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    スマートニュース

    ジャーナリズムを細らせない…スマートニュース(後編)

    前編から続く)

    ユーザーの課金モデルに順応

    • 社内の書架には雑誌や新聞が常に置かれ、自由に読める
      社内の書架には雑誌や新聞が常に置かれ、自由に読める

    ――見事に業態を変えたところとは、どこですか?

     もちろん、ゲーム業界です。ユーザーに合わせる彼らの進化や適応力はものすごいものがあります。昔のゲームは、わざわざゲームセンターに行って100円払って遊ぶものでした。それが、家にゲーム機が入って来るようになってテレビにつながれた。それはゲームをする機会が増えたということなんです。だから産業として大きくなった。ビジネスモデルは、「1回ごとに100円を払う」から、「数千円のカートリッジを買う」モデルになった。単価の変化はありましたが、そのモデルは今も続いています。

    ――そして、スマホゲームが登場した。

     はい。スマホになって変わったことは、課金方法が変わったということです。5000円払っていたものが、なぜか払わずに遊べるようになった。ゲームはただでインストールできて遊べるが、ある一定の水準までいくと、それ以上進めなくなります。その時に、100円払えば進めるようになる。やがてまた進めなくなる。また100円払って進める。それを繰り返して、51回課金が回れば、それ以上はカートリッジを売るよりゲーム会社はもうかる。それは時代の変化です。家でゲームをやらなくなりました。なので、スマホというところでゲームをやるようになりました。また、一気に5000円を払うほどの経済的余裕がなくなった。なので、小分けにして課金している。

    ――ユーザーの行動とユーザーのお金の使い方の変化に、ゲーム産業はうまく適応したということですか?

     はじめからそれを狙っていたかは別として、適応したのは事実です。では、ニュースという側面で見るとどうでしょう。「ニュースは本当に読まれなくなったのか」ということです。ニュースが読まれる状況を、僕たちは正確に把握しているんだろうか、ということですね。それをちゃんと理解したうえで、ユーザーが「ニュースが欲しい」「絶対に読まなきゃ」というタイミングを作り出していくことが重要です。もっとも、そこから継続的にニュースをつないでいくということも大事ですが。

    続報を発信できているか

    • 「事件の第一報だけでなく、続報を追い続けることが大切」
      「事件の第一報だけでなく、続報を追い続けることが大切」

    ――ニュースを発生時だけでなく、継続して発信していくことが重要だという指摘は同感です。たとえば先ごろ、相模原市の障がい者施設で痛ましい事件が起こりました。その時は膨大なツイートがあり、ツイート量を参考にするアルゴリズムで動くサイトですと、ニュースも当然上位に来るでしょう。ただ、これから大事なのは、なぜあの事件が起こったのか、障がい者行政がどうなっているか、全国の施設がどういう状況にあるのか、といったことです。事件そのものに比べれば、それは地味な記事です。それでも新聞社はそうした記事を大きく扱う。そこが、WEBのニュースサイトと新聞社との違いかもしれない。そして、ツイート量でニュースの重要度が判断されるようになったことが、弊害をもたらしているのではないかという危惧もあります。

     そうですね、大きな事件はユーザーの興味をすごく引く。だから、事件が起きて、犯人が捕まりました、というところまでは報道しますが、犯人はなぜそのことを行い、人となりはどうで、判決はどうで、その後どうなったかということまでフォローできているだろうかということです。新聞社は当然していますが、オンラインニュースは、発生時だけ報道して終わり、ということになりすぎているとは思います。なぜそうなっているかというと、ページビュー至上主義がすごく影響していることは否めません

    ――ユーザーのニーズばかりを追い求めると、そのような結果になりませんか?

     ただ、理解してほしいのは、新聞の読者が1000万世帯あっても、1000万というかたまりが1個あるわけではないんです。一つずつ1000万通りの個があるということです。すべての人に届けるべきというニュースもあるでしょうが、ある人の1面はこれですが、別の人にはこのニュースがふさわしい、という点も重要だと思います。大事なのはバランスです。そして、インターネットだと、チューニングしながら、よりよいバランスを見つけ出すことができる。新聞は輪転機が回ったらもう変えられないでしょうが、今はトップ記事ですら柔軟に変えることができるんです。

    「取材とお金」の難しい関係

    ――(前編で)利益の奪い合いのような議論をしましたが、実際問題として取材にはものすごく手間とお金がかかります。たとえば、東日本大震災のような災害の時、新聞社はあらゆる人的、物的資源を総動員して取材を試みます。とにかく被災地に行って、何とかしてそこで起こっていることを取材するわけです。新幹線や高速道路が使えなければ、ある記者は日本海側からタクシーで入るとか、北海道から入るとか、ヘリやジェットを飛ばし、ホテルを押さえ、取材に必要な燃料、食料、物資を送って取材します。どこの社も「お金かけすぎかな」とは絶対に考えません。とにかく取材が第一ですから。今はそれができていますが、新聞社の経営が厳しくなると、そこの部分がだんだんへたってくるのではと心配です。

     何も地震報道に限らず、日々の報道でも、ジャーナリズムが細るとまずいと思います。皆さんは、この取材部分にはタッチせず、出てきた記事だけをもらって商売をしている。そして当然、皆さんは企業として利益の最大化を考えるでしょうから、ビジネスの観点から記事1本1本に値段をつける。それはとうてい、取材経費をまかなえる金額にはなりません。だからどうしても、パブリッシャーサイドの不満となって、「経費がかかっているんだから、記事1本1本を高く評価してよ」という声になる。そこが議論がかみ合わない理由になっていますよね。

    • 「ビジネスはトータルで成立するもの」
      「ビジネスはトータルで成立するもの」

     それは分かりますが、新聞記事も経費がかかるもの、かからないものがあって、トータルとしてビジネスが成立しているわけですよね。それが、いつかはインターネット全体にも広まって、すべてがトータルで成立するようになるのではないか、ということ以外の答えを、僕は持ち合わせていません。雑誌社も同じで、有名なのがマガジンハウスの雑誌『ブルータス』です。号によって「売るブルータス」「売らないブルータス」というのが明確にあって、トータルとしてちゃんと継続的にお客さんに満足を与え、なおかつ雑誌発行を維持できるようにしている。僕は、必ずしも素晴らしい記事が一番読まれるとは思っていません。だからこそ、僕たちとしては、(トータルで良い記事が生まれる環境を作るために)ビジネスを共同で作っていく必要があると強く感じています。

    2016年09月14日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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