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(番外編)iPS細胞のこれから 山中伸弥教授に聞く

米と対等の「土俵」必要

山中伸弥教授

細胞できる過程 解明し効率化

 様々な臓器・組織になる能力を秘めた新型の万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」。人の皮膚からiPS細胞を初めて作製し、注目を集めている山中伸弥・京都大教授に、研究の見通しなどを聞いた。

 ――研究生活に変化は。

 山中 今までと変わりはないが、世界中から再生医療をはじめ様々な共同研究の申し入れがきている。米国からは、特定の病気のiPS細胞を作り、薬の候補となる化合物探しや副作用の実験に使いたいというのが大半だ。できるだけ要望に応じられるよう、若手研究者にiPS細胞の培養を指導しているが、提供には限りがある。

 ――iPS細胞研究センターが発足、オールジャパン体制も整いつつある。

 山中 まだレースは、マラソンで言えば、折り返し手前の10キロ地点を過ぎたばかりで、先は長い。

 臨床や創薬への応用には、やらなければならないことが多い。安全性の向上、狙った細胞への分化(変化)誘導、動物を使った移植の実験だ。国内の協力体制を強化し、いかに効率よく早くやるかだが、欧米諸国の目標も同じ。見通しは非常に厳しいと思っている。

 ――それはなぜか。

 山中 日米の幹細胞研究は、マラソンでいえば、米国は研究者を支援する体制が整い、個人に合わせたウルトラスペシャルドリンクを1キロごとに置いてある。一方、日本は1人で、「水があればいい。根性でいけ」という。同じコースで走ったら勝てるわけがない。

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 今回、国内から予想を上回る支援をいただいた。それでも、ようやく共通のドリンクの粉を水に溶かして飲めるようになった程度。米国に勝ってくれという期待はあるだろうが、そう甘くはない。日米の差は冷静に判断する必要がある。

 ――どうすればいいか。

 山中 できることは二つある。一つは棄権すること。もう一つは、負けるとわかりつつも頑張る。棄権すると、ここから先の知的財産はすべて外国のものになる。日本発の技術が応用された時に莫大(ばくだい)な特許料を払わなければならなくなる。だから棄権はできない。米国の10分の1でもいいから知財を出し続ける努力をすることだ。それには対等に勝負できる体制が必要だ。

 ――若い研究者の育成が重要だ。

 山中 欧米と比べ貧弱な環境のなか、日本の若手研究者は頑張っている。研究環境をよくしてあげると同時に、基礎研究の地位を上げることも重要だ。資源もない日本で、科学技術は世界で優位に立てる原動力。基礎研究に若い人が集まるようにしないといけない。

 ――研究の展望と課題を。

 山中 iPS細胞を作製するのに導入した3遺伝子がすべてではない。数千個の皮膚細胞からできたiPS細胞はたった1個。なぜその1個ができたかがわかれば、効率を高めることができる。遺伝子の代わりに万能性を引き出す化合物の探索も、米国相手に苦しい戦いになるだろうが、先を越されてももっと優れた化合物を見つければいい。

 臨床に近づく分化誘導は、ES細胞(胚(はい)性幹細胞)の成果が利用できる。国の規制があるES細胞とは違い、iPS細胞は自由に使えるので、研究のスピードは格段に上がるのではないか。

冷静に現状認識

 大胆で斬新なアイデアを基にパイオニアとなった山中氏の現状に対する認識は努めて冷静だ。国際間の競争が激化する中、焦って結果を求めることには慎重で、日本チームのリーダーとして新たな切り口で展望を探ろうとする決意を感じた。むしろ10年、20年先に花開く研究や人材育成を見据えているのではないか。その戦略性と研究への真摯(しんし)な取り組みを、見届けたいと思う。(矢沢寛茂)

 やまなか しんや 1962年、大阪府生まれ。神戸大医学部卒。大阪市内の病院で整形外科医として勤めた後、大阪市大大学院、米グラッドストン研究所などを経て99年に奈良先端科学技術大学院大助教授。2004年、京都大再生医科学研究所教授、今年1月、iPS細胞研究センター長。
2008年2月10日  読売新聞)

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