旅には物語がある。
懐かしいふるさとへ、新たな生活の地へ、
そして、大切なあの人のもとへ……
それぞれの思いを胸に、人は駅をめざす。
この旅の先には、
どんな未来が待っているのだろう?
ゆったりとシートに身を預け、
車窓から外を眺めてみる。
そこにはきっと、あなたにしか見えない風景が
広がっているはずだ。
ときに切なく、ときに温かく。
この半世紀、
人々の物語を映し続けてきた車窓と共に、
さぁ、旅に出よう。
東 京

東京

出発直前、最速8分の電撃戦

 新大阪駅まで500キロ超の新幹線の旅は清掃から始まる。ピンクの制服に身を包んだ清掃スタッフは、乗客の降車を見届けると車内へ。手早くゴミを回収し、いすを180度回転させる。その熟練の技には一切の無駄がない。さらに、ヘッドレストのカバーをしわ一つない真っ白なものに取りかえ、右手のほうきで座席を掃き、左手の雑巾でひじ掛けを拭く。スピーディーな動きは、正に「魅せる清掃」だ。停車中に与えられた清掃時間は実質10分ほど。最速8分で終了するという。車内をリフレッシュしたら、いざ出発! ゼロキロポストを起点に新幹線の旅は始まる。

品川

7キロ目の新駅効果

 東京駅―品川駅間の距離はたったの7キロ弱。2003年、この至近距離に新駅が開業した。目的は、輸送力の増強だ。東京駅の1時間あたりの発車可能本数は15本。だが、品川駅手前で分岐する大井車両基地への回送車両に運行枠を取られ、その本数は制限されてきた。品川駅を「折り返し駅」として使うことで、1時間あたり15本までの運行が可能となる。開業して10年を超えたが、初めての折り返し運転は今年1月。有楽町駅近くで建物火災が起きた時だった。

新横浜

シューマイ駅弁、旅のお供に

 東海道新幹線で最も親しまれている食べ物と言えば……? 答えは「シューマイ」かもしれない。車内や駅などで駅弁を販売する「ジェイアール東海パッセンジャーズ」のまとめによると、駅弁ランキング1位は新横浜、東京、品川駅などで販売している「焼売炒飯弁当」(税込み910円)。豚肉の旨味が凝縮された肉焼売と、海老のプリプリとした食感がうれしい海老焼売の2種類の焼売や、パラパラのたまご炒飯が楽しめる一品だ。崎陽軒(横浜市)のシウマイ弁当(税込み800円)も、新横浜駅で1日平均1400食ほどを売り上げる人気商品として知られている。

小田原

巨大ちょうちん、職人の技

 江戸時代に宿場町として栄えた小田原は、ちょうちん作りで有名。小田原駅の改札口では、巨大な「小田原ちょうちん」が乗降客を出迎えてくれる。直径約2メートル50、高さ約4メートル50、重さは約200キロ・グラムもある。現駅舎が2003年に完成した際、ちょうちんの骨組み作りから文字描きまで一貫して手がける職人が制作した。山梨県で見つけた厚い和紙を使っているという。

熱海駅

「ATAMIから観戦」計画

 1964年、東京五輪開幕9日前に開業した東海道新幹線は、海外からも耳目を集めた。外国人観戦団の宿泊地として注目されたのが、温泉地・熱海。フランスの観戦団は、熱海―東京間を毎日新幹線で往復する計画を立てた。だが、開業約1か月前に発表された時刻表を見ると、東京発の最終列車は午後9時30分の「早じまい」。競技が終わるまで観戦すると、終電に間に合わないことに・・・。計画はあっけなく頓挫した。

 また、駅付近は、新幹線有数の急カーブとなっており、減速が必要だ。東海道新幹線の駅通過速度としては最も遅いという。かつては、そのカーブを逆手にとり、花火大会の時は意図的に減速する粋な計らいがあったとか。

三島

初の新駅、宿場町の執念

 新幹線開業5年後に設置された最初の「新駅」。三島は、伊豆の国府、東海道の宿場町として古くから栄えた。だが、鉄道が開設された明治時代、「宿泊客が連れ去られる」として鉄道の乗り入れを拒否し、周囲の発展から取り残された。1965年、その教訓を元に、新幹線駅の誘致活動が始まった。市が用地を無償提供し、工事費を全額負担。さらに約8900万円の地元負担金を拠出することで、悲願の新駅誘致が実現した。「ひかり」が増発した2003年には、当時の市長が「これからは東京都三島区です」と宣言し、話題になった。

