを分野横断的に流通させることは、それだけプライバシーの脅威を増すことにつながる。政府のデータ流通戦略を巡る有識者会議メンバーでもある森亮二弁護士は「これまで個人情報は本人と第1次取得事業者が責任をもって守ることが原則だった。流通を進めるなら並行してセキュリティーにも配慮した保護の仕組みが必要」と指摘する。リテラシー(活用力)の低い消費者を守る対策はもとより、違法な転売や倒産、サイバー攻撃での情報窃取に対処するため参入企業の認証も検討が必要で、ガイドライン整備が急務だ。

    (編集委員 若江雅子)

    2017年04月10日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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