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かぐやが解き明かす月の神秘…動画付き

ガリレオが描いた月のスケッチ。出典:ガリレオ・ガリレイ『星界の報告』1610年初版(金沢工業大学所蔵、三澤純子撮影)

 ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡を用いて月の観測を始めたのは1609年12月。それから400年後の今、月世界の姫「かぐや」が、月の神秘を解き明かそうとしています。

 ガリレオのスケッチには、大小のクレーターが描かれ、山脈や平原が広がっていました(図1参照)。その後の望遠鏡の発達によって、小さなクレーターまで観測できるようになり、月面図が作成されるようになりました。しかし、それは、地球から見える月の表側の姿のみ。裏側の様子や月がどのような物質でできているのか、といったことについてはは、20世紀後半のロケットを使った月探査の時代を待つことになります。

 その始まりは、1959年、ソ連の月探査機「ルナ2号」が月への到達に成功したことでした。同年、「ルナ3号」は、月の裏側の撮影にも成功し、人類は初めて月の裏側の様子を知ることができました。その後、ソ連の「ゾンド」、アメリカの「レインジャー」、「サーベイヤー」など、多くの月探査機が、月面衝突や、月周回、月面着陸、月から地球への帰還などに挑戦しながら、月の撮影や測量などを積み重ねました。1969年7月には「アポロ11号」が初の有人着陸に成功し、以後、5回の有人着陸が行われました。月面に降りた宇宙飛行士たちは、月の撮影や、観測機器の設置、岩石の収集などをしました。持ち帰った月の石の分析から、月が地球とほぼ同じ45億年前に誕生したらしいことがわかりました。しかし、当時の観測機器や観測地域が一部に限られていたために、月がどのようにして誕生し、どのように進化してきたのか、といった謎を解くことはできませんでした。

「かぐや」のレーザー高度計(LALT)のデータで作られた月面図(上図)と、「アポロ」や「クレメンタイン」のデータで作られたULCN 2005(Unified Lunar Control Network 2005)の月面図(下図)。両者を比較すると、地形図の精度が劇的に向上しているのがわかります。(©JAXA/SELENE 処理・解析:国立天文台)

 2007年9月、日本の月探査機「かぐや(SELENE)」は、月の起源と進化の謎を解明するための多くの観測機器を搭載して打上げられました。「SELENE(セレーネ)」とは、ギリシャ神話の月の女神の名前にちなんでつけられた、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査プロジェクトの名称(SELenological and ENgineering Explorer)です。「かぐや」の愛称は、JAXAの行った一般公募によって決まりました。この計画は、アポロ計画以来最大規模の本格的な月探査として、各国からも注目されています。ギリシャ神話の女神と、竹取物語の姫の名。月に寄せる人々の思いの深さ、「かぐや」への期待の大きさが伝わってくるようですね。

 「かぐや」は、月の上空約100キロメートルのところを回りながら、月の南極も北極も含めて月のすべてをくまなく観測しています。2009年2月、「かぐや」に搭載されたレーザー高度計で取得された677万地点のデータによって作られた、月の地形図が公開されました(図2参照)。

 レーザー高度計は、月面に向かって1秒間隔でレーザー光を発射し、光が戻ってくる時間を計ることで高度を測定しています。「かぐや」は、南極と北極を結ぶ軌道を周り、約1.54キロ間隔で細かく月面を観測しました。
これまでにも、アメリカの「アポロ」や「クレメンタイン」という月探査機などのデータを用いて作られた地図がありましたが、高度の誤差は、数百メートルと見積もられていました。これに比べて、「かぐや」の誤差はたったの約4メートル。非常に精度の高い地図を作ることができたわけです。

「かぐや」に搭載された地形カメラのデータを元に制作されたティコ・クレーターの様子。クリックするとティコ・クレーター上空の遊覧飛行を見ることができます。(©JAXA/SELENE)★動画はこちら

 「かぐや」に搭載された地形カメラも、これまでにない精度の高いカメラです。レンズが二つあり、ひとつが「かぐや」の進行方向前方を写し、もうひとつが後方を写します。同じ場所を二つの角度から写すことによって、月の地形を立体的に捉えることができるのです。複雑な地形も詳しく見ることができるようになりました。たとえば、月面にひときわ白く輝いているティコ・クレーターの様子は、地形カメラのデータを利用して、ハイビジョン映像として見ることができるようになりました(図3参照・クリックすると動画が再生されます)。

 ティコ・クレーターは、4600メートルもの深さがあり、クレーターの中心には丘がそびえたっています。このような丘を一般に中央丘と呼んでいます。月のクレーターは隕石(いんせき)が衝突してできたと考えられています。比較的大きなクレーターの中心にできる中央丘は、隕石の衝突の影響で、月の内部の物質が、押し上げられて地表に露出したものだと考えられています。そのため、中央丘とその周辺の形や、物質の種類を分析することは、月の内部の構造を知る手がかりともなり、月の起源と進化を解明するための重要なポイントとなっています。

ウェブサイト『月の歩き方』の一部。クレーターの名前をクリックすると、「かぐや」の成果や、名前の由来になった科学者の功績などが紹介されます。(制作:MT-planning、監修:JAXA)★動画はこちら

 それでは、物質の種類はどのように分析するのでしょうか? 「かぐや」には、マルチバンドイメージャとか、スペクトルプロファイラといった装置が搭載されています。これらの観測機器は、光の波長を細かく分解して、反射光の強弱を計測する観測機器です。光には目で見える可視光線や赤外線などいろいろな波長があります。どんな波長の光をどのくらい反射するかは、物質の種類によって異なるため、反射の様子を細かく分析すると、どんな物質があるのか、ということを推測できるのです。つまり、どのような岩石がどう分布しているかが詳しくわかるようになるわけです。こうして収集されたデータが、月がどのように作られてきたのかを解明する糸口になるのです。

 JAXAの宇宙オープンラボでは、『月の歩き方』というウェブサイトを作成しました(図4参照)。『月の歩き方』には、世界地図のように月の裏と表の両方を地図に描いて、月のクレーターの名称を書き込んでいます。クレーターには、「コペルニクス」や「ケプラー」など、天文学や科学に貢献した人々の名前がついています。クレーターの名称をクリックすると、名前の由来になった科学者の功績や、アポロ計画など月探査の歴史と共に、「かぐや」の成果やハイビジョン映像をご覧いただけます。

 「かぐや」は、当初計画されていたほとんどの観測を大成功のうちに終えることができました。そして春に向かって、月面をさらに詳しく調べるため、高度を50キロメートルにまで下げる計画が進行中です。公開されるデータは『月の歩き方』でもさらに紹介していく予定ですので、ぜひ、ご覧ください。

宇宙オープンラボ
宇宙オープンラボとは、企業や大学などが、JAXAと連携協力して行っている、魅力的な宇宙プロジェクトや宇宙ビジネスの創出を目指した取り組みです。


関連動画リンク
◆「かぐや」に搭載された地形カメラ http://wms.selene.jaxa.jp/selene_viewer/jpn/observation_mission/tc/012/tycho_20mbps.html
◆JAXAの宇宙オープンラボ作成 『月の歩き方』 http://mt-lab.com/zoomoon/HWM/mediatable.html

(三澤純子:国立天文台 科学プロデューサ養成コース受講生/JAXA宇宙オープンラボ 共同研究者/有限会社エム・ティ・プランニング)
(協力・国立天文台 科学文化形成ユニット/JAXA/金沢工業大学)

2009年2月19日  読売新聞)
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