「次、準備しよう」大杉漣さんは言葉を残し佐向大監督は不敵な快作を撮った…足立智充さん・玉置玲央さん主演「夜を走る」

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 真っ暗闇の現実世界への愛想づかしか、挑戦状か。気鋭、 佐向(さこう)(だい) 監督・脚本による最新作「夜を走る」は、ぶっ飛んだ快作だ。実は10年前の大杉漣さんの言葉をきっかけに始まった企画。「今、自分が見たいもの」を撮ったという佐向監督へのインタビュー、鮮烈な演技を見せた主演の足立智充さん、玉置玲央さんの対談を通して、作品を掘り下げる。(編集委員 恩田泰子)

映画「夜を走る」の佐向大監督(中央)と主演の足立智充さん(左)、玉置玲央さん(右)=桐山弘太撮影
映画「夜を走る」の佐向大監督(中央)と主演の足立智充さん(左)、玉置玲央さん(右)=桐山弘太撮影

スクラップ工場で働く2人の男

 「夜を走る」の中心人物は、郊外のスクラップ工場で働く2人の男だ。そのうち、足立さん演じる秋本は、40歳を過ぎて独身、うまく立ち回ることのできない不器用な男。玉置さんが演じる谷口は、要領がよく、妻子持ちだが浮気をしていたりもする。いずれにせよ代わり映えのしない日常を送っていた2人は、ある夜、取り返しのつかない罪を背負う。車に死体を積んで走り出した2人の日常は、意外な方向へ転がっていく。

 佐向監督は1971年生まれ。自主制作したロードムービー「まだ楽園」(2006年)で評判を集め、「ランニング・オン・エンプティ」(10年)で商業デビュー。大杉漣さんの初プロデュース作品にして最後の主演映画となった前作「教誨師」(18年)も高く評価された。

映画「夜を走る」メインビジュアル(C)2021「夜を走る」製作委員会
映画「夜を走る」メインビジュアル(C)2021「夜を走る」製作委員会

始まりは10年前の会話

 実はその「教誨師」よりも先に、この「夜を走る」を大杉さんプロデュースで作る企画を進めていた時期があった。始まりは2012年、大杉さんから「映画作ろうよ、今、考えている企画ないの?」と尋ねられ、佐向監督が構想を伝えたのがきっかけだった。当時、大杉さんの事務所に所属していて、そのワークショップ後にみんなで食事をしていた時のことだ。 紆余(うよ) 曲折を経て実現に至らず、「教誨師」を撮ることになった。

 その「教誨師」の試写を見た後、大杉さんは笑顔で言ったという。「佐向くん、次、準備しよう」。「(大杉さんは)厳密にこの作品をやろうと思ったつもりは、おそらくなかったと思うんです。けれども、『夜を走る』もあるし、という感じでお話しされていた」と佐向監督は振り返る。

 大杉さんは「教誨師」の公開を待たずに18年2月に急逝した。「大杉さんも亡くなって、自分の中では、これは終わったものというか、ほかの作品のこともいろいろ考えていたんですけれど、どうしても引っかかる、これ完成させないと何か心残りだなと思って、自分の中でもう一回(脚本を)ブラッシュアップさせていこうと考えたんです。まずは自分が見たいもの、今やりたいものをやらなきゃって」。19年ごろから本格的に動き出した。

佐向大監督=桐山弘太撮影
佐向大監督=桐山弘太撮影

閉塞した社会に「もう、ふざけんな」

 映画の真ん中に男が2人、それぞれ、どう世界に 対峙(たいじ) するのか――。佐向監督は自主制作時代からそれを描いてきた。本作もしかり。「秋本と谷口は、裏表の関係。2人で1人のイメージ」だ。取り返しのつかない罪を背負った夜を境に、気楽に生きていたはずの谷口は日常にしがみつこうとし、秋本は逆にどんどん日常から逸脱していく。

 秋本はもともとは「空っぽの存在」だという。「いい人でもないし、悪い人でもない。とにかく平穏に、社会のルールにのっとって生きていこうとしているだけ。でも、あの夜の出来事、そしてある施設に入ることによって、(空っぽの自分の中に)負の空気を取り込んでしまう」

 その「負の空気」とは、日本を含めた今の世界に漂い、 閉塞(へいそく) 感や対立をもたらしているものを指す。「悪意や敵対心というよりも、みんなが『自分は正しいんだ』って意識がすごく強くなってきているんじゃないかと。『自分は正しい、なんでそれがわからないんだ』とか、『なんでほかの宗教を信じるんだ』とか、みんなが正義を主張し始め、他者に対して不寛容になって壁を作っていく」

 それを突き破っていくには――。この映画は、劇映画ならではのやり方で描いていく。「普通、『もっと頑張ろうよ』とか『ポジティブになろうよ』って話になってくると思うんですけれど、でも、みんなもう頑張ってるし、頑張ろうと何しようとダメなものはダメ。そんなのうそでしかないし、もう、ふざけんなって思いがすごくあって。それだったら、秋本っていう空っぽの存在に負の空気をためて、その負のエネルギーのまま、どこか飛び越えるようなものが作れないかな、と思ったんです」

 変わらなくてはいけないはずなのに、閉塞したままの現実世界に対する「三下り半」のような映画ともいえる。「本当は最後、宇宙に飛び出て地球にさよならしてるってカットにできないかなって話をしていたんですよ」

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