急速に進む少子高齢化、認知症高齢者の増加は日本の大きな社会課題であり、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)やグループホームの充実が求められています。かつて、子ども向け学習書出版のイメージが強かった学研グループは、現在では、高齢者向け施設を全国に展開し、国内のトップオペレーターに成長しています。日本政策投資銀行は、学研グループとの業務資本提携に基づくサ高住の開発支援などを通じて、医療・介護分野の基盤整備と社会保障制度の安定化に貢献しています。学研ホールディングスの小早川仁・取締役常務執行役員にお話を伺いました。
小早川仁・株式会社学研ホールディングス取締役常務執行役員
学研グループが医療福祉事業を始めたのは2004年です。私はもともと、家庭用の子ども向け学習雑誌「学習」と「科学」などの販売を担当していましたが、少子化の影響で売り上げは減少傾向でした。家庭を訪問しても高齢者には会えますが、子どもには会えません。そこで、高齢者の声を、徹底的に聞いてみると、出てきたのは老後への不安でした。当時、高級な有料老人ホームが次々と建設されていました。
一方、「学習」「科学」の元読者や読者の親世代の多くは、厚生年金の平均的な額を受給するミドル層です。そこから、日本の多くを占めるミドル層が安心して暮らせる住まいを作ろうと考えたのです。現在、サービス付き高齢者向け住宅を中心とする「ココファン」、認知症高齢者グループホームの「愛の家」を合わせて、学研グループでは37都道府県で約600拠点展開しています(運営拠点数1位)。
高橋耕司・株式会社日本政策投資銀行企業金融第6部長
日本の高齢化社会はさらに進行し、2040年代にピークを迎えると予測される一方で、高齢者向け施設の数は足りません。日本政策投資銀行(以下DBJ)ヘルスケア室は「医療・介護分野の基盤整備」と「社会保障制度の安定化」に貢献することをミッションに掲げ、課題解決に資する取り組みを推進する事業者への投融資に注力しています。学研グループはサ高住やグループホームの国内トップオペレーターであり、良質な高齢者施設を運営しています。
また、社会保障費を効率的に活用するビジネスモデルを構築しています。DBJのファイナンス面の支援が社会課題解決につながるという意味で、学研グループは最も重要なパートナーの一つです。
小早川 高い評価をいただき、ありがとうございます。介護サービスの費用は1~3割の利用者負担と介護保険という社会保障費によって賄われています。介護保険制度の本来のあり方は自立支援です。入居者の方には、自立した質の高い生活を送っていただくことができるよう、ご本人の能力をできるだけ生かしながら、出来ないところを社会保障でケアしていくべきだと考えています。それによって、ご本人の健康寿命も延び、経済的負担も楽になるだけでなく、国の社会保障制度も持続可能になります。
学研の企業としての成長が、効果的な貢献につながる
高橋 DBJは、信頼できるビジネスモデルに基づく良質な高齢者住宅の整備を図る観点から、2018年に学研グループと業務資本提携を実施しました。高まる介護サービス需要の受け皿として、学研グループは、先ほどお話がありましたとおり、高齢者のボリュームゾーンとなる、ミドル層への利用者負担を抑えたサービスを提供するという考えをお持ちです。DBJが提供できるファイナンス面でのサービスやM&Aのご紹介などで学研グループの成長を支援することで、社会課題の解決に効果的に貢献できるとの判断がありました。
小早川 2018年頃、学研グループは大きな投資の決断を迫られていました。認知症の高齢者が増加していく中で、M&Aによって、質の高い認知症ケアのノウハウを持つ企業の事業承継を検討し始めたのです。ただ、我々だけでは資金の調達能力には限界があり、DBJから共同投資を決断していただきました。こうしてM&Aを実行し、その会社をグループに招き入れたことがその後の連携体制の強化につながっています。
多世代が安心して暮らせる「学研版地域包括ケアシステム」
高橋 0歳から100歳を超える高齢者までを対象にした「学研版地域包括ケアシステム」は、教育事業から始まった学研ならではのユニークな考え方だと思います。学研の高齢者施設を見学したところ、高齢者と子どもたちが楽しそうに交流していて、とても明るい雰囲気でした。
小早川 政府の「地域包括ケアシステム」は、75歳以上の人が安心して地域の中で暮らし続けるために、住まい、医療、見守り、介護などのサービスを整備する、という話です。それは大切なことですが、地域の中には、子どもを預ける場所がなくて困っている保護者や、障害があって就労できない人もいます。
学研グループでは、保育園の運営をはじめ、学童保育施設や児童発達支援施設も運営しています。また学びの場として学研教室や進学塾、担い手不足が社会課題となっている介護士や保育士の養成事業といった大人の学びも提供しています。さらには高齢者施設に加え最期のお見送りとして家族葬も始めました。地域に住む全ての世代、あらゆる心身状態の人が、安心して暮らし続けられる街作りに貢献するのが「学研版地域包括ケアシステム」です。
ファンドによる不動産流動化で成長がスムーズに
高橋 学研グループが施設を自社で保有し続ける場合、投資資金の回収がある程度進捗するまで新たな施設開発投資を行うことにつき財務面で制約が生じてしまいます。DBJは、学研グループが運営するサ高住「ココファン」を長期・安定的に保有することを目的に組成した私募ファンド「ココファンド」を通じて学研が所有する高齢者住宅の買い取りを実施しています。これによって、学研グループは早い段階で投資資金を回収して、得た資金で次のプロジェクトを手掛けることができますので、事業の成長スピードが速くなる効果があります。
スピード感を持って、共に社会課題の解決へ
小早川 団塊の世代が後期高齢者となる2025年から先も、高齢者の住まいやサービスの需要はますます拡大するでしょう。今後はグローバルでの展開も視野に入れて、積極的にサービスの供給量を増やしていきたいと考えています。DBJからの支援によって、我々の事業にスピード感とボリューム感が生まれています。引き続き、応援していただければ幸いです。
高橋 DBJは他の銀行と比べて、融資だけではなく投資も積極的に取り組んでいます。私募ファンドを通じた学研が所有する住宅の買い取りなど、ファイナンス面での様々なアプローチで学研の成長戦略に貢献できるよう、これからも努めてまいります。