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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    隅っこの強豪(3)

    千葉敬愛高 ソフトボール部

    こんな話です

     初心者ながら全国レベルの強豪・千葉敬愛高ソフトボール部で奮闘する“野人”こと雅行。失敗ばかりだが、チームの行方晋監督は野人のある才能に(ひそ)かに期待を寄せていた。

    ▽過去の連載

    隅っこの強豪(1)(2)

    「当たれば」。証明のホームラン。

     トンネルの屈辱を味わう守備練習、素振りに等しいかすりもしない打撃練習、「へい、野人(やじん)」という厳しい突っ込み……。

     ど素人ながら、強豪ソフトボール部に入った俺が連日、味わい続ける試練だ。

     周りからは「よく頑張れるね」と言われることもある。確かに“あいつの存在”がなければ、今の俺はなかったかも。

     最大にして唯一の武器「フルスイング」がなければ――。

     俺に最初にフルスイングを勧めてくれたのは、ほかならぬ行方晋監督だ。

     当時の俺は、スピードボールはおろか、目の前からゆっくり投げられたボールを打ち返すトスバッティングですら空振りを繰り返していた。

     焦って、ボールに当てようとすればするほど、空振りが増える悪循環。だけど、ある日、行方監督は俺にこんなアドバイスをくれた。「当てることばかり意識すんな。空振りでもいいから、思い切り振ってみろ」

     仕切り直して、振ってみた。

     ビュン! 空振り。もう一度、

     ビュン! カーーン!!

     おっ、これまでにない、いい当たり。も、もしかしてこれ?

     監督は言った。「お前、当たれば飛びそうだよ」

    空振りの山

     インターハイで準優勝した3年生が引退した去年の秋。何かをつかんだはずの俺だったが、「当たれば飛びそう」という評価は相変わらずだった。何せ、当たらないのだから。

     いまいましいのは、同学年で新チームのエース春己(はるき)だ。普段はポーカーフェースのくせに、投げる瞬間は「うっし!」と気勢をあげ、最速120キロのストレートを繰り出してくる。

     「当たれば飛ぶ!!」。心の中でつぶやき、フルスイングする俺。でも見えてないから、当たるわけがない。俺は春己相手に毎日、空振りの山を築いた。

     入部1年で、俺の成績は、公式戦2試合に代打で出場。1打席は三振、もう1打席は当たるには当たったが、違う当たり方――デッドボールで終わった。

    夢じゃない

     俺にとってソフト部最後の1年が始まった今秋、チームは九州遠征に出た。千葉敬愛を含め、強豪チームが福岡県に集結しての強化試合。初戦の大村工業(長崎)戦で、行方監督はなぜか俺を5番で起用した。

     相手は去年の春の選抜優勝校。なぜ俺を? 目を白黒させていると、チームメートから声をかけられた。

     「相手投手は浮き上がるライズボールが多い。それを思い切り狙え」

     二回、迎えた第1打席、その初球だった。ボールが相手投手の手を離れた瞬間、わかった。

     春己ほど速くない。見える!!

     真ん中高めのライズボールをフルスイング。ライナー性の打球はアッという間にライトの頭上を越えていった。

     「あれっ?? あれれれっ!?」

     自分でも半信半疑ながら、全力疾走。ホームを踏んだ直後、ベンチからみんなが飛び出して来て、もみくちゃにされた。

     「すげーぞ、野人!!」

     外野の柵がないからランニングホームランで、行方監督は他のチームの監督にあいさつに行っていて、見てくれてなかったけど……。人生初ホームラン。すげーうれしかった。

     「当たれば飛ぶ」。“都市伝説化”寸前だった行方監督の見立てがついに現実のものとなった。(高校生の登場人物はすべて仮名です。敬称略)

    2016年12月22日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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