小説賞 小川洋子「博士の愛した数式」
数学の言葉 詩のよう
一見、無味乾燥に見える数式が、こんなにも豊かで美しいものだったのか。
「数式ってきれいだわ。神秘的なレースの模様みたい」とは、小川さんの『凍りついた香り』に出てくる印象的な言葉だが、『博士の愛した数式』は前作をさらに深め、素晴しい作品になっている。
現実社会には生きられない数学の天才と、家政婦の「私」、その子供。三人が数式への愛情によって結ばれ、夢のような聖家族を作ってゆく。
「整数」「素数」といった数学の言葉が、次第に詩の言葉に思えてくる。とりわけ「友愛数」なるものの素晴しさ。これまでなかった小説で、実に新鮮。小川さんはみごとに新境地を開いた。(川本 三郎)
おがわ・ようこ 作家。1962年岡山市生まれ。早稲田大文学部卒。88年、海燕新人文学賞でデビュー。「妊娠カレンダー」で91年に芥川賞。著書に「余白の愛」「やさしい訴え」など多数。