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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    隅っこの強豪(4)

    千葉敬愛高 ソフトボール部

    こんな話です

     「全国制覇」を目指す千葉敬愛高ソフトボール部で、初心者ながら、“野人”というあだ名でチームのムードメーカーになっている雅行。この秋、強豪校を相手に、人生初ホームランを打つ大活躍を見せたのだが、その後に待っていたのは極度のスランプだった。

    ▽過去の連載

    隅っこの強豪(1)(2)(3)

    やっと初ヒット。2本目は全国で。

     スカーン!と秋晴れの空を切り裂いたあの打球。ボールを真芯で捉えたあの感覚。チームメートの唖然(あぜん)とした表情。

     人生初ホームランを放ったあの日、俺だけじゃなく、みんなが思ったはずだ。

     「野人、ついに覚醒!!」

     だけど、あれから1か月。俺は極度のスランプに陥っていた。また当たらなくなったのだ。

     理由は「力みすぎ」。キャプテンの勇気によると、大きな当たりを狙いすぎ、下からすくい上げるようなアッパースイングになっているのだとか。

     「う~ん。普通に振れば、飛ぶんだけどなぁ」

     勇気の残念な表情を何度、目にしたことか。新チーム初の公式戦、千葉県新人大会を迎えた頃、俺の初ホームランはほぼ“まぐれ扱い”になっていた。

    初スタメン

     3チームが総当たりで戦うこの大会は、来春の選抜出場権がかかる真剣勝負の場だ。

     だが、第1試合で俺がやったことといえば、試合前のノックで行方晋監督にボールを渡すことと、ベンチで大声を出すこと。チームはコールド勝ちしたが、歯がゆさだけが残った。

     迎えた第2試合。行方監督のサングラスがきらりと光った。 「おい、次行くぞ。『9番・ファースト』だ」

     え、まじ!? つ、ついに、公式戦初スタメン!? 突然の指名に俺の心臓は、ドラムをたたくようにドンドン鳴った。

     一回表、公式戦で初めて守備についた俺はいきなり、ヤジの洗礼を受けた。しかも、味方ベンチの行方監督から。

     「やまもとぉぉぉお、なんでミット使わんのかぁぁ?」(山本は俺の名字です)

     「すみません! ファーストミット使ったことないんです」

     「ファーストなんだからよ、ミット使えよ!」

     周囲でわき起こる苦笑。外野グラブをはめた俺は真っ赤な顔でプレーボールを迎えた。

     初仕事は思ったより早く訪れた。相手の先頭打者の打球がいきなりのセカンドゴロ。勇気から送られたボールを俺は愛用のグラブでしっかり受け止めた。よし、守備は上々だ。

    浮かれない

     その回の裏、味方打線が爆発し、俺にも打席が回ってきた。ベンチから飛ぶ「野人、体が前に突っ込んでるぞ!」の声。う~ん。まだ力んでるのかな。俺は打ち気にはやる気持ちを抑え、フォアボールを選んだ。

     ただ、やはりヒットはどうしてもほしい。二回裏の第2打席。「力むな。力むな」と唱えながら、相手投手の2球目を振り抜くと、キレイなライナー性の打球がセンター前へ。

     ベンチは「ナイスバッチーン」くらいで素っ気なかったけど、俺は心の中でガッツポーズした。だって、記念すべき公式戦初ヒット。チームの勝利にも少しは貢献できたと思う。

     表彰式。俺は初めてもらった金メダルにほおずりした。

     ただ、うちの部にはこの優勝に浮かれる者はいない。

     「大切なのは、全国で打つことだぞ」。俺をたしなめるように勇気も言う。

     試合を終えた俺たちはその日、当たり前のようにグラウンドで練習した。夕闇にいつものヤジが響き渡る。

     「へい、野人、しっかり打てよ!!」

    (高校生の登場人物はすべて仮名です。敬称略、完)(文・吉田拓矢 写真・武藤要)

    2016年12月26日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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