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    ハーバード大ジャーナリズム研究所ニーマン・ラボの報告を読売新聞が邦訳しています。

    「あの記事の裏話を…」、読者と記者が電話でつながるNYタイムズ

    シャン・ワング(ニーマン・ラボ記者)

    内輪をのぞける電話会議

    • 米ニューヨーク・タイムズ紙は、記者が取材の舞台裏などを語る「電話会議」イベントを購読者に提供する(画像はイメージ)
      米ニューヨーク・タイムズ紙は、記者が取材の舞台裏などを語る「電話会議」イベントを購読者に提供する(画像はイメージ)

     カンファレンスコール(電話会議)と聞いて想像するのは、型通りの業務打ち合わせであったり、参加者たちの間で飛び交う「聞こえますか?」の声だったりするだろう。

     5月4日に米ニューヨーク・タイムズ紙が一部購読者のため開催した電話会議には、同紙でイスラム過激派組織「イスラム国」の取材を担当するルクミニ・カリマキ記者、(ポッドキャストの)プロデューサーで記者でもあるアンディ・ミルズ氏、国際部門編集幹部のジョディ・ルドレン氏が参加した。冒頭15分ほどは技術的トラブルのため何も聞こえず、電話をかけた購読者は困惑するはめになった。だが、ついに声が聞こえた。「どうやら我々は10分ほど、自分たちだけで会話していたようですね!」

     次の30分間、行われた電話会議は、通常とはまったく異なるものだった。カリマキ、ミルズ、ルドレンの3氏は旧知の友人同士のように話し続け、お互いをからかい合いもした(ミルズ氏は涙もろいとか、カリマキ記者は兵士も怖がって入らない部屋に突入して行くとか)。彼らは、同紙の「イスラム国」報道に関するポッドキャスト「カリフ制国家」の語り口がどうやって今の形になったのか、エンディングに流す音楽をどう決めたか、あるいは取材上の危険についても語り合った。同紙にオンレコ、つまり身分を明かして話すことで情報源となる人にどのような危険があり得るか理解してもらうよう努めていることについてもしゃべった。カリマキ記者は、同様のテーマでこれまでも多くの取材を受けたり講演したりしているが、いかにも「準備してきました」という風ではなく、生き生きと、まったく普段通り話しているように聞こえた。

    高まる関心に手応え

     同紙は、有料電子版プラン「オール・アクセス・プラス」か新聞の宅配契約を結んでいる購読者を対象にすでに約10回、こうした電話会議を主宰している。「イスラム国」以外にも、人種不平等の問題からテレビドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」、鎮痛剤オピオイドの副作用まで、幅広いテーマについて同紙の記者や編集者が話をしてきた。イベントマーケティング担当上級マネジャーのエリザベス・ワインスタイン氏によると、毎回数百人の購読者が電話をかけてくる。参加する人の層は「幅広く交ざり合って」おり、「イスラム国」の電話会議の時は、オランダから質問を寄せた人もいた。

     「ライブチャットもライブストリーミングも試し、今は電話会議を試験的に行っている。電話会議という形式自体が、ややアナログに思え、当初はどうなるか確信が持てなかった」とワインスタイン氏は語る。「だが、この『参加型ポッドキャスト』――私はそう考えているが――は、参加者数も、勢いも増している」

     同紙の電話会議では、編集者が司会役を務め、記者たちに取材の経緯を問い、続いてニューヨーク・タイムズのスタッフが操作するオンライン・ダッシュボードで聴取者からの質問を振り分け、受け付ける。ラジオ(の聴取者参加型トークショー)そのものではないか!

     電話会議は、有料購読者たちが後で聴くことができるよう録音される(もっとも、電話会議の多くは、同紙ホームページ上のイベント・コーナーに行けば、今なら誰でも聴くことができる)。

    リアルな現場感が好評

     「電話会議を始めたばかりのころ、ある記者が実際現場にいて、編集者は社内の席にいるという状態で行ったことがある。途中で記者からの電話が切れてしまい、恥ずかしいことになってしまったと我々はおののいた」と振り返るのはニューヨーク・タイムズ社の顧客担当上級部長のベン・コットン氏だ。「しかし、この電話会議に対しては非常に多くの肯定的な反応があった。記者が電波状態の悪い場所にいれば通話が途切れることもある。聴いていた人には、それがとてもリアルに感じられた。もちろんこうしたトラブルはあまり起きて欲しくないが、ジャーナリストの本当の日常が感じられたということだ」

     ニューヨーク・タイムズは、電子版のみの有料購読者を2018年1~3月期に13万9000人増やし、計約280万人とした。この購読者たちの興味を引きつけ、料金を払おうという気にさせるためにも、今後とも購読者向けサービスを幅広く強化していく方針だ。有料購読者のみが対象の電話会議のようなイベントをもっと幅広く宣伝し、有料購読者を増やし、既に購読している人に対しては、より上級のプランに変更させようと試行錯誤している。

    編集会議に読者招待のサービスも開始

     同社は、希望する有料購読者から抽選で各5人を選び、5月17、30両日には朝の社内編集会議に招待する計画もある。

     「編集会議では多大なエネルギーと労力を使ってニュースの優先順位を決める。これに購読者が大変な興味を持つことに気付いた」とコットン氏は語る。「編集会議に初めて足を踏み入れた人が、我々の仕事の一端を見て、その最良の部分を味わえるようにする。我々は常時、それが誰からであれ、アイデアを募っている。読者参加型イベントは一層、進化していくだろう」

    (5月7日配信記事から抜粋。全文は こちら

    プロフィル
    シャン・ワング( Shan Wang
     ニーマン・ラボ記者。ラボに参加するまではハーバード大の学生紙やボストンのローカルメディアなどで活躍した。生まれは中国・上海だが、米東部マサチューセッツ州などで育つ。プロバスケットボールの熱烈なファン。

    2018年05月15日 14時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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