極彩色の「おくのほそ道」に導かれ…旅ラン〈下〉
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マラソン大会と異なり、訪れたい場所で自由気ままに走る「旅ラン」。名勝だらけの東北は、そんなランニングにぴったりの場所だ。祝日の11月3日、国内有数の紅葉名所とされる「鳴子峡」がある、宮城県大崎市に向かった。

絶景の鳴子峡、気になる案内板が…

気合を入れて起床し、午前7時前には鳴子温泉近くの無料駐車場に到着した。走り出してすぐ、国道47号を山形方面にわずか数百メートルで「鳴子峡」に至った。渓谷上部にかかる橋の上から、色とりどりの木々が覆う大岩壁を一望できる。一角には渓谷の最深部を横切るJR陸羽東線の鉄橋を見下ろせる絶好のポイントがあり、鉄橋を通過する列車を撮影しようとする大勢の鉄道ファンが、三脚をセットして待ち構える。大事件を取材する報道陣のようだ。

「芭蕉が歩いた古道」
周辺案内の看板に、気になる表示があった。「おくのほそ道」。押し寄せるマイカーをさばく交通整理員の男性に尋ねたら、国道沿いの山中を山形方面に延びる遊歩道で、芭蕉が平泉から歩いた古道なのだという。これはぜひ歩き、いや走らねばならない。ごった返す橋を後にして、山に分け入った。
未舗装の道が次第に細くなる。極彩色の山々を背にした牧草地の脇を抜けると、いよいよ山道めいてきて、車は入れなくなる。ここからが本領らしい。「おくのほそ道」の表示が立っている。人っ子一人いない。鳴子峡の混雑がうそのようだ。走っても迷惑をかけることはないだろう。「おくのほそ道」は、トレイルランニングにも向いているのだ。

見事な紅葉、思わず立ち止まる
意気込んで走り出したが、すぐスローダウンした。きついのではない。紅葉が見事すぎるのだ。100メートル走るごとに立ち止まり、写真を撮る。大きく枝を伸ばした見事なナラやブナの黄に、カエデやニレなどの赤、常緑樹の緑が加わる。地面には鮮やかな色を残した落ち葉が重なり、上下左右どこを見ても錦の世界だ。こんな光景を独り占めするぜいたくは、なかなかない。

名句への道のりは遠し
芭蕉がこの地を通過したのは夏場だった。解説書によると、風雨に見舞われ、数日間にわたり国ざかいの山中の家に滞在した芭蕉は、人馬同居の家屋を題材に、とてつもなくワイルドな句を残した。
風雨とまではいかないが、時雨がやってきた。山形県境を越えたあたりで「ほそ道たどり」を打ち切り、すぐ下の国道を出発地まで駆け降りる。走行距離は16・6キロ・メートル。写真休憩が多すぎて、3時間もかかった。歩いているのとほとんど変わらないペースになってしまったが、旅ランではこういうこともある。
あとは温泉だ。鳴子温泉付近では、9種類の異なる泉質の湯が出るという。せっかくなので、硫黄泉の湯とアルカリ泉の2施設をはしご。湯船の中で、思い浮かんだ名句の後半をまねてみた。
「体にしみいる鳴子の湯」……お粗末すぎる。
(「旅ラン」は今回でおわりです。〈上〉はこちら)
