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    スポーツ

    難関のミドル級で初防衛、日本リングを照らす村田諒太

     力強く、しかも巧みな一撃で、世界チャンピオンらしい実力を見せつけた。世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王者の村田諒太(帝拳)は4月15日、横浜アリーナ(横浜市)で初防衛戦に臨み、同級6位のエマヌエーレ・ブランダムラ(イタリア)に8回TKOで快勝した。試合後は、米国の大物プロモーターが村田をミドル級の3団体統一王者と対戦させる構想も披露。減量トラブルで競技イメージの低下が懸念される日本ボクシング界に、明るい話題をもたらす貴重なスターだ。(読売新聞運動部・松田陽介)

    • 8回、村田諒太がブランダムラを攻めたてる(4月15日、横浜アリーナで)=守谷遼平撮影
      8回、村田諒太がブランダムラを攻めたてる(4月15日、横浜アリーナで)=守谷遼平撮影

    これまでにないパンチ軌道、優れた修正能力

     8回終盤。逃げ腰の戦いに終始してきたブランダムラを、村田がついにつかまえた。

     得意の右ストレートをカウンターで当て、連打をペースアップした。ロープ際へ逃れた挑戦者との間合いをすかさず詰めると、強烈な右パンチを顔面に見舞った。相手が膝から崩れると、村田は勝利を確信したように右手を挙げた。海外に強豪がひしめくミドル級での日本人ボクサーによる世界王座防衛成功は初めて。五輪金メダリスト兼世界王者が、新たな歴史を作った。

    • 村田の右を受けた挑戦者が膝をつき、そのままTKO決着
      村田の右を受けた挑戦者が膝をつき、そのままTKO決着

     フィニッシュブローは、挑戦者の顔を、側面から打ち抜いた。村田の攻撃は正面から突き刺すようなストレート系のパンチが中心で、今までにない軌道を描いた一撃だった。ただ、弧を描く軌道で外回りにヒットする典型的なフックとも言い切れないパンチだった。

     「ストレート」か「フック」か、新聞各紙も表記が分かれた。そこで、一夜明けての記者会見で、あのパンチは何だったのかと、改めて尋ねてみた。「あれはフックですね」と村田。右の上腕二頭筋、いわゆる「力こぶ」のあたりを示し「ここが筋肉痛なんですよ。それを考えるとフック」と語った。

     村田によると、相手がストレート系のパンチを警戒して、顔の前をガードしていたため、パンチの軌道を試合中に変えたという。「映像を見て『俺、こんな角度で打っていたんだ』と自分でも驚いた」と振り返った。その上で、「今までのKOとは違うパンチでのKO。(攻撃の)バリエーションは、あるに越したことはない。『どうせストレートだろう』と思われるより、『外側にも気をつけないと』と思わせた方がいい」と手応えを口にした。

     一方的な試合展開に持ち込みながら、攻撃が単発に終わる場面が目立った試合でもある。ただ、優れた修正能力を発揮し、攻撃の幅を広げたという収穫は、反省材料を補って余りある。帝拳の本田明彦会長も「(相手を)よくつかまえた。村田は本当に負けにくい選手。見た目の華麗さはないけど、(相手が村田に)勝つのは非常に難しい」と、手堅いボクシングに合格点を与えた。

    3冠ゴロフキンと東京ドーム決戦?

    • 一夜明け記者会見でほほ笑む村田(4月16日、都内で)=松田陽介撮影
      一夜明け記者会見でほほ笑む村田(4月16日、都内で)=松田陽介撮影

     昨年10月、WBAミドル級タイトルマッチでアッサン・エンダム(仏)との再戦を制し、日本選手では1995年の竹原慎二以来2人目のミドル級王座を獲得した。今回の試合会場・横浜アリーナは、竹原が初防衛戦でTKO負けした地でもあった。そんな因縁を快勝で払拭した村田は今後、どんな道を歩むのか。

