10年目 重圧から解放…イチロー(マリナーズ)とにかく明るい。練習中もチームメートに冗談を飛ばし、大きな笑い声を上げる。オープン戦が終わるとクラブハウスで、今季にエンゼルスから加入した俊足巧打のフィギンズ内野手らと軽口をたたき合う。 これまでのイチローは「孤高」のイメージが強かった。試合の時は誰よりも早く球場入りし、黙々と準備する職人肌の日本人選手に対し、周囲の人間は近寄りがたさを感じていた。今年はそのストイック(禁欲的)な雰囲気が薄れている。 ワカマツ監督を驚かせたことがあった。キャンプ前日の先月22日、クラブハウスに現れたイチローが仲間たちと、抱き合って再会を喜んでいたからだ。「チームとしてはいい兆候だ」。監督も満足そうにうなずいた。 イチローは言う。「(今年は)初めて力を抜けるんじゃないか」。昨季、9年連続シーズン200安打の大リーグ記録を更新した。ここ数年、常に記録に対する重圧と闘い続けてきたが、今年は重荷から解放された余裕が漂う。 もう一つ、チームにおける立場の変化も大きい。きっかけは昨年。かつてマリナーズの主砲だったグリフィーの古巣復帰だった。 通算600本塁打以上を放ち、ナインやファンから絶大な支持を集める主砲は、絶えずイチローに目をかけ、ナインの輪に引き入れようとし続けた。もともと実績では、チーム内でも抜きんでた2人。シーズン終盤には、グリフィーとともにイチローも輪の中心的な存在となっていた。今春はその傾向がさらに加速している。 「ナインを引っ張ってほしい」というイチローへの期待は、グリフィーだけでなく、ズレンシック・ゼネラルマネジャー(GM)や監督も同じだ。イチロー本人も「昨年戦ってきて、GMと監督の『人間を見る目』が(自分と)同じ価値観を持っている、という安心感がある」と、絶対的な信頼を受けていることを感じている。 今季は個人的な数字の目標を掲げていない。「見ている人の気持ちが動いてくれる瞬間が多ければいい」。〈記録〉から〈記憶〉の選手へ――。メジャー10年目を迎えたイチローが、変わろうとしている。 (2010年3月16日 読売新聞)
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