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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    五七五の世界(5)

    所沢高(埼玉県) 文芸部

    こんな話です

     「俳句で天下をとる」を合言葉に俳句漬けの毎日を送るユリに集大成の日がやってきた。俳句甲子園の地方大会だ。最高の仲間とともに全国まであと1勝という大勝負に臨む。

    ▽過去の連載

     五七五の世界(1)(2)(3)(4)

    夢破れ 消えぬ悔しさ いつか句に

     6月、ついに私の3年間の集大成――俳句甲子園地方大会がやってきた。

     私たちを見つめる会場の視線、チョー気持ちよかった。金髪や青いメッシュの髪、色違いのおそろのワンピース。うちの学校には服装に関する校則がない分、思いっきりカワイイ衣装にしてやったのだ。

     でも、それは私たちなりの覚悟の表れでもある。だって、見た目が派手なほど、負けたときみじめだから。

     会場には「応援団」も駆けつけてくれた。異動した山本純人先生、俳人の北大路翼さん、北大路さんの仲間たち。それから、校長先生まで(!)。やばい、なんかこれだけで私、おなかいっぱいかも。試合前なのに涙が出そうで困った。

    快進撃

     地方大会は埼玉、千葉、茨城県の4チームによるリーグ戦で行われ、優勝チームが全国大会への切符をつかむ。各試合は、大会前に与えられたお題をもとに作った3句ずつで争われ、2句を先に取れば、勝利だ。

     今大会、惨敗に終わった昨年がウソのように私たちは快進撃を見せた。最初の2試合で相手をストレート(2句連続勝利)で下す快勝! 客席からの「いいぞ!」の声にも力が入る。

     そして迎えた最終戦。相手の茨城県立結城第二高校は私たちと同じく、2勝0敗。つまり、この試合の勝者が優勝だ。

     試合前、「立夏」をテーマにした3句のオーダーを提出する。散々悩んだが、1本目をヨモギ、2本目をハナ、そして最後の3本目を私が詠んだ句にした。

    あと1本

     さすがにここは一筋縄ではいかなかった。1本目の『夏立ちてまだ聞かれない誕生日』は、新学期が始まったばかりの高校生の気持ちを詠んだいい句だったけど、惜しくも敗れた。

     後がない2本目。ハナの作品は『夏立ちて白きもの増す都心かな』

     相手チームが即座に質問をぶつけてくる。

     「白きもの、って何ですか」

     「白いシャツとか、太陽の光とかいろんなものです」

     「もっと具体的に言った方が良かったのでは」

     「全体的に白い、という意味であえて抽象的にしています」

     今思えば、焦っていたのかも。「白という色に生々しい感覚が表れている」とか、練習ではもっと説得力のある説明ができていたはずだった。

     「判定!」

     5人の審査員が勝ち負けを示す旗を上げる。1、2…私たちに旗を上げていたのは2人だけ。喜びを爆発させる相手が視界の隅に入った。あと1本、なんであと1本、こっちに…!

     「全国に一緒に行ってあげられなくて、ごめん」。ノドカが涙声でつぶやく。私はぶんぶん首を振った。「一緒に出てくれただけで…」。そこから先は、言葉にならなかった。

    『立夏待つばかりの腕になりにけり』

     全国への夢をかけるはずだった私の最後の句。半袖姿で夏を待ちわびる気持ちを詠んだ句だけど、私が望んだ夏は最後まで訪れることはなかった。この悔しさはきっと、私の心から消えることはないだろう。

     だけど、私は俳句を続けるつもり。今はまだ消化しきれないけど、いつかこの悔しさも俳句にしたいと思っているから。もちろん、ノドカたちや北大路さん、山本先生と一緒にね。

     (高校生の登場人物はすべて仮名です。完)(文・山口優夢 写真・松本拓也)

    2017年12月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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