新富士

振り向けば霊峰

 唯一の新幹線専用駅・新富士駅近辺は、雄大な富士山の威容をのぞめる絶景ポイントがたくさん。ただ夏は、車窓から富士山が見える確率は低い。駅から北東に約2キロの位置にある富士市庁舎での観測では、6月~8月に富士山全体が望める日数は月3日ほどしかない。お勧めは、空気が澄み晴れの日も多い12月や1月で、月20日ほど見られる。通常、富士山が見えるのは、山側のE席側だが、その先の静岡駅を出た先に海側のA席側に見えるポイントがある。安倍川を渡り、左に大きくカーブする地点で東京方面を振り返ってみよう。約1分間、車窓から富士山が見えるはずだ。

静岡

「目に入らぬ」家康公

 駅周辺にある3体の徳川家康像が、にわかに注目を集めている。存在感からではなく、“目立たない”ことで話題になってしまったのだ。「観光客が動くルート上にない」との批判を受け、静岡市はいま、像へ誘導するシールを路面に貼るなど周知に躍起。3体はそれぞれ、3度にわたり駿府で過ごした家康を表現し、少年、壮年、老年となっている。2015年は、家康の400回忌の節目。静岡訪問の際は、ぜひ駅北口の竹千代像と記念撮影を…。

掛川

大群衆の「ニッポン」コール

 掛川駅に、1000人以上の大群衆が押し寄せた。2002年6月14日、日韓サッカーW杯で、日本代表が悲願の決勝トーナメント進出を決めた夜のことだ。大阪でのチュニジア戦を終えた「トルシエジャパン」は午後10時半ごろ、静岡県袋井市内の宿舎へ戻るため、「こだま490号」で掛川駅に到着。地元住民やサポーターらが出迎えた。さほど広くない駅南口は人であふれ、「ニッポン」コールが響き渡った。

 このW杯では、ベッカム率いるイングランド対ブラジル戦など3試合も、掛川駅に近い袋井市のエコパスタジアムで開かれた。試合終了の時刻に合わせ、掛川駅発の東海道新幹線が深夜から未明にかけて特別に運行され、多くのサポーターが臨時列車を利用した。駅が大いに盛り上がった6月だった。

浜松

踏切わたってさぁ車検

 浜松駅から西に2.5キロほどの場所にJR東海の浜松工場がある。この工場は、東海道新幹線を一度解体してすべての機器をチェックする「全般検査」などを行う、新幹線の「車検場」だ。全般検査では、台車や主電動機をチェックするほか、車体をきれいに再塗装する。かかる時間は、N700系の場合15日間ほど。工場へ向かう引き込み線は一般道を横断しており、ここは東海道新幹線が「踏切」を通る様子がみられる唯一のスポットだ。1日平均2~3本が踏切を通過する。

豊橋

カレーとうどん、まさかの「同居」

 まちおこしの起爆剤にと、駅周辺の店を含め、愛知県豊橋市内のうどん店などが作り上げたのが「豊橋カレーうどん」。とろろご飯が潜む「驚きの2層構造」が売りで、全国ご当地うどんサミットで準グランプリに輝いた。

 駅で販売される「いなり寿司(ずし)」も名物の一つ。駅の近くにある愛知県豊川市の豊川稲荷は日本三大稲荷に数えられ、門前町では葉ワサビのしょうゆ漬けをのせたいなり寿司など、各店が工夫を凝らした一品が並ぶ。

三河安城

「日本デンマーク」の志

 駅のある愛知県安城市は昭和初期、近代農業が広がり、世界の農業先進国だったデンマークに例えて「日本デンマーク」と呼ばれた。地元の県立農業学校(現在の県立安城農林高校)の初代校長だった山崎延吉という指導者のもと開墾を続け、多角的で新しい農業にチャレンジ。その歴史にちなみ、市内には自然公園「デンパーク」が整備されている。かつては、「Oh!デンマーク」と名づけられた駅限定の洋風弁当も発売されていた。

