文字サイズ
      宮内庁正倉院事務所(奈良市)が毎年行う宝物の修復や調査、分析、整理から判明した新たな事実を毎年初夏に「正倉院紀要」として刊行。ここでは最新の正倉院紀要に沿って、宝物保存の最前線をご紹介します。

    【宝物は語る】(1)「最勝王経帙」

    経典を二重に固定していた

    • 「最勝王経帙」表(写真と画像はすべて宮内庁正倉院事務所提供)
      「最勝王経帙」表(写真と画像はすべて宮内庁正倉院事務所提供)
    • 「最勝王経帙」裏
      「最勝王経帙」裏
    • 「最勝王経帙」の失われた帯の一部とみられる残片。矢印は分析箇所
      「最勝王経帙」の失われた帯の一部とみられる残片。矢印は分析箇所
    • 経典をどのように巻いていたかを示す使用例案
      経典をどのように巻いていたかを示す使用例案

     帙は、経巻などが傷まないよう包む覆いのこと。だが、宝物の写真を見てもわかりにくい。いったいどのようにして包んだのだろう。

     「最勝王経帙(さいしょうおうきょうのちつ)」は、本体の幅約30センチ、長さ約52センチ。太さ1ミリ足らずの竹ひごを並べて芯にし、絹糸で編んで、表側には文様と文字を表現している。内側には立菱唐草文の赤い絹織物を貼っている。表側の帯2本のうち、1本は長さ約42センチ、幅3センチで完存する。本体の左上に先端があるのがそれだ。もう1本は途中で切れてなくなっており、長さ11センチ分しか残っていない。本体の中央に途中まで乗っているのがそれだ。裏側にも長さ約87センチの帯があり、真ん中の一部を本体に縫いつけてある。本体裏側中央から長さ40センチ強の2本の帯が出ている格好だ。写真では折りたたんでいる。

     宮内庁正倉院事務所整理室長の田中陽子さんが、帙の使用例を一案として図示してくれている。

    包み方はこうだ。まず裏側を上にして帯を広げ、経巻を10巻ばかり積む。これを裏側の帯で結ぶ。その後本体で覆いかぶせ、表側の帯で結ぶ。単に覆って丸めるだけでは中から経巻が抜け落ちてしまう。裏と表の帯で二重に固定する仕組みだ。

     近年、新たな発見があった。2015年度に整理を行った染織品の中に、赤色でX字形が連続する模様の帯の残片がある。幅は3センチ。長さは1片が約20センチ、他の7片は小さいが、長さ9センチ分ほどになる。これが、失われた表側の帯だと確かめられたのである。

     本体に残る表側の帯も赤いX字形が連続するデザインだ。蛍光分光分析などで、どちらの赤色も茜(あかね)を用いたとわかった。絹糸の()り(ねじり)方も共通していた。これで、表側の帯も、2本とも長さ41~42センチだったとみてよさそうだ。

     正倉院事務所では、どんな小さな染織品の断片でも、すべて大切に整理し保管されてきた。「だから最勝王経帙のちぎれた帯だとわかった」と田中さんは話す。

     ところで表側には、極楽浄土にいる鳥、迦陵頻伽(かりょうびんが)とともに、「天平十四年(742年)」「二月十四日(ちょく)」「天下諸国毎塔安置金字金光明最勝王経」の文字が、文様を囲むように表現されている。聖武天皇が発した国分寺関係の詔勅(しょうちょく)のことと思われるが、「続日本紀」によると、その日付は天平十四年でなく「天平十三年」である。この帙の製作にあたり、1年誤ったのだろうか。それとも天平14年に再度、同趣旨の勅が下されたのだろうか。

     (読売新聞大阪本社記者  戸田 聡)

     この連載は、今年発行の「正倉院紀要」から、正倉院宝物の調査・分析結果や保存・修理の様子を紹介しています。今年の正倉院展に出陳されるものもあれば、そうでないものもあります。

    2017年09月05日 11時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    会場状況

    第69回正倉院展は、おかげさまで無事終了いたしました。多くのお客様にご来場いただき、誠にありがとうございました。

    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP