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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    瞬速の心技体(4)

    大阪市立白鷺中 テコンドー部

    こんな話です

     全国の公立中唯一の白中テコンドー部は、顧問教諭の異動に伴って今月いっぱいで廃部となる。輝かしい成績を残した先輩たちが引退し、2年のハヤオは、“最後の世代”を束ねるキャプテンとして、一歩を踏み出した。

    ▽過去の連載

    瞬速の心技体(1)(2)(3)

    僕らの「技術室」は、消えない。

     テコンドーは個人競技だ。

     でも白中(シラチュー)テコンドー部“最後の世代”となった僕ら5人は、チームワークもとびきりいい。

     それを高めたのが、去年10月の文化祭だ。前の年も先輩らが板割りなどのアクロバチックな演武(えんぶ)で会場を沸かせた。

     はっきり言って強さとはあまり関係ないのだが、やはり目立つのは気持ちがいい。大勢の前で技を披露(ひろう)する文化祭は、心技体(しんぎたい)の「心」と「技」を磨く上で重要なイベント……という理屈(りくつ)で、僕らはいつもの技術室で2週間以上も練習を積み重ねた。

    爆笑

     いよいよ迎えた本番。体育館を埋めた観衆(かんしゅう)を見て、僕らは「ハッ!! ハッ!!」と気合を入れた。よしっ、行こう!!

     見せ所はキョッパ(撃破)と呼ばれる演武だ。くす玉、(かわら)、バットなどを回し蹴りや前蹴り、パンチでド派手に割る。観衆からは「おおぉ」と声が上がった。

     エキストラに協力を(あお)いだ演武も人気だった。先生の頭の上にコップを置き、回し蹴りで刈り取るように、蹴り落とす。わっと拍手が起こり、会場のボルテージはMAXに達した。

     よ~し、いいぞ、いいぞ。

     でも、実は最も盛り上がったのは、5人で考えたオリジナルの「テコンドー寸劇(すんげき)」だ。

     まずヤンキー役のハルキが現れ、普通の生徒役のマコタとユウキにわざとらしくぶつかる。

     「どこ見て歩いとんねん!!」

     ドスのきいた声でほえ、ヤンキーハルキはナイフをシャキーン(おもちゃです)。不穏(ふおん)な空気が(ただよ)った次の瞬間……。

     「やめなさーい!」

     通りすがりのヒーロー、僕が登場するのである。襲いかかってきたハルキに蹴り一閃(いっせん)、得意のオルグル(顔)を食らわせる。

     「わーっ、ママーッ!(泣)」と叫びながら舞台(そで)に吹っ飛んでいったハルキ。あまりの弱さに会場はどっと()く。

     次に現れたのは黒ジャージーの“ボスキャラ”。マサトが演じるぶち切れモンスターマザーだ。

     「う~ちの息子にぃぃぃ、何してくれるんやぁぁぁ!!!」

     こいつは強そうだ、いや強いに違いない……観客の誰もがそう思った瞬間、僕がまたも必殺のオルグルで一蹴。再現VTRのように舞台袖に吹っ飛んだママを見て、会場は爆笑の(うず)に包まれた。

     「めっちゃウケてるで」

     白い歯を互いに見せ合う5人。顧問の舟戸(ふなと)(りょう)先生も「お前らアホやなー」と言いたげな顔で笑っていた。

    別れ

     舟戸先生が転勤でいなくなったら、僕ら5人の練習は毎週土曜、先生が所属する市内の道場での週1回だけになる。そしてテコンドー部の練習場になっていた技術室は、今月いっぱいで普通の技術室に戻る。

     夏はサウナのようにムシムシ、冬は隙間風(すきまかぜ)がピューピュー。すり足で指の皮がめくれ、蹴り技での突き指も数知れず。

     そんなたくさんの痛みがこの部屋に染み込んでいる。涙も、笑いも、喜びも全て。

     テコンドー部は廃部する。だけど、みんなとの思い出は消えない。だから最後の日は、いつも通り技術室を去りたいんだ。

     さあみんな。並ぼう。

     「チャリョ(気をつけ)!!」

     「キョンネ(礼)!!」

     先生。お世話になりました。

     (中学生の登場人物はすべて仮名です。敬称略、完)(文・増田知基、写真・菊政哲也)

    2017年04月02日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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