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    スポーツ

    プロ野球、球の「伸び」と「キレ」の秘密が明らかに

    メディア局編集部 込山駿
     大谷翔平(日本ハム)と菅野智之(巨人)、伸びのある速球は、どちら? ダルビッシュ有(米・ドジャース)のスライダーが、ほかの投手よりも大きく曲がるのはどうして? プロ野球の一流投手たちの決め球の秘密が、科学的に解明される時代が訪れそうだ。スポーツ用品大手のミズノ(本社・大阪市住之江区)が、野球ボールの回転を解析できるセンサー内蔵球「MAQ(マキュー)」を開発したと発表した。2018年春の発売をめざしている。

    「伸びがある」は、球速と回転数の関係

    • 試投した感想を語る三浦さん
      試投した感想を語る三浦さん

     今月5日、東京・神宮外苑室内球技場。MAQ発表会の試投には、昨年シーズン限りでプロ野球を引退し、野球解説者に転じた三浦大輔さん(43)が登場した。球種を変えつつ、6球を投じて、ちょっと感慨深げな表情を浮かべた。

     「球の伸びやキレを数値にできる装置なんて、自分が若い頃はなかったからね。投げた自分の感覚や、受けたキャッチャーの評価を信じて練習していた。こうやって、スピードガンの球速表示以外の数値が出てくると、上達度や調子が分かりやすいはず」

     伸びのある直球、キレのいい変化球――。野球選手やファンが言葉で表すことはできても、これまでは数値化できなかった。その実現が、MAQの狙いだ。

     投げられたボールは、重力によって、下方に落ちる。スナップを利かせるなどして回転数を上げ、ボールにかかる揚力が増せば、まっすぐな軌道に近づく。研究・開発に協力した国学院大の神事努・准教授(38)(生体工学)によると、「回転数が多いほど、揚力が大きくなるので、直球はよく伸びる」。回転数が増せば、比例して速度も上がるが、そこには「球速が出ない割に回転数が多い」とか、逆に「球速がある割に回転数が少ない」といったばらつきが出る。前者、つまり「球速が出ない割に回転数が多い直球」が「伸びのある直球」なのだと、神事さんは語る。

    • 投球の軌道と回転数の関係を説明する国学院大の神事准教授
      投球の軌道と回転数の関係を説明する国学院大の神事准教授

     また、ボールの回転方向や回転軸の角度が変われば、それが球筋を変え、変化球となる。「ボールの回転と球速の組み合わせが、所属する競技レベルの平均から外れ、打者の予測しにくい軌道を描く変化球を、打者は『キレがいい』と感じる」と説明する。

    測定は簡単、MAQを投げるだけ

     MAQによるボール回転の計測は、簡単だ。マウンド間の距離(18.44メートル)で、投手が捕手のミットにMAQを投げ込むだけ。ボールに埋め込まれた超高感度センサーが取得したデータを、スマートフォンの専用アプリケーションと連動させれば、投球の「回転数」と「速度」、さらには回転軸の傾き角度が、その場で表示される。サイズ(直径72.9~74.8ミリ)、重さ(141.7~148.8グラム)、表面の素材(牛革)などは硬式球と同じだ。三浦さんは「投げ心地に、硬式球との違和感は全くない」と太鼓判を押した。

     三浦さんの試投は、ストレート、カーブ、フォークを2球ずつ。その球速と回転数の計測値を紹介しよう。

    (1)118.46キロ 30.51回転 直球

    (2)116.46キロ 30.76回転 直球

    (3) 76.30キロ 29.14回転 カーブ

    (4) 67.05キロ 28.24回転 カーブ

    (5) 88.51キロ  5.18回転 フォーク

    (6) 89.71キロ  4.25回転 フォーク

    ※回転数は毎秒

    • 試投する三浦さん
      試投する三浦さん

     直球の球速は、現役時代より20キロ以上、落ちただろうか。しかし、メリハリを利かせた球種ごとの投げ分けは、さすがに「ハマの番長」とファンに愛された右腕だ。その技術を、MAQは誰の目にも明らかな形で数値化した。カーブは、直球よりも40~50キロも遅いのに、回転数は約30でほぼ同じ。よくスピンが利いた両球種に対して、人さし指と中指の間からボールを抜くように投げるフォークは、中間くらいのスピードながら、回転数が6分の1ほどの5回前後にとどまる。

     試投に立ち会った神事さんも、驚きの声を上げた。「一般的なアマチュア投手が投じる116~118キロの直球は26~28回転にとどまるが、30回転を超えていて、まさに『伸びのある球』だ。球速を抑えたカーブに、これだけの回転数をかけるのも難しく、大きく曲がる理由がよく分かる。回転を殺したフォークも、低めにスッと沈む制球も含めて、お見事」

     ちなみに、プロ野球の投手が投げる平均的な直球は、140キロ台半ばで37回転ほど。直球の伸びに定評のある上原浩治投手(米・カブス)の場合は、約140キロで40回転ほどに達するという。

    学生でも買える価格に、来春発売

    • ワイヤレス充電器で充電中のMAQ。右は計測値を表示したスマホ
      ワイヤレス充電器で充電中のMAQ。右は計測値を表示したスマホ

     従来、ボールの回転数を計測するには、高額な製品しかなかった。今回、ミズノは学生や一般人でも買える価格にしようと、約3年半の研究開発をかけた。愛知製鋼(愛知県東海市)が開発した新センサーに、ボールの内部構造を工夫し、衝撃への耐久性を確保できたことで、商品化への道筋がついたという。ミズノの久保田憲史・執行役員は「MAQなら、プロ球団ばかりでなく、アマチュアにも普及しうる」とPRする。MAQは1個1万9800円で、別売りのワイヤレス充電器も1万5000円(ともに税別)、スマホの専用アプリは無料でダウンロードできる。久保田さんは「場所や時間の制約を受けず、選手は自身の投球の数値を把握しながら練習できる。監督・コーチも、伸びやキレといった感覚的な言葉ではなく、数値に裏付けされた指導が可能になる」と言葉を重ねた。

     ミズノは来春の発売までに、プロや大学の野球チームなどでの実証テストを加え、データの集積やシステムの改善を進めるという。現時点では、回転軸の計測と表示が、投手側から見た「2次元的な」角度のみだが、将来的には上から見た角度も含む「3次元的な」計測も可能にして、変化球の曲がり具合などを、さらに詳しく解明できるシステムを目指す。ソフトボールなど他競技での商品開発にも取り組む。

    • MAQの特徴を説明するミズノ執行役員の久保田さん(右)と担当者
      MAQの特徴を説明するミズノ執行役員の久保田さん(右)と担当者

     三浦さんは「プロ球団のスカウトにとって、(選手を選ぶ)いい参考になる数値を得られる装置かも」とも指摘した。MAQは、野球関係者の動きを大きく変える可能性を秘めたツールと言えそうだ。

    【追記】

     報道陣のMAQ体験会。44歳になる元高校軟式野球部員の記者が投じた渾身(こんしん)の一球は「78キロ、19回転」と表示された。草野球レベルで見ても、伸びを欠く「たれ球系ですね」とは、ミズノの担当者の評。高校時代、ベンチを温め続けた理由の一端が、今更のように見えてきた。

    【動画】

    2017年09月06日 12時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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