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随筆・紀行賞 若島正「乱視読者の英米短篇講義」

知的快楽の時もたらす

 この著書で気の向くままに語られている英米短篇をめぐる話は、読者に知的快楽の時をもたらしてくれる。これほどの魅力のある随筆にはなかなか出会えるものではない。

 例えば、ヴァージニア・ウルフは〈その本性としておよそ短篇小説を組み立てることには不向き〉であり、短篇らしい短篇を求めてウルフを読んでも仕方がないとしてから、彼女の短篇『書かれなかった長篇小説』を取りあげた項では、その深まりと展(ひろ)がりにスリルを覚えるほど。著者の並々ならぬ英米短篇愛、豊富な知識と読書体験、そして有機的で溌剌(はつらつ)とした発想が、常に楽しく感じられる。文章は垢(あか)抜けしている。

 標題中の〈講義〉には、心にくい韜晦(とうかい)をふと想ったくらいであった。(河野多惠子)

 わかしま・ただし 1952年京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科教授。専門は英米文学。「乱視読者の帰還」で本格ミステリ大賞評論・研究部門。著書に「乱視読者の冒険」など。


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