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    ITジャーナリスト三上洋さんが、サイバー犯罪から身を守る術や情報流出対策などを解説します。

    西田敏行さん中傷のブログで書類送検…芸能フェイクニュースにだまされるな

     俳優の西田敏行さんに対し「違法薬物を使った」などと中傷する内容をブログに掲載した男女が書類送検された。広告収入を増やそうと、うその記事を作っていたようだ。芸能フェイクニュースにだまされないため、ユーザーも「情報リテラシー」を身に付ける必要がある。(ITジャーナリスト・三上洋)

    40~60歳代の男女3人を書類送検

    • 西田敏行さんの所属事務所(オフィスコバック)のウェブサイト。今回の事件について「今後このような心無い書き込みが無くなる事を祈ります」と書かれている
      西田敏行さんの所属事務所(オフィスコバック)のウェブサイト。今回の事件について「今後このような心無い書き込みが無くなる事を祈ります」と書かれている

     警視庁赤坂署が、西田敏行さんについて虚偽の記事を書き、所属事務所の業務を妨害した疑いで、中部地方に住む40歳代の女ら男女3人を書類送検したことがわかった。

     40歳代の女の送検容疑は、ネットの掲示板や雑誌などの情報を基に、西田さんが「違法薬物を使い、日常的に暴力をふるっている」などとする内容の記事を自分のブログに書いたことだ。別の60歳代男性、40歳代男性も同じ疑いだ。

     これらの記事により、出演予定のテレビ局などから事実確認の電話が殺到し、西田さんの所属事務所の業務を妨害したという。報道によると、3人は「興味を引く記事を掲載してブログの閲覧数を伸ばし、広告収入を増やしたかった」と容疑を認めている。

     西田さんの所属事務所は、「弊社所属の俳優 西田敏行に対するネットによる誹謗(ひぼう)中傷の書き込みについて赤坂署に相談して参りましたところ特に悪質な3件について、7月5日に送致されました。捜査に当たって頂いた警察の方々に敬意を表します。今後このような心無い書き込みが無くなる事を祈ります」とのコメントを出している。

    週刊誌→ネットの掲示板のうわさ→ブログ 転載を重ねてエスカレート

    • 芸能フェイクニュースが拡散する例
      芸能フェイクニュースが拡散する例

     容疑者のブログは特定できておらず、詳しい内容は確認できないが、ネットでどのようにニセ情報が流れるのか、ひとつのパターンを図にまとめた。

     偽記事は週刊誌のネタを基に書かれることがよくある。いまもネットで読める「有名人の薬物疑惑」の記事の場合、元プロ野球選手の覚醒剤取締法違反での逮捕を受け、週刊誌が「次に逮捕されるのは、大河ドラマ出演もある『大物俳優』」との臆測記事を出していた。

     ネット掲示板「2ちゃんねる」では、「この『大物俳優』は誰か」というスレッド(投稿)が立ち、その中で「西田敏行ではないか?」という書き込みが現れる。それを「2ちゃんねる」のまとめサイトや芸能ブログが、センセーショナルな見出しを付けて取り上げる。

     この記事が、さらにTwitterやLINEなどのSNSで拡散していく。元は単なる臆測なのだが、何度も転載、強調されることで、あたかも本当のことであるかのようにネット中に広がっていく実態があるのだ。

    記事がヒットすればブログの収入だけで暮らせる!?

     芸能情報を取り上げるブログは閲覧数を稼げるため、広告収入目当ての個人ブログが大量に存在している。

     広告収入には主に「クリック型広告」と「アフィリエイト広告」の2種類がある。クリック型広告は、その記事にあるバナー広告を閲覧者がクリックした数に応じて支払いが発生するもの。アフィリエイト広告は、バナー広告から商品が購入されると、代金の一部が収入になるものだ。

     収入額は不明だが、おおまかに言って、クリック型広告は1閲覧数(PV)あたり0.05円から0.2円程度になることが多い。つまり1万PVあると、おおむね500円から2000円程度の収入と考えてもよい(あくまで目安であり、サイトの種類や内容・閲覧数によって大きく変わる)。

     芸能ブログでヒット記事を出すと、1か月で100万PVに届くことも珍しくない。それだけで5万円から20万円程度の収入になり、これにアフィリエイト広告による収入も加われば、ブログだけで暮らしていくことは不可能ではない。

