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    ハーバード大ジャーナリズム研究所ニーマン・ラボの報告を読売新聞が邦訳しています。

    米メディア再編を加速する、3つの力学とは

    ケン・ドクター(米ジャーナリスト)
    • 効率化や規制緩和で、米メディアの再編が進んでいる(画像はイメージ)
      効率化や規制緩和で、米メディアの再編が進んでいる(画像はイメージ)

     米メディア大手メレディスが11月、出版大手タイムの発行済み全株式を総額28億ドルで買収した。この買収劇や、ウォルト・ディズニーと21世紀フォックスの交渉、額はぐっと小さくなるが複数の大手日刊紙の売却からも、以下の三つのフォルト・ライン(断層線)が拡大していく力による、より本格的なメディア再編の地殻変動が見て取れる。(注・本記事配信後の12月14日、ディズニーはフォックスの映画・テレビ部門などを総額661億ドルで買収すると発表した)

     第1は、規模が持つ圧倒的な価値だ。テレビや映画、デジタルニュースとも過度な競争にさらされ、各社はかつてない水準の効率化を図っている。効率の追求は規模への欲求に直結する。今は3大系列が全日刊紙の25%を所有し、通信・ケーブルテレビもベライゾン・コミュニケーションズ、AT&Tなど4社ががっちり固める。雑誌業界も3社が牛耳っており、地方テレビ局のほとんどはシンクレア・ブロードキャスト・グループなど4社の傘下に収まった。

     第2は、グーグル、フェイスブック両社によるデジタル広告の独占とその副産物だ。両社がデジタル広告市場を占有したことで、それ以外の企業はわずかな残りを分け合うしかなくなった。2016年の全米デジタル広告市場で、成長の89%はグーグルとフェイスブックが持って行った。

     第3は、連邦通信委員会(FCC)が進める規制緩和だ。少数の企業が地方テレビ業界を牛耳れるようになり、同一地域で一つの企業が新聞社とテレビ局を同時に所有することも認められることになった。

     メレディスとタイムの事例で、この3点を検証してみよう。メレディスの最高経営責任者(CEO)スティーブ・レイシー氏が、取引に関する哲学で中心に据えたのは規模の追求だ。レイシー氏は、買収によりメレディスは全媒体を通じて2億人と接点を持てるようになり、今後数年で経費を約5億ドル、削減できると説明した。

     今年第3四半期終了時点で、メレディス雑誌部門の収入は年初来2%減を記録した。紙媒体の広告は縮小し続けている。一方、デジタル広告はグーグルとフェイスブックが成長の9割を吸い上げてしまう状況で、収益を上げるのは難しい。

     さらにテレビ局による他のメディア所有や、一企業が同じ地域で新聞社とテレビ・ラジオ局両方を所有する「クロス・オーナーシップ」が可能になるような規制緩和が進んだ。メレディスは地方テレビ局を15局、所有している。買収前にデジタル部門の収益が25%しかなかったメレディスは、どこまでテレビに力を入れるか決断を迫られていた。テレビ局を新たに買うなら資金はどうするか。新しくパートナーになった、チャールズとデービッドのコーク兄弟傘下の投資会社はあてにできるか。あるいは、テレビ部門は売却して撤退した方がいいのか。つまるところ、メレディスのタイム買収では、規模、グーグルとフェイスブックの2社支配、FCCの規制緩和いずれもが決め手となった。

     ディズニーとフォックスの事例に目を転じると、ディズニーがインターネット動画配信サービスで、ネットフリックスに対抗できるような規模を求めていた点に注目が集まった。だがディズニーは、かつては花形だったが今や大苦境に陥っているスポーツチャンネルESPNとネットワークのABCを傘下に抱えて、グーグルとフェイスブック2社支配の損害を被る広告収入への依存度低下を目指している。

    • 一族で21世紀フォックスを率いるルパート・マードック氏(2009年の来日時に読売新聞が撮影)
      一族で21世紀フォックスを率いるルパート・マードック氏(2009年の来日時に読売新聞が撮影)

     フォックスを率いるルパート・マードック氏の一族がテレビ番組と配信のほとんどをディズニーに売っても、全国ネットのフォックスニュースとスポーツ、ビジネスの各チャンネルは手放さないだろう。FCCが「クロス・オーナーシップ」を認めれば、マードック氏は出版・新聞を主体とするメディア企業ニューズ・コーポレーション(有力経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを傘下に置く)と上記のフォックス系3チャンネルを再度結合しようとするのではないか。(注・FCCは12月16日、規制緩和を決定した)そうなれば、何かと問題が増えるばかりの広告ビジネスへの依存度を下げ、新聞などの購読料収入と、フォックスから地方局への再送信手数料の比重を増やそうとするだろう。

     あるいはマードック氏は、より多くの地方テレビ局を買収し、シンクレア・ブロードキャスト・グループなどの支配に挑もうとするかもしれない。それとも、「クロス・オーナーシップ」解禁を受け、再び大都市を市場とする新聞買収に乗り出すのか。2012年には、この規制のためにマードック氏のロサンゼルス・タイムズ買収計画は頓挫した。今は違う。

    (12月8日配信記事から抜粋。全文は こちら

    プロフィル
    ケン・ドクター( Ken Doctor
     米ジャーナリスト。報道機関のアナリストとしても知られ、「ニュースの経済学」などデータを駆使した歯切れのいいメディア評論には定評がある。「ニーマン・ラボ」には定期的に特別コラムを寄稿している。

    2017年12月28日 15時04分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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