(5)再生医療 普及へバンク200種類用意の構想![]() 提供を受けた胎盤などから約200種類のiPS細胞を作り、保存するためのタンク(国立病院機構大阪医療センターで)
「患者本人の細胞からiPS細胞(新型万能細胞)を作るオーダーメードの再生医療は、早期の治療が必要な脊髄(せきずい)損傷では非現実的だ」 2月20日、国の総合科学技術会議iPS作業部会で、岡野栄之・慶応大教授は、iPS細胞による拒絶反応のない再生医療への過剰な期待にクギを刺した。 岡野教授によると、脊髄損傷の治療で神経細胞を移植するのは、損傷から9日目ごろが最適とされる。しかし患者本人の皮膚から神経細胞を作るには、腫瘍(しゅよう)化の危険性などを調べるため、約2年かかる。これでは効果が期待できない。 そこで岡野教授は、安全性を確保したiPS細胞や神経細胞を多数作製し、保存しておく細胞バンクの設立を考えている。拒絶反応の原因となる白血球の型の不適合をなくすため、型が異なるiPS細胞を200種類用意する。これで日本人の8割に拒絶反応のない細胞が作れるという。 共同研究者の国立病院機構大阪医療センターの金村米博医師は「バンクは高品質で安い移植用細胞が提供できる。脊髄損傷に限らず、iPS細胞を使う再生医療の普及には、バンクが望ましい」と強調する。 創薬分野でもiPS細胞の本格的な活用が始まりつつある。 東京・港区のバイオベンチャー企業「リプロセル」は現在、サルの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から心筋細胞を作製。その細胞に、製薬会社から依頼された新薬の候補物質を投与して毒性を調べる事業を行っている。これを発展させ今年中に、人のiPS細胞を使った事業も始める。 iPS細胞の実用化へ課題も見えてきた。一つは、国の再生医療に関する指針は、体内に元々ある幹細胞が対象で、iPS細胞を想定していない点だ。iPS細胞を使う再生医療技術が確立しても、指針が間に合わず、安全面などから臨床応用できない恐れがある。 もう一つは、日本で治療の技術が医療特許として認められていない点だ。 バイオベンチャー企業の取締役を務める森下竜一・大阪大教授は「医療特許の範囲が狭いままだと、企業が参入しない。今からでも欧米並みに医療特許を広く認めれば、日本がiPS細胞の産業化・実用化で勝てるかもしれない」と訴える。 文部科学省は先月29日、実用化に向けて京都大や慶応大など四つの研究拠点を選定、オールジャパン体制がいよいよ動き出す。山中伸弥・京都大教授はこう語る。「これからの道のりは、iPS細胞の作製までにかかった道のりよりも長いだろうが、一日も早く実用化させたい」(おわり) ◇吉田昌史、木村達矢、行成靖司、今津博文、矢沢寛茂が担当しました。 (2008年3月9日 読売新聞)
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