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    ドワンゴ

    人間関係を壊す人工知能…ドワンゴ(前編)

     ネット業界にかかわる当事者へのインタビュー「YOL-ON」。第2回は、株式会社ドワンゴ代表取締役会長で、カドカワ株式会社代表取締役社長の、川上量生氏に聞きます。

    歌舞伎座タワー カドカワ株式会社(東京都中央区)で

    聞き手・読売新聞メディア局編集部長 原田康久

    政党支持率がニュース源で変わる?

    • ドワンゴが運営する動画サイト「niconico(ニコニコ動画)」のトップページ
      ドワンゴが運営する動画サイト「niconico(ニコニコ動画)」のトップページ

    ――ネットを舞台に様々な事業を展開している川上さんにまずうかがいたいのは、ネットがここまで進んできた中での世論形成のありかたについてです。日本のネットユーザーが軟派な記事を好み、受動的にニュースに接しているというデータもありますし、どうも世論形成が偏っているのではないかという指摘もある。いったい今、ネットの中で何が起きているのか。そして、川上さんは『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波新書)の中で大胆にネットの未来を語っていますが、本が出てわずか1年で早くもいろんな状況が変化している。改めて、ネットの未来像をお聞きしたいと思います。

     日本でネットの政党支持率のアンケートを集計すれば一目瞭然なんですけれど、新聞を重要なニュース源と思っている人、テレビを重要なニュース源と思っている人、ネットを一番と思っている人とでは、政党支持率が全然違うんですよ。ネットだと自民党が増え、極端に民進党が減るんですよね。つまり、どういう情報をどこから得ているのかで、人間の考えはまず変わる。全く変わってくるんです。メディアの状況によって、人の価値観や考え方が左右されているということですよ。

     もう一つは、ネットを信じる人の特徴というと、既存メディアに対する不信感がすごく強い。それが正しいかどうかは別にして、「情報をコントロールされている」と思い込んでいる人が多いのは事実としてあります。

    ――ネットでは自分たちが発信者にもなれるので、自分に近いところにある媒体、自分にとっても信用できる媒体という感覚があるんでしょうか?

    • 対談する川上社長(右)と原田部長
      対談する川上社長(右)と原田部長

     陰謀論に陥る人とか、世の中にある情報が正しくないと思っている人は、既存メディアからの情報とは別のものを探し始めます。その結果、たどり着いたネット情報の方を信じてしまう、ということが多い。ところが、今はだんだんネットの情報も信用できないよ、といった感じになってきている。今はそうした過程にあると思います。確かに、五輪のエンブレム問題はネットが火をつけました。そして、騒動の結果、どんなかっこいいエンブレムになったというかというと、「あれ?」っていう感じになった。「はて、僕たちは何をやったんだろう」と思っている人は多いようです。都知事の問題もそうです。ネットが火をつけたわけではないが、「こんな人(前都知事)は絶対やめさせるべき」とネットでも大騒ぎになって、結局、前都知事は辞職し、そして3人が有力候補として出てきた。その顔ぶれを見た時にふと、「たたいておろした」ことに果たして意味はあったのか、という声がネットの中で声が出ています。

    ――「たたいておろして気持ちよかった」では終わらなくなった?

     結局どうなったのか、というところまで冷静に見るようになってきたということでしょう。そしてついに、「既存メディアVSネットメディア」ではなく、ネットメディアも含めて、メディア全体への不信感が広がっているのではないかと思います。

    社会の「バラバラ化」が止まらない

    ――そうなると、何を信じるようになるんでしょう?

     自分の信じたいものを信じるんじゃないんですか。信じるものがどんどんバラバラになっていくということでしょう。

    ――そうするとつまり、社会がバラバラになってしまう。もはや社会の体をなさないということではないですか?

     バラバラになったら、それはもう「社会」じゃないのかと言えば、異論も含めて色々な意見があると思います。ただ、とりあえず社会全体の総意としての世論という意味では、もはやコントロールは不可能になっていくでしょうね。

    ――社会がバラバラになってしまった世界とはどのようなものなのでしょうか。なかなか想像はつきにくいですが。

    • 「世論はもはやコントロール不能になるだろう」
      「世論はもはやコントロール不能になるだろう」

     もうすでに、半分そうなっていますよ。ネットの中でも既に価値観が多様化している。今やネットにも絶対的なメディアは存在しない。もともと趣味も多様化している中で、ネットがさらにそれを助長した。後戻りはできない形で進行していると思います。そして、その先に何があるかは、もうSFになってしまいます。では、どうなっていくのか。すでにいろいろなジャンルで起こっている問題なんですけれど、例えば、ライトノベルの分野で言うと、今は売れるための絶対の方法があるんです。

    ――軽いタッチで描かれた、若年層向きの小説ですね。

     ライトノベルの主人公は努力しちゃダメなんです。読む側が自分を投影できなくなるからです。ヒロインは都合よく向こうからやってくる。超能力などの能力は、いつのまにか勝手に身についている。今のライトノベルの多くが、そういう設定で書かれていますよ。

    ――恋人や能力を努力して勝ち取るのではなく、何もしなくても、いつの間にか恋人と能力を手に入れているという設定でないと売れないということですか。その努力の過程こそが、今までは物語の根幹だったはずなのに。

     そうです。今は努力できる立派な人物が主人公だと、読む側が気後れして感情移入できないんですよ。主人公は読者と同じ等身大の人間。そして、主人公に都合のいい物語を求める傾向が進んできた。文学の世界でもそうなってきていると思います。これらはネットの影響が大きいと僕は思います。つまり、ユーザーが自分の好むメディア、自分に都合のよい物語を選び始めているということです。もちろん昔から、人々は基本的に自分にとって心地よいメディアを選んできたわけですが、まだ選択肢が少なかった。ところが今は、どんどんパーソナライズ化が進んできて、自分が信じたい情報、接したい情報だけが集まってくるようにするということが、ネットを通じてできるようになったということです。

    ――それが行き着く先には何があるんですか

     最終的に人間は、人工知能によって作られた情報に酔いしれるようになるでしょうね。今でも、Webにはリコメンド機能というのがあって、「ユーザーが好きそうな情報」が出てくるようになっています。そのうち人工知能は高度化し、どんどん機能が進んでいって、嫌な情報は出さない、という徹底した環境が作れるようになるでしょう。そしてそれを、人間自身が望んでいるんですね。たとえば、「口コミ」の拡張であるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は今、人間と人間をつないでいるんですが、これは歴史的には過渡期であって、そのうち人間同士はつながらなくなると思いますよ。

    ――どういうことですか?

     今でもチャット(※)の世界では、「りんな」(※)のようなサービスが結構いい線まで来ています。そうすると、やがて人々は人間同士の付き合いというストレスから逃げ始めると思います。生身の人間はなかなか自分に合わせてはくれませんが、人工知能はいつでもこちらの都合に合わせてくれる。やがてSNSは、人工知能とつながるためのツールに変貌を遂げていって、人間同士のつきあいは希薄になっていくと思いますよ。

    ※チャット=ネット上で交わされるリアルタイムのコミュニケーション

    ※「りんな」=マイクロソフト社によるサービス。女子高生という設定の人工知能とリアルタイムで会話することができる

    2016年09月27日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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