     試合2日前の13日に行われた調印式には、村田と契約している米トップランク社の大物プロモーター、ボブ・アラム氏が出席。「何の合意も得られていない」と前置きしながら、「私の夢は、東京ドームで試合をすること。GGGを日本に呼んで、今年の冬にでも村田と対戦させたい」と語った。

     「GGG」とは、ミドル級最強とされる3団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)のこと。村田も、一緒に合宿をした経験があり、目標としてきた選手だ。「憧れの存在で、強さの象徴みたいなところもある。クリーンで、目標として掲げるのに理想的な選手だと思う」などと敬意を払う。

     村田の次戦は9月か10月頃、ボクシングの本場・米ラスベガスで米国選手と対戦する計画が浮上している。ゴロフキンとの決戦はまだ構想段階といえるが、ラスベガスで評価を上げれば、ビッグマッチの実現性はより高まるだろう。帝拳の本田会長も「なるべく早くやりたい」と、ゴロフキン戦に前向きな姿勢を示している。

     村田自身は、ゴロフキンとの現在の力関係をどう考えているのか。

     「やってみないと分からない」と言う。「エンダムとやったときだって、僕はエンダムに勝てるのかという話があった。実際に試合をやってみたら、2戦目のときは『勝って当たり前』という空気が流れた。このように、実力差はリングに上がってみて初めて分かる」。現実主義者の村田らしい答えだった。

    減量失敗問題の陰

    • まな弟子の減量失敗をわびる具志堅会長(4月14日)
      まな弟子の減量失敗をわびる具志堅会長(4月14日)

     今回の世界戦興行を巡っては、残念な出来事も起きた。村田の試合に先立って行われた世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチ。王者だった比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)は、日本で初めて体重超過によって世界王座を剥奪された選手として、ボクシング史に汚点を残すことになってしまった。

     14日の前日計量で、50.8キロの制限体重を900グラムもオーバー。2時間の猶予が与えられたが、再計量を断念し、体重超過により王座を剥奪された。具志堅用高会長は「あってはいけないことがあった。本人は汗が出ません。日本でこういうことが起こって大変申し訳ありません」と謝罪した。

     新たに設定された55.3キロの当日計量を何とかクリアし、試合は開催された。だが、比嘉のパンチに持ち前の破壊力はなく、動きにもキレを欠いた。9回TKOでプロ初黒星を喫し、目標だった16連続KOの日本記録更新は果たせなかった。

    • 体重オーバーを犯し、試合にも敗れた比嘉
      体重オーバーを犯し、試合にも敗れた比嘉

     日本ボクシングコミッション(JBC)から長期間の出場停止などの処分が下される可能性もある。数試合前から減量に四苦八苦してきた比嘉を、わずか2か月の試合間隔で村田の日程に合わせてリングに立たせた陣営のマッチメイクには、やはり無理があったということだろう。本人にも、何とか身を削ってみせる能力と、世界王者としての自覚を見せてほしかった。先輩王者たちが、壮絶な努力で築き上げてきたのが、日本人世界王者に計量失格ゼロという歴史にほかならない。22歳の若きハードパンチャーには、事態を真摯(しんし)に受け止め、乗り越えてもらいたい。

     そんな一戦があり、約1か月前には名チャンピオンだった山中慎介氏の現役ラストマッチだったWBCバンタム級戦で、対戦相手のルイス・ネリ(メキシコ)が比嘉以上に大幅な計量失格を犯したトラブルもあった。

     一連の不祥事と、村田の勝負は、あくまでも別の話として受け止められるべきではある。計量失格の再発防止策も、だれがどこでどんな試合結果を出すかとは関係のない、ボクシング界の急務だ。ただ、もしも村田が15日の世界戦に敗れてしまっていたならば、会場の空気は暗く沈み、ボクシングという競技に失望する人が続出しても不思議はなかった。

     快勝と、そのさわやかな笑顔によって、村田はあの夜、日本のリングを明るく照らした。

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    2018年04月19日 15時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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