戯曲・シナリオ賞 唐十郎「泥人魚」
舞台の魔術師 集大成
天草の一揆と特攻隊の人間魚雷と浦上天主堂上空の原爆炸裂(さくれつ)と諫早湾の干拓を一気に吹き寄せ、それらをすばやく捩(ね)じ曲げ切り刻み、その上で一切を鮮やかに繋(つな)ぎ合わせて、だれも見たことのない演劇的時空間を創り出す。トタン板を打楽器から詩人のための鏡に変え、さらに海を切断するシャッターに変形させる。湯タンポを人間魚雷に見立てると、実際にそれは人間魚雷としか見えなくなる。ウドンの紐(ひも)とゴム長靴は電話線になり、すぐさま両性の性器に成り代わる。いつもみごとな唐魔術である。そして「生きている証しの、人生色のウンコ」といったような、独特の詩情と叙情とユーモア。これは、すぐれた劇詩人で、かつ舞台の魔術師の唐十郎の集大成である。(井上ひさし)
から・じゅうろう 作家・演出家・俳優、横浜国大教授。1940年東京都生まれ。戯曲に「少女仮面」(岸田国士戯曲賞)、「糸女郎」など。「佐川君からの手紙」で芥川賞。劇団唐組主宰。