私もおすすめします

人間のしなやかさ、新聞が育む

スポーツジャーナリスト 増田明美さん(50)

1980年代から90年代初頭にかけて、陸上女子の長距離種目で次々と記録を塗り替え、日本の女子陸上界を引っ張ってきた増田明美さん。引退後はスポーツジャーナリストとして健筆をふるい、読売新聞の「人生案内」では悩みを抱える人たちに温かい励ましの言葉をつづっています。読売中高生新聞の創刊準備号に目を通した増田さんが、陸上に熱中した自らの青春時代を思い出しながら、現在の中高生世代にエールを送ってくれました。


創刊準備号を読んだ印象を語る増田明美さん

――「読売中高生新聞」創刊準備号を見た印象を教えてください。
 とてもわかりやすい、読みやすいと思いました。科学の分野、社会の出来事、スポーツ、宇宙から世界のことまで、すべてが興味を持ってわくわくしながら見ることができます。デザインもすっきりしていますし、写真の並べ方や見出しのつけ方などもいいですね。それと、この『練習手帳』が面白かった。私が読売新聞で最初に読むのは『編集手帳』なんですね。いつもウィットに富んでいて、ユーモアもあって、私も文章を書いているのですが、構成なんかすごく参考になるんですよ。『練習手帳』ということで、書き出しはこんなふうに心がけるとか書いてあって、すごくいいアイデアですね。
――増田さんご自身は子どものころ、新聞を読んでいましたか。
 うちの父が本を読むのが好きで、ずっと読売新聞だったんですね。父は社説を必ず読んでいたので、私も中学生ぐらいのころから必ず社説を読むようにしていました。当時は今よりも文字が小さくて、子ども心に新聞って何か小さな字でつらつら書かれているなあっていう印象でした。社説を読んで旬な話題に関してぺらぺらしゃべっていたので、生意気な子どもに見えたかもしれません。
―― 初めて新聞に取り上げられた時のことを覚えていますか。
 中学2年の時に千葉県で行われた陸上競技の新人戦というのがあって、800メートルで優勝したんですよ。読売新聞の千葉版だったかしら。親が虫眼鏡を手に「載ってた、載ってた」って大騒ぎして、そしたら800メートル優勝、増田明美って1行だけ。名前だけだったけど、ものすごくうれしかった。多分うちにまだその記事あります。黄ばんでいるとは思いますけど。あの時は死んでもいいわって思うくらいうれしかったです。その後、写真付きで載ったのが高校に入ってから。兵庫リレーカーニバルという大会で日本記録を作った時です。日本人2位の選手に1周差をつけてもうびっくり。彗星(すいせい)のごとく現れるっていう見出しも素晴らしかったですけど、ゴールテープを切っている写真が載って有頂天になってしまいました。新聞に名前や写真を載せてもらえるのは、すごくいいことをするか、すごく悪いことをするかですものね。


現役時代の増田さん(1984年1月、大阪女子マラソンで)

―― 増田さんと同じようにスポーツに打ち込んでいる人の中には、練習が大変で新聞を読む時間なんてないという人がいるかもしれません。
 スポーツで成功するには、強さだけでなく情緒とか柔らかさ、つまり人間としての豊かさが必要です。それを育んでくれるのが新聞だと思います。新聞を読んでいれば世の中の出来事がわかり、その出来事を見ながら自分で考える習慣も生まれてきます。創刊準備号を読むと、全体のバランスがよくて、すべての分野から上手にエッセンスをとって旬な話題を紹介してくれているので、こういうのを読んでいると人としての総合力がつくはずです。スポーツに打ち込んでいる人にこそ、新聞を読んでほしいなあって思っています。
―― 新聞を読むことは競技をするうえでもプラスになりますか。
 スポーツをしていると必ずスランプや故障があります。苦しい時にどういうふうに気持ちを切り替えるか、そして再び目標に向かっていけるかといった時に真価が問われます。そんな時こそ自分の総合力を高める努力をしている選手と、勝てばいいんでしょ、記録を伸ばせばいいんでしょという選手には差がある気がします。私は父の影響で中学時代は新聞を読んでいましたけど、高校で先生のお宅に下宿してからは24時間選手でした。それで新聞を読む余裕すらなくなってしまって……。だから、オリンピックで棄権した時もそうでしたけど、苦しい時に折れてしまったんですね。宮本武蔵の本などは読んでいましたけど、道を極めるだけじゃなくて、人間としての柔軟性、しなやかさを育んでくれるのが新聞だと思います。私もずっと新聞を読んでいればオリンピックで失敗しなかったかもしれませんね。

小学生のころから新聞に親しんできたという茂木さん
紙面を見て「読みやすくわかりやすいですね」と語る増田さん

―― 今のことはアスリートを目指す人だけじゃなく、他の中高生にもあてはまりますね。
 芸術でも学業でも何をやるにしても、そればっかりじゃなくて、いろいろなものを吸収して人間としての基礎を作るうえで新聞はとても役に立ちます。創刊準備号に出ていたテニスの錦織圭選手にしても、ずっと順調だったかというと、そうではなくて、けがで苦しんだ時もあります。芸能のところを読むと、今輝いている方だって厳しい下積みの時代があったんだということが書いてあります。どこを切っても栄養になりますね。
―― 現在スポーツジャーナリストとして活動されていますが、新聞はどんな読み方をしていますか。
 最初に編集手帳を読んで、次に社説を読んでと読む順番はだいたい決まっています。その後に人生案内、生活面を読んで、最後にゆっくりスポーツをはじめ、気になる記事を読んでいくという感じです。普段から新聞は持ち歩いていますので、仕事の合間や新幹線での移動中に読んだり、たまに他紙と読み比べたりもしています。比べてみると、読売新聞はスポーツが厚いですね。小さなスペースの中でも結果だけでなく、必ず記者が取材した、とっておきのことが書いてあるんです。中身はちょっと監督から聞いた話だったり、選手から聞いた話だったりするのですが、それは記者の努力だと思います。マラソンなどで同じ現場で取材していると、記者同士で情報を交換し合っちゃうんですね。そうするとどの新聞も同じことが書いてあるということになるんですけど、読売新聞はここぞという時にとっておきのことを出してくるんです。中高生新聞も楽しみです。(聞き手・田口栄一)

ますだ あけみ

1964年千葉県生まれ。私立成田高校在学中に陸上長距離で次々と日本記録を樹立し、注目を集める。84年のロサンゼルス五輪ではメダルを期待されたが、無念の途中棄権。92年に引退するまでに日本記録12回、世界記録2回更新。現在は大阪芸術大学教授、スポーツジャーナリストとして執筆活動やマラソン・駅伝中継の解説に携わるほか、読売新聞「人生案内」の回答者も務めている。

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