基準は「僕が感動するか」
高い水準を保ち続ける加藤健一事務所の舞台は、プロデューサーでもあるこの人の作品選びが出発点だ。年間200本近くの戯曲を読み、3本に絞り込む。その基準は、「僕が感動するかどうか」だ。
受賞作は、音楽の都・ウィーンを舞台に、落ちぶれた声楽教授と、彼のレッスンを受けることになった天才ピアニストとの葛藤(かっとう)を描いた2人芝居。
「レッスンを通じて、2人が人間的に成長し合っていく。その過程が面白い。そして、忌まわしい過去を昇華させ、希望を勝ち取っていく姿に感動した」
シューマンの甘く切ないメロディーに乗って芝居が進む。「音楽と芝居。力のある二つの表現が一緒になるのだから、間違いなくいい舞台になる」。これは、プロデューサーの目線だ。
しかし、心配もあった。ひとつは劇中で、加藤が歌曲を歌わなければならなかったこと。もうひとつは、強制収容所やナチスなど、2人の背景に重い事実があることがわかっていくため、「どこまで娯楽劇として楽しめるか」だった。
一昨年から5本続けて新作を上演してきた。しかし、「いける」と思った舞台で、少しずつ観客が減っていたことも、この心配に拍車をかけた。
迎えた初日。幕が下りると同時に、日本では珍しい「ブラボー」の声が飛び交った。立ち上がって拍手する観客までいる。
「すぐに再演を決めました」。2006年の再演に向けて、今も週一回の声楽レッスンを欠かさない。
受賞を「難しいことに挑戦する勇気がわいてきた」と受け止める。来年は個人事務所を設立して25周年。当初は1人芝居「審判」を上演するためだった。記念の年に再びこの芝居に挑戦する。54歳。「体力が持つかな」とあごひげを優しくなでた。
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