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    経済

    イグノーベル賞が生んだ「涙の出ないタマネギ」

    読売新聞専門委員 東一真
    • 一見何の変哲もないタマネギですが、実は……
      一見何の変哲もないタマネギですが、実は……

     先日、東京都内の幾つかのスーパーで「切っても涙の出ない甘いタマネギ」が数量限定でテスト販売された。実はこれ、ハウス食品が開発し、特許を取得した、まったく新しい品種のタマネギだという。

     本当に涙が出ないのだろうか? 甘いのだろうか?

     ハウス食品本社で新品種のタマネギを見せてもらい、包丁で二つに切ってみた。顔に近づけてもツンとしないし、涙も出ない。次に、厚い輪切りにして、生で食べてみた。なんと、辛味がまったくなくて、むしろ甘い。果物を食べているようだ。

     「フルーツのようですね」というと、「そうでしょう。それがタマネギ本来の甘みなのです。辛味の成分でそれが覆い隠されていたのです」と、ハウス食品グループ本社広報・IR部の前澤壮太郎さんがドヤ顔で説明してくれた。

     今をさかのぼること14年。2002年にハウス食品の研究グループは、レトルトカレーの製造に使うタマネギの研究に関連して、タマネギを切った時に出る催涙成分の生成にはこれまで知られていなかった酵素が関与していることを突き止め、科学雑誌「ネイチャー」で発表した。

     ハウス食品は、この発見をもとに「涙の出ないタマネギ」の開発に着手。そして12年には、催涙成分の生成に必要な酵素が少ないタマネギを、品種改良によって作り出した。催涙成分はそのまま辛味成分なので、涙が出ないタマネギは、生で食べても甘いタマネギになった。

     翌13年には、02年に「ネイチャー」で発表したもともとの発見が、ノーベル賞のパロディー「イグノーベル化学賞」を受賞した。「タマネギが人を泣かせる生化学的なプロセスは、科学者が考えているより複雑であることを明らかにした」のが受賞の理由だという。

     ハウス食品は、このタマネギを「スマイルボール」と名づけて、北海道の農家に生産委託し、昨年秋に6トン程度をテスト販売した。今年は10トンを10月末から札幌、大阪、名古屋などで発売を始め、今月9日からは東京都内の幾つかのスーパーで売っている。どのスーパーかは、「テスト販売だし、量が少なく、すぐに売り切れる可能性もあるので、残念ながら公表していません」(前澤さん)。

     このタマネギ、今後は増産していく考えだ。「これまで弊社は加工食品ばかりでしたが、今後は素材ビジネスを育てていく計画で、このタマネギは中期計画(15~17年度)の新規事業として位置づけています」と、新規事業開発部の篠田正樹さん。

     ただ、加工製品とちがってタマネギの増産には、タネを増やさなければならず、時間がかかるという。17年度には100トン、19年度には1000トンの収穫を目指し、ゆくゆくは経営の柱にしたい考えだという。

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    2016年11月11日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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