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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    瞬速の心技体(3)

    大阪市立白鷺中 テコンドー部

    こんな話です

     全国の公立中で唯一の白中テコンドー部は、顧問教諭の転勤により今年度いっぱいでの廃部が決定。“最後の世代”として入部した2年生のハヤオはリーチの長さを生かしてみるみると実力をつけ、3年の先輩たちとの最後の夏を迎えていた。

    ▽過去の連載

    瞬速の心技体(1)(2)

    先生が泣いた「最後の夏」。

     〈勝っておごらず、負けて腐らず〉

     顧問の舟戸(ふなと)(りょう)先生が所属するテコンドー道場の教えだ。心技体(しんぎたい)の「心」を説くこの言葉は僕らの胸に深く刻まれている。

     白中(シラチュー)テコンドー部にとって、最大の目標が夏の「全日本ジュニア選手権」だ。出場の条件は西日本3位以内。去年5月、兵庫県で行われた西日本大会で、僕は2年生ながら破竹の勢いで勝ち進み、53キロ級で見事、準優勝(!!)を果たした。

     武道初心者ながら、わずか1年での全国出場はまさに快挙。本来は跳び上がるほどうれしいはずだが、この日は正直、そんな気持ちにはなれなかった。

     当時の主将で、同じ階級に出場した小林先輩が優勝候補と1回戦で当たり、全国への切符を逃してしまったのだ。

     スピードのある蹴りが得意で、ライバル視していた先輩の敗北はショックだった。そして、先輩のリベンジと臨んだ53キロ級決勝で、僕もその選手にこっぴどくやられ、〈勝っておごらず〉を身をもって痛感した。

    気持ちは一つ

     それは西日本大会後のミーティング中の出来事だった。

     「俺、キャプテンなのに、負けてしまって……」

     全国に向けて練習に励む仲間たちを見て、小林先輩が寂しそうに言った。

     すると、普段はクールな舟戸先生がおもむろに口を開いた。

     「お前の気持ちは分かる。でも、俺たちの全日本はまだ終わっていない」

     驚くことに、先生の目には涙が浮かんでいた。そして、(しぼ)り出すような声でみんなに語りかけたのだ。

     「全日本は、全員で勝とう」

     いつもは熱気あふれる技術室にすすり泣きの声が上がった。

     僕は、テコンドーが楽しくて楽しくて、忘れていた。

     この夏が、先輩にも先生にも最後の夏だったことを。来年には、この部活も部室もなくなることを。そして、勝負とはそんな思いも容赦なく打ち砕く、残酷(ざんこく)なものだってことを。

     先生は、小林先輩と同じくらい悔しくて悲しかったんだ。

     全日本では頑張らなあかん。みんなの気持ちが一つにまとまった瞬間だった。

    負けて腐らず

     小林先輩に勝利をささげようと、3年生は7月の全日本ジュニアで恐るべき力を発揮した。

     男子49キロ級と57キロ級、57キロ超級で銀銅合わせて5個。地元の新聞には「メダル量産」の文字がおどった。白中テコンドー部は、設立3年目にしてその名を全国にとどろかせたのだ。

     えっ、僕? ……僕は残念ながら初戦敗退。ただ、一応、聞いてほしい。その相手は白中3年のエース・田村先輩だったんだ。多彩な技を持つ田村先輩を相手に、僕は延長の4ラウンドまで粘った。でも最後は痛烈(つうれつ)なモントン(胴)を食らって、負けちゃった。

     その田村先輩は、僕との激闘で足を痛め、次の試合で敗退した。少し気まずかったけど、夏休み明けに笑顔で声をかけられたんだ。

     「最後のキャプテン、がんばれよな!!」って。

      〈負けて腐らず〉

     たとえ負けても、全力を出し尽くした先にたどり着ける世界がある。そう感じた。

     (中学生の登場人物はすべて仮名です。敬称略)

    2017年04月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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