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    ITジャーナリスト三上洋さんが、サイバー犯罪から身を守る術や情報流出対策などを解説します。

    DeNA「WELQ(ウェルク)」休止…まとめサイトの問題点と背景は

     医療系サイト「WELQ(ウェルク)」をはじめDeNA(ディー・エヌ・エー)が運営するまとめサイトで不正確な記事や著作権無視の転用が次々と見つかり、休止に追い込まれた。

     他社のサイトでも、正確性を欠いたり、無断転用されたりした記事が見つかり、対応に追われるなど、波紋が広がっている。背景には「広告至上主義」「検索サイトの上位表示テクニック」の問題がある。(ITジャーナリスト・三上洋)

    不正確な内容、著作権無視の転用・盗用

    • 12月7日に行われたDeNAの記者会見。質問を含め3時間にも及ぶ長丁場だった
      12月7日に行われたDeNAの記者会見。質問を含め3時間にも及ぶ長丁場だった

     大手IT企業・DeNAが12月7日に記者会見を開き、運営していた10のまとめサイト休止と、不正確な医療記事・記事盗用などについて謝罪した。会見の中でDeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏は、記事内容に問題があったこと、他サイトからの記事の不適切な引用があったことを認めて謝罪している。

     きっかけとなったのは、医療系サイト・WELQの内容だった。10月末に「死にたい」というキーワードでGoogle検索すると、WELQの広告掲載記事がトップに表示されていることが問題になった。記事は転職サイトの広告に誘導するものであり、「死にたい」というキーワードで検索上位に表示されるようにページが作られていた。

     この問題をきっかけに、WELQが詳しく調査されるようになる。医療に詳しいライターの朽木誠一郎氏、SEO(検索サイトの上位に表示されるための最適化)の専門家である辻正浩氏、ITコンサルタントの永江一石氏などが、WELQの内容や他のサイトからの転用や盗用などの問題を分析。その上でネットメディア大手のBuzzFeed(バズフィード)が、内部マニュアルを入手した告発記事を出した。

     これらの追及によりDeNAは非を認め、記事の一部を削除したが、さらに問題がある記事・サイトが次々と発覚。最終的には、WELQや女性向け大手サイト・MERY(メリー)を含む、DeNAのまとめサイトすべてを休止することになった。

     また他社のサイトでも問題がある記事・サイトが続々と見つかっており、各社が対応に追われている。リクルートホールディングスでは9日に「アニプラ」など4サイトを、他のサイトからの画像転用があるとして非公開にした。サイバーエージェントも情報サイト「Spotlight(スポットライト)」の医療関連の記事で、内容の正確性を確認できないものの公開を取りやめた。10月にはヤフーも女性向けファッションサイト「TRILL(トリル)」で画像の無断転用があったとして記事を削除している。KDDI子会社が運営する「nanapi(ナナピ)」でも、医療や健康に関する記事をチェックするために非公開にした。

     これらのまとめサイトの問題は、以前から指摘されていた。特に記事内容や画像を転用されたことへの抗議は何度も行われていたが、ライターによる指摘だったためか個別対応にとどまっていた。しかし今回は専門家やネットメディアが集中的に調査をし、企業全体の問題であることがわかったことでメディアが大きく報道。それにより各社がまとめサイト事業全体の見直しを始めている。

    「工場」のように記事を大量生産

    • DeNAの記者会見にはネットメディア・新聞・テレビなど多くのメディアが集まった
      DeNAの記者会見にはネットメディア・新聞・テレビなど多くのメディアが集まった

     今回の事件の問題点は複数ある。筆者の視点と、会見での質問を含めて整理しておきたい。

    ★まとめサイト事件の問題点

    ●不正確な内容や荒唐無稽な記事が複数あった

     WELQでは牛丼チェーン店、中華料理のチェーン店のブランド名を使って「●●●(ブランド名)アレルギー」をタイトルに付けた記事が複数あった。これはお米や肉などのアレルギーに関する記事と、チェーン店のメニューを無理に結びつけたもの。誹謗(ひぼう)中傷とも言えるもので、有名チェーン店の名前をタイトルに入れることで、検索キーワードからの閲覧数を増やすことが目的だったと思われる。この他にも検索数を稼ぐために、不正確・荒唐無稽な記事が複数あり、内容のチェック体制に不備があったことをDeNA社長も認めている。

    ●著作権を侵害する記事内容や写真の転用・盗用

     WELQでは医師のブログの内容をコピペして利用していたほか、内容を改変して掲載していた。また女性向けサイト・MERYでも、他社の記事から写真や内容を勝手にコピーして使っていた。DeNA側がライターに渡しているマニュアルでは、他社のサイトを参考にすることを書いており、さらに同じ文章にならないように語尾を変えることを推奨していた(報道されているマニュアルについて、DeNA側が会見で認めている)。コピペで記事を作り、それがバレないように隠蔽することを推奨しているように見えるものだ。これについてDeNA社長は会見で「他サイトからの文言の引用を推奨していると捉えられかねない表現があった」として謝罪している。