名古屋

乗らなくてもホームできしめん 

 名古屋駅には、全国のJR駅で唯一、入場券専用券売機が設置されている。JR東海は「需要が多いことから、撤去は考えていない」としている。その理由は、新幹線ホームに4店舗ある「きしめん屋」。「途中下車してでも食べたい」と評判の名古屋名物で、昼時になると行列ができる。入場券を買って、わざわざホームまで食べに来るビジネスマンも多いとか。1店で1日あたり1000食超を提供しているという。

撮影は夜更け過ぎに・・・

 1989年に放映され、当時17歳の女優牧瀬里穂さんが出演する「クリスマス・エクスプレス」のテレビコマーシャルが撮影されたのが、深夜、終電が出た後の名古屋駅構内。
 最初の構想では、牧瀬さんが駅構内を走り、新幹線ホームで恋人と再会する、というストーリーだったが、別の企業のCMと酷似していることが判明。改札口から出てくる恋人の姿を見つけた牧瀬さんが、さっと柱に隠れて深呼吸するシーンに急きょ変更された(動画は、東海道新幹線 開業50周年記念サイト提供)。

岐阜羽島

味噌カツ「ブレイク」予言

 作家の向田邦子さん(1929~81)が、生まれて初めて「味噌(みそ)カツ」を食べたのが、岐阜羽島駅の食堂。その時の感想を、1981年の週刊誌連載のエッセーに書いている。油のしつこさを味噌が殺して、ご飯ともよく合う、といたく気に入った様子で、「これぞ餡(あん)パンに匹敵する日本式大発明、いまに日本中を席巻するぞ」と絶賛した。このエッセーは「味噌カツ」のタイトルで、エッセー集「霊長類ヒト科動物図鑑」(文春文庫)に収められている。

米原

最速伝説443キロ

 下り列車が駅を出ると、すぐ左手に、未来的な3両の新幹線が並んでいるのが見える。鉄道総合技術研究所(JR総研)の風洞技術センターだ。3両はJR各社が1990年代、新幹線での時速300キロ以上の営業運転を目指し、高速試験に使った車両でいずれも鋭い先頭形状が特徴。米原寄りから、JR東海「300X」、JR東日本「STAR21」、JR西日本「WIN350」の3型式。300Xは96年7月26日、米原―京都間で、リニアを除く鉄道で国内最速の時速443.0キロを記録した。

京都

「同い年」のタワー

 駅北側のビルに立つ白い塔は、今やランドマークとなった京都タワーだ。1964年12月に誕生し、こちらももうすぐ「50歳」を迎える。高さ31メートルのビル上に、100メートルのタワーが載った構造で、古都に残る町家の瓦を波に見立て、灯台をイメージしてデザインされた。当初は「街並みにそぐわない」と景観論争も起きたが、新幹線開業5周年を記念した駅の入場券には、0系車両との「ツーショット写真」が使われている。

新大阪

知られざる東西の境目

 新大阪駅に到着し、さらに西へ東へと向かう列車は、ここでJR東海、西日本の運転士、車掌らがそれぞれの業務を引き継ぐ。ところで、東海道新幹線と山陽新幹線の「境目」はどこにあるのか。ホームの端っこ?それとも駅の中心?。答えは、駅から西へ2.8キロ先に行った高架上だ。この地点を境に、信号システムの担当が東はJR東海、西はJR西日本となる。車窓からは何も見えないが、下り列車だと、駅を出て右カーブが始まるところに当たるという。

*運転士が選ぶベストビューの集計方法:運転経験5年以上の運転士16人が、東京~新大阪を3分割した各エリアから、それぞれ選択した一番好きな風景を集計
今回取り上げた新幹線写真の一部は、「よみうり報知写真館」で購入できます
 
協力
公益財団法人 鉄道総合技術研究所  JR東海  JR西日本  久保敏さん  かけやまさん(新幹線側面写真提供)
 
製作
[編集] 東京本社社会部・編成部・校閲部 大阪本社社会部 中部支社社会G 東京本社メディア局企画開発部・川嶋路大 武田潤 同編集部・田口栄一
[デザイン] 東京本社メディア局企画開発部・雨宮健雄 藤垣円 荒木田美咲  [イラストレーション] 荒木田美咲  [フロントエンド開発] 雨宮健雄 西川一格
[写真] 東京本社写真部 中部支社写真G 大阪本社写真部  [動画] 蓑輪潤 西山修平
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