     ただし芸能ブログは、掲示板などの書き込みをまとめるなどして、誰でも簡単に作成できてしまうため、競争が激しい。競争を勝ち抜くために、よりセンセーショナルな記事を作ろうとする。そんな中で、西田敏行さんなど有名人の薬物疑惑を偽の記事にしてしまうわけだ。

     またネット記事の閲覧数は、タイトルで決まるという問題もある。よりショッキングなタイトルを付けた方が閲覧数が上がるため、大げさな言葉を使いがちだ。そしてSNSでは、そのタイトルだけが独り歩きしてしまう――偽の記事が拡散する「負の連鎖」が続いてしまうのだ。

    「フェイクニュース」に対し警察が本腰か

     今回の送検容疑は「偽計業務妨害」だ。うそを言って業務を妨害したという意味だが、芸能人の虚偽ネット記事に対して「偽計業務妨害」を適用するのは、異例のことだ。

     ネット上の爆破予告や殺害予告、自殺をほのめかす書き込みなどで「業務妨害」が適用されるのは一般的だが、今まで、芸能人をネットで誹謗中傷したとして逮捕・送検されるケースは、ほとんどが名誉毀損(きそん)だった。

     名誉毀損は被害を受けた側が告訴する必要のある「親告罪」だが、偽計業務妨害は警察の捜査だけで摘発できる。偽記事、いわゆるフェイクニュースがネットで大きく拡散する問題は、2015年頃から世界的に大きな問題になっている。今回の件は、偽記事に対し、警察が強い姿勢で取り組もうとしている証しかもしれない。

     アメリカではGoogleやFacebookなどが、検索結果で上位に表示しないようにするなどフェイクニュース対策に乗り出している。その記事が本当なのか確かめる「ファクトチェック」の機関も複数あるが、日本でもファクトチェックを進める「ファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)」が、東北大やスマートニュースなどの関係者によって6月に発足した。

    あなたもフェイクニュースを拡散するおそれがある

     日本でのフェイクニュース対策は始まったばかりで、今のところほぼ規制のない状態だ。社会を騒がせる事件が起きるたびに、フェイクニュースが必ずと言っていいほどネットに現れる状態で、見る側が普段から警戒する必要がある。


     筆者が考えるフェイクニュース対策をまとめておこう。

    ★フェイクニュースにだまされない・加担しないために

    ●ショッキングなタイトル・感情を揺さぶるタイトルは信じない
     フェイクニュースは閲覧数を上げるために大げさなタイトル、いわゆる「釣りタイトル」を付ける。従って、怒りや正義感、悲しみなどをあおるタイトルは信用しないこと。他のメディアに一切出ていない“スクープ記事”も疑うこと。

    ●出典はどこか常にチェックする
     ネット上の記事は転載に転載が重なるため、元の情報源、元の記事はどこなのかわかりにくい。「出典がハッキリしないものは信用しない」「元の記事を出したサイトが信用できるか確かめる」――この2点を常に心がけよう。

    ●安易に「シェア」「リツイート」をしない
     記事を読んで「これはひどい」「不正だ」「新情報だ」と感じ、Twitterでリツイートしたり、Facebookでシェアしたりしたくなったら、一度踏みとどまること。反射的にSNSボタンを押すのはやめよう。

     特に「拡散しない」ことは大切だ。フェイクニュースにだまされるだけなら自分だけの勘違いで済むが、SNSなどで知人に広めてしまうと偽情報の一層の拡散に自分も加担することになり、偽情報を扱うサイトに広告収入をもたらすことにもつながってしまうからだ。安易に拡散しないよう、心に一度ブレーキをかける癖をつけてほしい。

    ★参考記事

    DeNA報告書の重要ポイントを読み解く:サイバー護身術

    DeNA「WELQ(ウェルク)」休止…まとめサイトの問題点と背景は:サイバー護身術

    NHKと芸能人を騙る詐欺広告がFBに:サイバー護身術

    2017年07月26日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    三上洋   (みかみ・よう
     セキュリティ、ネット活用、スマートフォンが専門のITジャーナリスト。最先端のIT事情をわかりやすく解き明かす。テレビ、週刊誌などで、ネット事件やケータイ関連の事件についての解説やコメントを求められることも多い。
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