評論・伝記賞 沼野充義「ユートピア文学論」
ロシア革命を解読
十九世紀末のロシア、東欧には、おびただしいユートピア文学の蓄積があった。SF小説、幻想旅行記など、現実を一気に否定し、理想郷への飛躍をめざす衝動の表現だが、じつはロシア革命はこのユートピア憧憬(しょうけい)の一変形にすぎなかった。その証拠に革命に伴って花開いたロシア前衛芸術と、悪名高い社会主義リアリズムは、意外にも同質の精神に貫かれていた。どちらも反近代の主張であり、個人主義と現実的改革にたいする懐疑の表明であった。この本は通念に果敢に挑戦する試みだが、克明な作品の渉猟と分析が著者の新説をみごとに支えている。読者はロシア世界の理解を深めるとともに、それに逆照射された近代化への認識を新たにすることができる。(山崎 正和)
ぬまの・みつよし 1954年東京都生まれ。東大、ハーバード大などを経て、東大文学部助教授。専門はロシア東欧文学。2002年「徹夜の塊 亡命文学論」でサントリー学芸賞を受賞。