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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    俺の噺を聴け(3)

    浦和高(埼玉県) 落語研究部

    こんな話です

     部員全員が、学校のシンボル「銀杏亭」の名を持つ浦高オチケン(浦和高校落語研究部)。部長で3年の師弦らが学校外で開く寄席は、“ひと味違う”場所で行われてきた――。

    ▽過去の連載

    俺の噺を聴け(1)(2)

    定食屋寄席を生んだチュー文。

     エー、どうも。銀杏亭(いちょうてい)師弦(しげん)でございます。

     先週は、私どもの練習風景についてお話ししましたけれども、肝心の本番はどこでやるのか、なんて思った人も、全国に1人や2人いるかもしれません。

     寄席は文化祭とか、そういうお決まりの舞台でも開かれますが、浦高オチケンの名物と言えば、やはり地域の方に落語を聞いていただく「校外寄席(よせ)」でございましょう。

     特に毎年夏、地元・さいたま市の小さな定食屋でやる「浦高落研ライブ」は重要なイベント。何故(なぜ)、定食屋でやるのかというと、これまたワケがあります。

    アドリブ

     

     私の2つ上に、「銀杏亭棋楽(きらく)」先輩てのがいましてね。政治家になるのが夢で、今は早稲田大の弁論サークルで、落語とはちょいと異なるしゃべりの腕を磨いておられる努力家です。

     落研ライブは今から(さかのぼ)ること3年。高校2年だったこの先輩が、「よしつね家」という定食屋でメシを食っていたことに始まります。実はここ、棋楽先輩の小学校の同級生の実家。で、こんなやりとりがあった。

     常連「なんだ兄ちゃん、落語やってるらしいな」

     棋楽「えぇ、まあ」

     常連「なんか一つやってくれ」

     棋楽「ええええっ!?」

     いくら厳しい稽古を積んでいるとは言え、さすがにこれはムチャぶりです。でも、棋楽先輩、政治家が道ばたでやる(つじ)説法(せっぽう)よろしく、()(ばなし)を披露します。

     弟『大きなネズミを捕まえたんだ』

     兄『どれどれ……っておい、大きくねぇ。小せえよ』

     弟『いいや、大きいだろ』

     兄『いいや、小せえ!』

     弟『大きい!!』 兄『小せえ!!』

     弟『大きい!!』 兄『小せえ!!』

     すると、ネズミが一声。

     『チュー(中)』

     常連「アッハッハッ。面白いじゃないか、兄ちゃん。ほかの部員にもここで寄席をやってもらえねぇかな」

     棋楽「ええええっ!?」

    晴れ舞台

     

     そんなこんなで始まった「よしつね家」での落研ライブ。初回は2014年7月、お年寄り数人の前で開かれました。

     トップバッターは安定の長澤先生。まず「銀杏亭浄仏(じょうぶつ)」というお坊さんのような高座名に、お客さんがドッと沸きます。なにせ、ほんとにお坊さんのような髪形(?)なんですから、ちょっとずるいと言えばずるいのですが……。

     この日、棋楽先輩は「寿限無(じゅげむ)」を披露しました。自分の子に縁起の良い名前をつけようとした父親が、お寺のお坊さんに教えてもらっためでたい言葉を全部並べて長~い名前をつけてしまう古典落語の名作です。

     「寿限無寿限無、五劫(ごこう)()り切れ、海砂利(かいじゃり)水魚(すいぎょ)水行末(すいぎょうまつ)雲来末(うんらいまつ)風来末(ふうらいまつ)、食う寝るところに住むところ……」

     自分でつかんだ晴れ舞台。棋楽先輩、最大の見せ場である念仏みたいな長い名を一生懸命、唱えたそうです。その素晴らしい出来ばえは、今も落研ライブが毎年行われていることから、想像できますよね。

     そして後にその日を振り返って、こう言ったそうです。

     「いや、ほんと無我夢チュー(中)」……。

     おあとがよろしいようで。

    2017年09月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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