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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    タスキはつながった(4)

    東海大付属福岡高(福岡県) 陸上競技部

    こんな話です

     東海大福岡陸上競技部はケニア人留学生キムンゲ・サイモンがケガから復帰し、京都・(みやこ)大路(おおじ)で開かれる全国大会への本格的な挑戦が始まった。サイモン効果もあって部員たちはメキメキ力を付けたが、新主将の上別府(かみべっぷ)は一人苦しんでいた。

    ▽過去の連載

     タスキはつながった(1)(2)(3)

    努力家の新主将。限界超えた走り

     「サイモンに頼るな」。この合言葉で部を引っ張った前主将の大保(だいほ)が実力とリーダーシップを兼ね備えたカリスマ型だとしたら、新チームの主将・上別府は努力家型だと、監督の田代は思う。

     才能豊かとは言えないけど、負けん気の強さで厳しい練習に食らいつき、2016年の全国高校駅伝・福岡県予選ではアンカーの座を勝ち取った。都大路への思いはひときわ強く、「全国を肌で感じたい」と直訴し、2年連続で京都まで観戦に行ったほどだ。

     そんな上別府率いる新チームがスローガンに掲げたのは「本質的な強さ」。練習前には円陣を組み、部員全員で「自己を高める集団であるよう努力しよう」と唱和するようになった。

     春にサイモンが練習に復帰してから、部員の成長曲線は急激に上がった。スーパーエースの背中を追ううちに、みなが次々に「自己ベスト」を更新していったのだ。

     特に3年のエース候補、小田部(こたべ)と次世代エース川添が、5000mを14分台で走れるようになったのは大きい。小田部に至っては夏の全国高校総体の3000m障害で決勝進出も果たした。

     そして、5000m13分台の高校トップクラスの記録を持つサイモンはもちろん絶好調。大けがによるブランクがあったにもかかわらず、夏の全国高校総体の5000mで決勝まで難なく勝ち上がり、周囲を驚かせた。

    心配な存在

     チームに手応えを感じ始めた田代だが、1人だけ心配な存在がいた。主将の上別府だ。

     春以来、ほかの部員が次々と自己ベストを更新していく中、上別府だけは伸び悩んでいた。もともと責任感が強いタイプ。主将としてチームを引っ張らなければという気持ちが焦りにつながり、本来の走りを見失っているようだった。

     そして夏、上別府は長野県・菅平高原で行う合宿のメンバーからも外れた。この合宿の目的は駅伝に向け、個々の能力アップを図ること。ここに参加できないということは事実上、「戦力外通告」なのだが、選考基準は純粋にタイム順。主将だからといって特別扱いするわけにはいかなかった。

     「引退したい」。そんな弱音を周囲に漏らし、普段は温厚なコーチの植木に「逃げるのか!」と叱責(しっせき)されたとも聞いた。それでも都大路への思いは誰よりも強いはずだ。「はい上がってこい」。田代は上別府の気持ちを信じた。

    運命の記録会

     県予選が間近に迫った10月、運命の日がやってきた。当落線上のメンバー選考を兼ねた記録会だ。過去の持ちタイムは関係なしの一発勝負。いま調子が良く、プレッシャーにも打ち勝てる選手が県予選の登録メンバーに選ばれる。

     スーパーエースのサイモン、同級生の小田部、後輩の川添……。チームに自分より才能がある選手がたくさんいるのはわかっている。それでも俺は都大路に出る。

     上別府はこの日、自分の限界を超える走りを見せた。

     「上別府、ラスト!!」

     仲間の声が聞こえ、最後の力を振り絞る。1秒、1秒を削る――。ゴールの瞬間、上別府はその場にへたりこんだ。

     福岡県予選前日の11月4日、田代は登録メンバーの一覧表を眺め、ほっと息をついた。

     「さぁ、いよいよ本番だ」

     そこには補欠ながら登録メンバーに滑り込んだ主将の名前もあった。(敬称略)

    2018年03月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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