    ●クラウドソーシングで専門ではないライターに「大量生産」させていた

     ネット上で仕事を仲介するサービス、「クラウドソーシング」で記事を外注。「知識のない人でもできる仕事です」として、専門外のライターに記事を書かせていた。原稿料は異常なほど安く、500文字・1000文字で300円から500円程度、比較的単価の高い医療系でも1文字当たり0.5円程度だった。これは原稿執筆というより、コピペによるまとめ作業と言ったほうがよいだろう。記事を大量生産する工場のようであり、ライターにとっては内職のような作業であった。

    ●「プラットフォーム提供」でごまかして記事の責任をあいまいに

     DeNAを始めとしたまとめサイト運営企業は、ほとんどが「プラットフォーム事業」として、サイトのシステムを提供すると称している。記事はあくまでライターが投稿しているもので、企業は責任を負わないという姿勢だ。しかしDeNAでは会社がライターを雇って書かせており、明らかに会社側の指示で記事を作っている。不正確な記事が存在していても、「当社はプラットフォームを提供しているだけです」と逃げて責任をあいまいにしていた。

     この他にも、DeNAによるまとめサイト買収での経緯が不明なこと(コピペで記事を作っていることを把握していながら買収したのか?)、企業の法務担当者によるチェックが甘すぎることなどの問題点が記者会見で指摘されている。DeNAによる説明がさらに必要であろう。

    信頼できない検索結果、サイトの信頼性が重要に

     今回の事件の背景には、Googleを始めとした検索サイトの問題や、ネット広告がキーワードで表示されることなどがある。筆者が考える背景を整理しておく。

    ●「広告至上主義」で検索サイト上位表示=SEOだけを重視

     検索サイトでの表示位置が、広告収入に直結する。特にスマホ時代では画面が小さいこともあって、検索キーワードで上位に表示されるかどうかで、広告収入が大きく変わる。そのため「SEO(Search Engine Optimization)=検索サイト最適化」というテクニックが使われている。検索されやすいキーワードをタイトルや見出しに入れる、記事を長くする、参照リンクを張り巡らせるといったテクニックがある。WELQの記事は、これらのSEOが最優先されており、記事の内容は二の次になっていた可能性が高い。

    ●キーワードや内容で広告自動配信。単価が高いキーワードを狙う結果に

     ネット広告の多くは検索キーワードやサイトの内容で、自動的に広告が配信されている。医療系のサイトでは、クリニックや薬品会社、エステや健康食品などの広告が表示される。これらの広告は、他のジャンルに比べて単価が高いため、医療系の記事・サイトを量産することで収入が大きく伸びる。WELQでは1日に100記事以上をアップしていたが、単価の高い広告で稼ぐために、内容を後回しにして記事を大量生産していたと思われる。

    ●著作権の意識が低い・メディアとしての自覚も足りない

     今回の事件では、DeNAとライターどちらも著作権の意識が低かった。他の記事の転用・盗用をしていたり、写真を勝手に使ったりなどの行為がまかり通っていた。また記事の正確性をチェックしない、取材せずに臆測で書くなど、メディアとしての問題点もある。これはDeNAに限らず、他のまとめサイト・ブログなどの一部にも当てはまる話である。

     一連の事件によって、ネット企業のまとめサイト事業では、記事の見直しや運営体制の再点検が行われている。しかし不正確な記事・コピペ中心のサイトは今でも大量にあり、改善しなければならないサイト・企業が複数ある。著作権をチェックし、内容に問題がないか確認してほしいものだ。そして筆者を含めて、メディアも自らの仕事を省みる必要がある。閲覧数重視でタイトルを過激にしていないか、内容が正確かを改めてチェックするべきだろう。

     私たちユーザーは、検索サイトでの表示結果は信用できないもの、と考えておきたい。現状の検索サイトは、残念ながらテクニックだけで上位表示できてしまうためだ。検索サイトでの検索表示位置よりも、サイト全体の信頼度で情報を探すようにしたほうがいいだろう。

    ●参考記事

    ・DeNAサイト休止、ネット検索の“盲点”とは:深読みチャンネル

    ・ネット通販詐欺サイト…「格安」検索トップに表示:サイバー護身術

    ・偽通販サイトがグーグル検索上位に登場:サイバー護身術

    DeNA医療系サイト「炎上」で休止…検索「誘導」過熱:解説スペシャル

    2016年12月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    三上洋   (みかみ・よう
     セキュリティ、ネット活用、スマートフォンが専門のITジャーナリスト。最先端のIT事情をわかりやすく解き明かす筆力には定評がある。テレビ、週刊誌などで、ネット事件やケータイ関連の事件についての解説やコメントを求められることも多い
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