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いつかメジャーでMVP

 自信とはね、自分の未来の可能性を信じるってことなんだよ――。

 本連載で前回、取り上げた松井秀のセリフだ。きょうは、その続編。ヤンキースタジアムへの道すがら、記者は31歳のスラッガーに、どこまで未来の可能性を信じるのか、尋ねてみた。

 「ホームランの数とかタイトルとか、そういう予想はできないけどね」ときたから、例によって漠然とした答えでかわされるのを覚悟した。

 ところが……。

 車のアクセルを踏み込みつつ、「おれ、いつかメジャーでMVP(リーグ最優秀選手)をとりたい」と継いだ。驚く記者に向かって“演説”を続ける。

 「ただし、優勝した上でね。一番、優勝チームに貢献したという選ばれ方で、MVPがほしい」

 不思議なぐらいに言葉があふれ出す。高速道路の渋滞が解消し、遅刻を免れると判断して、フッと気が緩んだのだろうか。

 ちなみに、MVPに対するあこがれは、可能性を信じる心と結びつけて構わない。なぜなら、「おれは、現実主義者。小学生時代は何にだってなれる自信があったよ。でも中学に入ったころかな、可能性を考えながら夢を思い描くようになった」そうだ。

 高校2年生でプロ入りの見込みがあると感じ、巨人1年目の9月に「二軍で練習したことを試合で出せるようになり、『やっていけるかも』と考えた」。

 1996年の日米野球に参加。「成長するために、大リーグを目標として掲げてもいいかなって思った。今になって振り返れば、そんな力はなかった。ちゃんちゃら、おかしいよね」

 おかしくない。7年後、自らへの期待が的を射ていたと、きっちり証明した。

 さて、MVPの話に戻る。

 「おれにとって日本でのベストシーズン、2000年なんだ」と打ち明けた。「プレーだけに集中できて、優勝してMVPもらって、日本シリーズも勝ってMVP。充実してたよ」

 02年もペナントレースを制し、MVPを受賞した。だが、「あの年は、ちょっと違う」と顔をしかめるあたりに、松井秀の価値観がにじみ出る。

 「FA(フリーエージェント)権を取ったでしょ。仲間に『FAのことを考えてるな』って少しでも悟られたら、士気に響く。それ、絶対に自分を許せないから、『FAは忘れるんだ』と言い聞かせてた」

 チーム第一――。ふだんは自然とわき起こってくる感情を、意識的に維持する。未体験の作業だ。たまらなく、息苦しかった。

 22日現在、ア・リーグ東地区首位のレッドソックスと3・5ゲーム差で、残り39試合。追う立場であるくせに、「根くらべだよ。我慢し切れなくなった方が落ちる。面白くなってきたぞ」と悲壮感のかけらもない。

 地区8連覇の自信は、ある。つまり、逆転優勝の可能性を背番号「55」は信じている。(田中富士雄)

2005年8月24日  読売新聞)
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