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    いまの10代がこれからの未来を創造するアイディアを競う未来創造コンテスト。

    「孤立」救うには…(2)老老介護の現状

    「多重介護」に直面 女性のケース

    • 昨年11月中旬に取材に応じ、介護の合間に読んでいた般若心経を手にする女性。拘置所でも写経をしていたという
      昨年11月中旬に取材に応じ、介護の合間に読んでいた般若心経を手にする女性。拘置所でも写経をしていたという

     日本では今も、親族や地域、そして社会から孤立した人たちがそれぞれ個別の事情を抱え、悩み、苦しみ続けている。

     コンテスト開催にあたり、編集室は、読売新聞社会面で展開中の大型連載「孤絶 家族内事件」で取り上げた事件当事者に改めて話を聞き、社会からの孤立に苦しみ続けてきた人たちの声を紹介する。初回は、高齢者世帯での「多重介護」に直面した女性の事例だ。

    長年の献身「否定」

    無理心中図り放火

     「介護は嫁がやるのが当たり前という感じでした」

     昨秋、東京・小菅の東京拘置所(こうちしょ)で記者の前に座った小柄な女性(69)は、事件の経緯(けいい)を語り始めた。自らの裁判員裁判の判決が、3日後に東京地裁で予定されていた。

     昨年2月、都内の自宅で、68歳だった当時の夫と無理心中しようと考え、寝室に火をつけた。現住建造物等放火と殺人未遂(みすい)の罪に問われ、検察は懲役(ちょうえき)5年を求刑した。

     女性を追い詰めたのは、長年の「ダブル介護」だった。

     50歳で結婚した時、同居する認知症の義母の介護は覚悟していた。

     3年後、夫が脳梗塞(こうそく)で倒れて徐々に右足が動かなくなり、義母も寝たきりになった。女性は朝6時に起き、2人の排せつの世話をした。体重44キロの体で85キロの夫を支え、2階から降ろして朝食を出す。午後のパートの後は夕食の準備、風呂――。寝るのは午前1時頃という日が続いた。

     義母の「ありがとう」という言葉が支えだった。

     「よく介護してもらったことで、風邪もひかず、体重も減らなかった」。義母のケアマネジャーだった男性は、女性をそう評価する。

     しかし、夫は「お茶がぬるい」など細かいことでつらく当たった。女性は眠れなくなり、精神安定剤や睡眠薬に頼った。安らぐのは介護の合間に般若(はんにゃ)心経(しんぎょう)を読む時だけだった。

     女性は事件の夜、夫との間に起きた三つの出来事を「引き金」に挙げる。夕食を「まずい」と怒られたこと。風呂場で髪の洗い方が悪いとたたかれたこと。寝室に行くと真っ暗だったこと。先に寝る夫は、いつもは電灯をつけておいてくれたという。

     存在を否定されたように感じた。「何もかも壊してしまおう」。納戸から灯油を取り出し、夫の布団の周りにまいた。ろうそくをそばに立て、自分も隣の布団に潜り込んだ。

     壁や天井が燃え、消防隊が消し止めて女性と義母は無事だったが、夫は約5か月のやけどを負った。女性は逮捕され、夫側の求めで離婚した。

     「介護を一人に任せないでください」。裁判で女性は涙を流した。多数の人命を(おびや)かしかねない放火は、重い刑になることが多い。裁判長は「重大さを分かっているのか」と問いつめた。

     判決は、「懲役3年、執行猶予(ゆうよ)5年」だった。

     執行猶予は有罪判決を受けた人が一定期間、再び罪を犯さなければ、刑の執行を猶予される制度。元夫が「釈放してやってほしい」と話していたことを()んだ寛大な判決だった。

     判決の2日後、拘置所を出た女性は病院へ向かった。元夫に謝罪すると、「お前の人生を台無しにしてごめん」と謝ってくれた。少し救われた気がした。

     独り暮らしを始めた女性は「介護の仕事をしようかな」と考えている。自身を振り返り、「追い詰められている人を一人にしたくない」と思うからだ。

    ◆この記事は2016年12月に読売新聞朝刊に掲載された連載「孤絶 家族内事件 介護の果て(3)」の記事に加筆・修正したものです。

    「一人じゃない」社会を築いて

    10代へメッセージ

     ダブル介護にひとり悩み続けた女性は、次世代を担う10代に何を伝えたいのか。メッセージをもらった。

     振り返ると、もう少し感謝やねぎらいの言葉があれば、違った結果になったのではないかと思います。

     夫のこともそうですが、地域の相談窓口でも「そんなに嫌なら、(家を)出て行けばいい」と心ない言葉をかけられました。すごく悔しかったし、それから、まわりに相談することができなくなりました。

     みなさんのまわりにも介護を担っている人がいると思います。できるだけ声をかけてほしいし、おじいちゃん、おばあちゃんが離れて住んでいるなら、月に1度でもいいから電話をしてあげてほしいです。

     介護を担う人が、自分は一人じゃないと思える社会を築いてほしいと思います。

    データから見る介護

    急速な高齢化が進む日本社会。みなさんの中にもきっと、親が祖父母の介護に悩んでいるという人もいるだろう。その中でも特に社会問題化しているのがお年寄りがお年寄りの介護をする「老老介護」の問題だ。データなどを基に現状を解説する。

    高齢世帯の54%

     国民生活基礎調査(2016年)によると、高齢者のみの世帯のうち、介護または支援を必要とする人(要介護者等)のいる世帯は54.5%。15年前と比べて20ポイント近くも増加した。

     また、60歳以上で介護または支援を必要とする人の7割で、60歳以上の人が主な介護の担い手になっており、介護者の高齢化は深刻な状況になっている。

    「ほぼ終日」22%

     国民生活基礎調査では、同居する人を介護している人の中で、1日の介護時間を「ほぼ終日」と答えたのは22.1%。この数値は、最も重い「要介護5」と認定された人を介護する人では54.6%に上った。

    5年で49万人離職

     総務省の調査では、離れて暮らす親を介護するためなど、介護・看護が理由で仕事を辞めた人は2012年までの5年間で約49万人。政府も「介護離職ゼロ」を掲げ、介護休業を取りやすくするなど、働きながら介護する人を支援する取り組みを始めている。

    考えるヒントに

    (1)みなさんのまわりに、介護を担っている人はいないだろうか。その人の負担を少しでも軽減するにはどんな取り組みやサービスがあったらよいか、具体的に考えてほしい。

    (2)介護も含め、家族内の悩みは人に相談しにくい、という人は少なくない。家族内の「SOS」を社会や地域がキャッチするにはどうすればいいだろう。高齢者世帯と地域社会とのつながりを作り出す具体的な方法を考えてほしい。

     ◆中高生未来創造コンテストの開催概要はこちら

    2017年08月18日 12時01分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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