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    いまの10代がこれからの未来を創造するアイディアを競う未来創造コンテスト。

    「孤立」救うには…(4)虐待の現状

    里親がくれた「僕の居場所」

    • 台所で里親の坂本さん(右)の手伝いをする広己さん。壁には知人が描いた2人の似顔絵が貼られていた(7月、東京都八王子市で)
      台所で里親の坂本さん(右)の手伝いをする広己さん。壁には知人が描いた2人の似顔絵が貼られていた(7月、東京都八王子市で)

     「社会から“孤立する人”をなくそう!」をテーマに、日本を変えるアイデアを募る「中高生未来創造コンテスト」の締め切りまで、あと半月ほどとなりました。読売新聞社会面で連載している「孤絶 家族内事件」で取り上げた事例をもとに、孤立社会・日本の現状を考える連載も今回で最終回。里親からの愛情で、新たな居場所と夢を見つけた大学生の物語を紹介します。

    母が育児放棄 3歳で施設に

     暴力や育児放棄などの虐待を受け、親らと一緒に暮らしていない子どもは全国で2万人を超える。この子どもたちを支えているのが、児童養護施設、そして里親(※)だ。

     東京都八王子市の大学4年生、針谷(はりや)広己(ひろき)さん(22)には、実の親の記憶がない。未婚で出産した母親は育児を放棄し、広己さんは3歳で保護された。ゴミだらけの部屋の冷蔵庫の中身はチョコレートだけだった、と後から聞いた。

     新しい家――八王子市の坂本洋子さん(60)宅にやって来たのは4歳の時だ。その日は暑く、お気に入りのTシャツを着ていたことをおぼろげに覚えている。

     里親の坂本さんは、引き取った当時の広己さんを「手足がかなり細く、おなかだけ出ていた。栄養状態が悪いことがすぐにわかった」と振り返る。

     当初、広己さんは言葉を発しなかった。間もなく坂本さんを「お母さん」と呼ぶようになったが、気にくわないことがあると暴れて坂本さんの腕にかみつくこともあった。他人におびえ、小学校でも最初は先生と手をつながないと教室に入れなかった。それでも、同居する似た境遇の年上の里子3人が優しく世話してくれるうち、少しずつ笑えるようになり、友達もできた。

     ただ、血のつながった親と暮らしていないことは、友達には言いだせなかった。「どうして自分はこんなふうに生まれたのか」と落ち込んだこともあった。

    見つけた夢 福祉の道へ

     転機は高校2年で、坂本さんの勧めでスタディーツアーに参加し、ネパールを訪れた時だ。その日の食べ物も十分にないのに、子どもたちが楽しそうな表情をしていることにショックを受けた。「自分はチャンスをもらえている。はい上がらなくちゃ」

     高校卒業後は福祉を学ぼうと、奨学金を得て大学に進学。地域全体で子どもを育てる街づくりに携わるという夢もできた。

     現在、坂本さんが運営するファミリーホーム(※)では、幼稚園に通う里子をお風呂に入れるのは広己さんの担当だ。みなで一緒にご飯を食べ、お風呂に入り、笑いあう。広己さんは、坂本さん宅で暮らしてきたことで、ごく普通の家庭の営みがもたらす安心感を知った。

     生みの母親への思いも変わってきた。おばから「普通に暮らしている」と聞いているが、それで十分だと思っている。

     「昔は存在自体がだめな人間だと思っていたけど、話を聞くと、単に子育てをする能力がなかっただけなんだなと思った。ないものねだりをしてもしょうがなくて、僕は今、自分の持っているもので勝負するしかない」。そして広己さんはこう続けた。「安心できる居場所ができたことで人生が変わった。お母さんには本当に感謝しています」

    里親


     虐待や貧困などを理由に親と暮らせなくなった子どもを預かり、育てる制度。家庭的な環境下で、里親からの愛情を受けて育つことで、子どもの自己肯定感や社会性を養えるというメリットがある。
     里親は児童相談所での研修などを経て、自治体に登録される。2015年度末で全国で1万679世帯が里親登録している。

    ファミリーホーム


     親と暮らせなくなった子ども5~6人が、里親経験者や児童養護施設などで働いた経験のある養育者とともに家庭で暮らす制度。15年度末で287か所ある。
     

    ◎この記事は2017年7月に読売新聞朝刊社会面に掲載された連載「孤絶 家族内事件 幼い犠牲(9)」をもとに作成したものです。 

    SOS 地域の大人がキャッチして

    広己さんからメッセージ

     虐待に苦しむ子どもたちを救うために、10代に伝えたいことは? 広己さんが自身の体験を踏まえ、語ってくれた。

     虐待を受けていることを他人に言うのはつらく、勇気がいることです。しかし、声を上げないと誰にも気付かれず、状況が良くなることは絶対にありません。

     虐待に苦しむ子どもが救われるには、家族以外の地域の大人に助けを求めることが重要です。それと同時に、近隣住民などまわりの大人も、そのSOSに気づくために、地域の子どもたちの存在に敏感に反応しなければなりません。地域で暮らす大人と子どもが深く関わりを持つようになってほしいと思っています。

     里親制度は、欧米では当たり前になっている制度です。子どもは家庭で育てることが大切との考えからなのですが、残念ながら、日本ではまだまだ浸透していません。自分もそうでしたが、里子であることを隠している子も少なくありません。

     日本ではいまだに異質な存在を受け入れない考えが根強いと感じます。多様な人を受け入れる社会になるよう、僕ら若い世代から発信しなければならないと思います。

    考えるヒント

    (1)虐待に苦しむ子の「SOS」を周りの大人が速やかにくみ取るには、どんな取り組みが必要だろうか。子どもと地域を結びつける方法を具体的に考えてほしい。

    (2)育児に悩みを抱える母親など、家族の中で孤立を深める人も少なくない。家族内のコミュニケーションを密にしたり、家族以外の人と気軽に悩みを共有したりするにはどうすればいいだろうか。

    ◆中高生未来創造コンテストの開催概要はこちら

    2017年10月13日 12時15分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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